Love song 〜我が愛しき人よ・・・〜


第4話  想い


「みんな集まったな」
集合をかけた張本人である時が、後輩の姿を見て満足そうに笑っていた。
「・・・で、ここで肝だめしを?」
学校の校舎を見つめながら一条は時に聞いた。
そこはとても静かだった。
どこか現実離れしていて、入ってはいけないところに迷い込んだみたいな・・・。
そんな不思議な気分だった。
「いや、ここじゃねえよ」
「は? じゃあ、どこでやるのさ?」
それまでみんなと話していた糸をはじめ、部員一同怪訝な顔をした。
「せっかく近くにいいところがあるんだ。そこに行こうぜっ!」
「・・・まさか!?」
みんなの顔色が青くなった。
「あそこじゃありませんよね!? 時先輩・・・」
「さあ、どうだろうな」
「?」
その場で一条だけが状況を飲み込めていなかった。




「これはまた・・・」
目の前に建つ洋館は、いかにもな雰囲気を漂わせていた。
学校から歩いて10分ほどの場所。
すでに廃屋となって長いのだろう。あちこちに傷みがあって荒れ果てていた。
「もしかして、ここで?」
一条は隣に立つ時を見る。
「ああ、まさにその通り」
「マジか!? 嘘だろ〜!」
「ここって出るって噂じゃん!」
「いわくつきの方がスリルがあっていいだろう?」
嫌がる部員達をよそに、やたらと楽しそうな顔をしていた。
「さて、くじを引いて順番を決めようぜ」
いつの間に用意していたのか、時はみんなにくじを引かせた。
「ルールは至って簡単。館の中を一周してくるだけでいい」
「っていってもなあ。こんな広いと・・・」
「・・・できれば入りたくないな」
くじを引いた部員達は、館を見ながらつぶやいた。
一番手は与四郎・美咲ペア。
二番手は時・伸子ペア。
そして、一条は三番手で、相手は真琴だった。
くじは先に女性が引き、そして後に男性が引いた。
そうすることで、ある目的が遂行されていることを女達は知るよしもなかった。
「・・・なーんか、しっくりこないんだよな」
「糸さん?」
すでに二番手まで出発したところで、糸がぼやいた。
「今までだったら、時ちゃんいろんな手を使ってなんかしてきたから」
「今回はなかったものね」
「かえって不気味だ・・・」
「私は糸さんが何もなくて安心だけど?」
真琴は、糸が時とペアにならなかったことに安堵していた。
もっとも、今回は自分が仕組まれていたことに真琴は気づいていなかった。
「真琴さん、俺たちの番だよ」
「あ、はい。じゃあ、糸さん行って来るね」
「ああ。気をつけてな」
この二人は本当に仲がいいな・・・そんなことを思いながら、一条は扉の前に立った。
「さて、行こうか」
扉を開けて二人は中に入る。
そこは外の明かりも入らない真っ暗な世界だった。
「どっちからいきます?」
懐中電灯を左右に照らし、真琴が一条に聞いた。
「そうだな・・・」
考えながら真琴の方を見る。
怖がっている様子はこれっぽっちも見られない。
それどころか、こんな状況でもいつもと変わらずに落ち着き払っていた。
「右に行こう」
長い廊下へと続く右に進路を決めて、二人は歩き出した。
古いせいなのだろう、時々床がきしんだ。
前の組の姿は見えなかった。
広いとはいっても家の中だ。どこかで遭遇する可能性は高い。
少しの間無言で歩いていた二人だが、ふと一条が口を開いた。
「・・・君は怖くないのかい?」
先ほどの真琴を思い出す。
普通女性はこういう場面では怖がるものだ。
なのに、そういった様子はまるでなかった。
だから不思議に思ってつい口にしてしまった。
「ええ。それほど怖くはないです」
「・・・そうか」
騒ぎ立てて進めないよりはいい。
それにしても家の中はかなり広かった。
廊下は突き当たって左に続いていた。
そのまま進む。
ドアが所々にあったが、二人は中に入ることなく進んでいた。
そんな廊下にもなにやら気味の悪い絵や、置物などが置いてある。
それがより一層、この館の雰囲気を作り出していた。



『・・・見つけた』



「え?」
「どうかしたのかい?」
真琴は何か声を聞いたような気がして、振り向いた。
しかし誰もいない。後の組ではないようだった。
「一条先輩、何か言いました?」
「いや、何も言ってないが・・・」
「・・・そうですか」
真琴は困惑した表情をしていた。
彼女は何かを聞いたのだろうか・・・?
自分は何も分からなかったが。
「ねえ、真琴さんはどうして役者になりたいんだい?」
途切れかけた会話をつなぐように、なるべく明るいトーンで話し掛ける。
「・・・・・・」
「言いたくないことだったら別に答えなくてもかまわないが・・・」
何も言ってこない真琴を見て、一条はそんな事を言った。
「いえ、別にそんなことはないです。・・・ただ、いきなりだったから」
「そうかい?」




『・・・やっと、君を見つけた・・・』



形のない黒い影が前を歩く二人を見つめていた。
いや、その視線は金髪の少女の方だけを見ていた。
背が高く、とても綺麗な金髪をしている少女。
黒い影は音もなく、その少女の後ろを追いかける。


「役者になりたいっていうのは、初めて自分でもった夢なんです」
そう言った真琴の表情は、初めて会ったときと同じで生き生きしていた。
何よりも演じることを楽しそうにしていた彼女を、一条は思い出す。
「夢か・・・」
「ええ。自分の可能性を自分自身でためしたいって思ってます」
「そうか。お互い頑張ろう」
「はい」
そして、進んでいた二人の目に、不自然に開いたドアがあるのが見えた。
「・・・前の人が隠れてるのか?」
一条が真琴の方を見て小声で話し掛ける。
「どうでしょう? でも、時先輩ならやりかねないかも」
困ったような、あきれているような複雑な表情を浮かべ、真琴も一条を見る。
「それとも、伸子ちゃんか美咲さんが怖がってここで誰か来るの待っているのかも」
言葉を続けて、真琴はほんの少しだけ開いていたドアに手を触れた。



『君を・・・ここから・・・帰さないよ・・・』



黒い影は、ドアの隙間から中へと入っていった。
しかしそのことに二人はまったく気づいてはいない。
完全にドアを開いて、二人は中を見た。
一条が持っていた懐中電灯で真っ暗な部屋を照らす。
「・・・誰もいないな」
「そうですね」
人影はまったくなかった。
「先に進みましょう」
「ああ」
そして二人がドアを閉めようとした瞬間、ものすごい力で中に放り込まれた。
「うわぁっ!」
「!?」
そのままドアが勢いよく、しかし音もなく閉まる。
慌てて一条がドアノブに手をかけてあけようとするが、まったくびくともしなかった。
「何なんだ一体!?」
「一条先輩!?」
「いたずらにしちゃ、たちが悪いぞ」
ドアをドンドンと強く叩く。
だが、ドアは開くどころか何の反応もなかった。



『・・・やっと逢えたね。・・・ずっと逢いたかったよ』




黒い影は、必死になってドアを開けようとしている二人の姿を静かに見つめていた。



























【管理人より】

師匠(=葵さま)に恐れ多くもリクエストを聞いていただき、
更に図々しくもお贈りいただいてるこの連続小説。
いよいよ管理人の理性がぶっ飛びそうな2ショット満載。
もう、真琴さんと一条さんの2ショットは『待ってましたっ!』
と言わんばかりに描きまくり。(←師匠、早く止めないとエライ事になりますよっ!)

一足早いお年玉としていただいていたのに、
このような挿絵ごときのためにお披露目が遅れました。
申し訳ありません。もっと描きたかったです(笑)。

この続き、いつまでもいつまでもお待ちしておりますです〜vv

(2004. 1. 7)