Love song 〜我が愛しき人よ・・・〜


第3話  陰謀



そこだけが、空気が違っていたような気がした。
久しぶりに逢う彼女に、心が弾んだ。
その笑顔に、もう一度逢えたことが何よりも嬉しかった。


「まったくお前ら全然変わんねーな」
自分の周りを囲んでいる三年生の面々を見ながら、時は声をかけた。
「引退してからまだ1ヵ月もたってませんよー先輩」
「そうそう。そうすぐに変わりませんって」
久しぶりの部活だからだろうか、三年生たちは楽しそうに話す。
「やっぱりこの雰囲気は落ち着くよね」
「そうだね」
その言葉に皆はうなづく。
それだけ、演劇部で過ごして来た時間は何よりも大切だったのだろう。
「先輩達どうしたんですか!?」
突然の三年生の訪問に、それまで柔軟や発声をしていた一、二年生もまた集まりだす。
「今日時先輩と一条先輩が来るって連絡もらったから、顔出さないとな」
元部長の与四郎が新部長に説明した。
「先輩達が来てくれるなんて、嬉しいです」
「あたしと真琴は毎日来てるけどな・・・」
糸がそんなことをこぼすと、それを聞いた一条が二人のそばに寄って来た。
「二人はもう劇団は決めたのかい?」
「いえ、それは・・・」
言葉を濁す真琴に、一条はなんだかそれ以上聞いてはいけない気がした。
自分が決めることではなく、真琴本人が決めることなのだ。
だから、一条は他のことを話題に出そうと二人を見てあることに気がついた。
「・・・真琴さん、もしかして前より背が伸びてないかい?」
「ええ」
真琴が肯定の返事をした。
夏に見たとき、たしかに二人の背は糸の方が高かった。
しかし、今現在二人が並ぶと真琴の方が高い。
「真琴さんって外国の血が入ってるんですよ。もしかしてそのせいかもしれないですよ」
女子部員の一人がそう言った。
「ということは、その髪の毛は自毛なのかい?」
一条が驚いたように聞いた。
「はい。母方の祖母が英国人なんです」
真琴は優しい微笑みを浮かべて答えた。
また一つ、君のことを知ることが出来た。
ほんの些細なことなのに、胸が熱くなる。
そんな思いをめぐらせていると、一緒に来ていた時が声をかけた。
「みんな今日の夜は暇か?」
突然の問いかけに、みんなはきょとんとする。
その中でも、糸はなんだか嫌な予感がして顔をしかめた。
「なにかあんの、時ちゃん?」
「受験勉強もいいが、たまには息抜きも必要だぜ」
「息抜き?」
「そうさ。肝試しでもやんねーか?」
にっと笑ったその顔には、なにか企んでいることさえうかがえる。
「季節はずれじゃん。肝試しなんて」
楽しそうというもの、困っているものさまざまだった。
時の考えていることがわからなくて、一条は時を見た。
「時? 何を考えている?」
「別に。後輩と楽しいイベントをやろうとしているだけさ」
「しかし、やるにしてもどこで・・・」
「よし! みんな7時に学校に集合だ。そんな遅くないから大丈夫だろう」
後輩一同、時が怖いのか強引な提案に逆らうものは誰もいなかった。
こうして、なにやら陰謀渦巻く肝試しが始まろうとしていた。