Love song 〜我が愛しき人よ・・・〜


第2話  再会  



その週の土曜日の午後。
一条は、時と演劇部の様子を見るために、桜ヶ丘高校の体育館へと足を運んだ。
中に入ると、すでに部員達は発声練習や柔軟などをしていた。
そして、入ってきたのに気がつくと、部員達はいっせいにこちらに視線を向けた。
「キャー! 時先輩と一条先輩だ!」
「うそー! ほんとに!?」
「もしかして演劇指導にきてくれたのかな?」
相変わらずここの演劇部はにぎやかだったが、やはり三年生が抜けた分だけ静かな気がした。
ほんの少しの期待をもってここに来たが、逢いたいと思っていた真琴の姿はそこにはなかった。
どうしたのだろうか・・・。
ここにくれば逢えると思っていたのに・・・。
「よう、元気でやってるか?」
時がタバコをくわえながら、新部長に声をかける。
「はっ、はい!」
緊張しているのか、どもりながら返事をする。
「それじゃ、とりあえず柔軟と発声の続きしてろ」
「わかりました!」
それまで二人の周りに集まっていた部員たちは、その言葉でさっきまでしていたことを再開した。
「どうした? 元気ないじゃん」
しばらく何も話さずそれを見ていたのだが、ふいに時がタバコの煙をゆっくりと吐きながら声をかけてきた。
一条は時の方を向き、口元を上げた。
「いや、なんでもない」
「真琴さんがいないから、がっかりしてんだろ」
「・・・そうかもな」
ズバリその通りのことを言われ、一条は少し間を置いて答えた。
最後に逢ったのはいつだったろう・・・。
一条は頭の中で記憶を探る。
かすかに暑い日の出来事が思い出された。
・・・そうだった。あの夏の日以来、君の姿を見てはいなかった。
もうそんな長い間、君に逢っていなかったのか・・・。
だからだろう・・・いつのまにか想いは募り、そして夢へと形を変えていったのだろう。
そんな事を考えていると、入り口のほうからやたらとにぎやかな声が聞こえてきた。
そして、ドアが開くと見知った面々が何人も入ってくる。
文化祭を最後に、引退していった三年生たちだ。
その中に、一条が逢いたいと思っていた真琴の姿もあった。
一瞬、どくんと心臓が跳ねる。
彼女は、親友である三浦糸と一緒に話しながらステージのほうに歩いてきた。
「来んのおせーぞ! 与四郎」
「すみませーん!」
隣にいた時が、前部長の与四郎に声をかける。
与四郎が慌てて時のところに駆け寄った。
他の面々も、歩いて二人のところに来る。
「一条先輩、お久しぶりです!」
「ああ、君達も元気そうだね」
囲む部員達の顔を見回す。
そして、ある所で視線が止まった。
あの頃と変わらない笑顔の想い人。


・・・ああ、やっと逢うことができた。


夢ではない、現実の真琴の姿を目の当たりにして、一条は心の底から嬉しさがこみ上げてきていた。