「こら 一慶待てってば」


「いま開けるから」


日課である朝の散歩から帰った糸は、せかす一慶をたしなめて、玄関の鍵を差し込んで開けようとした。



――――― あれ?
――――― 開いてる?

明らかに鍵が開いているときに、鍵を差して回そうとした感覚が指に伝わった。


――――― あたし 鍵かけたよな?


怪訝そうに扉を開けた糸の目に、飛び込んで来たのは、この場に見慣れた真の靴だった。



「まこ?」


「帰ってるのか?」


糸の鼓動が徐々に高鳴る。


真は、あるテレビ番組のロケで、遠くに撮影に行っていた。
少なくとも、5日は戻れないと何処か寂しそうに告げるのを、糸は聞いていた。

そんな真を送り出して、今日でまだ3日しか経っていないのだ。


何かあったのだろうか?
ロケ先で何かトラブルでも??


「わんわんっ!」

「ああ ごめんな 一慶」


予想していなかった現状に取り乱していた自分に気づいた糸は、
自分を見上げている一慶に詫びながら、その艶やかな毛並みに包まれた頭を撫でた。


この家の住人であり、自分の飼い主である真か糸が、
散歩帰りの一慶の足や体を拭いてからでないと、一慶は家に入れないようにしつけられていた。
それは、一慶がが、この家でふたりと一緒に暮らすことになった時に、決められたことだった。

一慶は、いつものように家に入っても良いという洗礼を浴びた後、
待ちきれないかのように、家の中に小走りに入って行った。


「ふう」


糸は、一慶の泥を落とした布を浴室でざっと洗うと、
一慶が飛び込んで行ったらしい、寝室へと足を運んだ。



そこには、真が、いつもはふたりで眠る大きなベッドの真ん中に、
倒れ込んだのが明らかに糸にも理解できる体勢で横たわっていた。




静かに寝息を立てる真。




――――― え?

――――― なんで??


目の前の現実に、止め処なく生まれる沢山のクエスチョンマークを抱えながら、
糸は引き寄せられるように真に向かって歩いて行く。

そのまま、まるで磁石のNとSが吸い付くかのように、糸の掌が真の頬に静かに触れた。


「……ん」


「あ ごめん 起こしたか?」


予期しなかったのか、できなかったのかもわからない掌に感じる真の反応に、
はっと我に返った糸は、おずおずと問い掛けた。


「――――― 糸さん?」


真はまだ覚醒しきっていないうつろな目のままで、自分に触れる糸の手に自分の手を重ねると、
そのふたり分の手を自分の頬に押し当てた。



「……糸さんのにおいがする」



ふっと吐き出された真の声に、糸が静かな口調でありながら楽しげに言葉を続けた。



「前にもそんなこと言ってたよな」

「オレが?」

「え?」

「オレが なんて?」

「覚えてないのか?」


糸が真の顔を見つめてにっこり笑った。


―――――糸さんのにおいがする


そう言って、お前はあたしの部屋のこたつで寝ちゃったじゃん



それは、まだ真が真琴として糸の隣に居た頃の話である。
真との賭けに執着する真の父・真澄による厳しい監視から逃れるように、
真琴は糸の家で年を越すことになっていた。
公私ともに女装生活を続けて疲れきっていた真琴は、
糸の家で女装を解かれた途端に、糸の部屋で深い眠りについてしまったのだった。

この頃から、糸は、真にとってかけがえのない、
たった一人の女性になりつつあったのかもしれない。



「……ああ そうだったっけ」


「……うん」


「きっと あのときの糸さんのにおいが 気持ち良すぎて忘れられないんだ」


「何言ってんだか」



糸は真を優しく見つめながら、けらけらと笑っている。







「何時に起こせばいい?」


ロケはまだ終わっていない筈だった。
話の腰を折ることになったが、糸が機転を利かせて真のスケジュールを確認した。


「1時に 皆川さんが迎えに来るって」


「そか じゃあもう少し寝てろ」


「ん?」


「今日は あたしはバイトが午後からだから ちゃんと約束の時間に間に合うように起こすよ」




自分を気遣い微笑みかけてくれる糸の顔が、心身ともに疲れた真には、懐かしく優しく愛しく可愛く映る。






――――― だから

――――― オレは ここじゃないと眠れない

――――― このにおいがないと 眠れない


――――― 糸さんが 傍に居てくれないと



突然に腕を強く掴み引き寄せられ
糸は横たわる真の上に重なるように抱き伏せられた。


「まこ? どうした?」


「言ってるじゃん」


「なにを?」


「糸さんが居ないと オレはぐっすり眠れないんだって」


「うん だからって この体勢は あり………」


自分の意志とは無関係に真の上に覆い被さるようになっている糸は、
下から拭われるような真の唇からも、上から押さえつけられるような大きな掌からも逃げ出せない。



「糸さん」


いつの間にか、糸の方がベッドに横たわり、その眼前には真の綺麗な顔が広がっている。


「まこ?」


「うん そう オレはここに居る」




――――― 会いたかった


たった3日、会えなかっただけなのに。

真からの真っ直ぐな言葉が糸の心を波立てる。


堪えていた筈の真には見せたくなかった寂しさが、糸を素直にさせてしまう。


「まこ……」


糸は真の首にしがみついた。


「まこ…まこ……」


「……糸さん」 


真は不安げな糸の顔を大きな両手で包み込むと、悲しげな言葉を全て引き受けるかのように、
糸の唇を熱く深く覆い拭っていく。
抵抗無く押し寄せて来る熱い真の舌に翻弄されながら、糸の体からは自分を支える力すら抜けて行くようだった。


真によって衣服を剥がされながらも、糸も懸命に真の肌を求めていた。



肌と肌が触れ合った瞬間、糸の目から涙がこぼれた。


――――― どうしよう あたし こんなにもろくてどうしよう


――――― 真が好きで好きで好きで好きで たまらない



どんなに好きなのか、ありったけの愛の言葉を積み重ねても言い尽くせないほどに、糸は真が好きだった。



そして、真は、糸が気付く、もっともっとずっとずっと前から、

糸が好きで好きで好きで好きで たまらなかった。




だからこそ、糸を繋ぎとめておきたいという想いも、
糸が誰かに心を奪われるかもしれないという懸念も、
尋常ではなかった。






「ああぁっっっ!」


糸の体の準備もお構いなしに、真が糸の中に侵入した。


何度も何度も受け入れているのに、いつもが初めてのように、糸の体は慣れることを知らぬように、
真の熱に素直に全身で反応してしまう。

真と繋がったままで乳首を赤く立てて息を荒げながら身をよじる糸の姿を見ると、
糸に吸い込まれている自分が激しく波打つのが、高ぶっている筈の真にも切なく感じられる。

真は糸に自分の下半身を密着させたまま、快感に耐えきれず悶えてよじれる白く細い上半身を抱かかえた。


じわりと滲んだお互いの汗が、触れ合う肌を更に離れがたくべったりと吸い付かせていく。

交じり合う汗よりも熱く多く溢れる液が、
深く繋がった下半身で草むらにまみれながら、いやらしく音を立てている。



   「  はあ  ああ  はあ  」


下半身を犯されたまま、指と舌で乳首を弄られる糸の感覚からは、どんどん理性が失われていく。

真に触れられるだけで簡単に絶頂に達しそうになるほどに鋭敏な糸の性感帯が、
真の執着によって、ますます真を感ぜずには居られなくなるようだった。



   「  いや  ああ  まこ  」



腰を捕まえられながら、自分の中に何度も熱いモノを突き込まれる辛さが、
糸の中で、いつしか激しく大きな快感に変わっていく。


このままずっと体の中にとどめておきたいという本能が働くのか、
糸の意識しないところで、糸の体は入り込んでいる真を強く締め付けようとしていた。


―――――― いとさん ――――― いとさん


息を荒げたまま、真は糸の名を何度も何度も熱い吐息の中で呼び続ける。

その声だけでも、糸にとっては喘ぐに十分すぎる官能の元になってしまっている。


  「 はあ  まこ  ああ 」 


   「 いと さん  」



真が糸の体を、まるで細い枝を折るかのようにしならせて抱き締めた。

次の瞬間、糸の全てを支配するかのように、熱い液体と化した男の証を吐き出した。








――――― ここじゃないと 眠れない



糸の胸に頬を寄せたまま、真は糸の香りの海を漂うように深い眠りに落ちていった。


















======ご挨拶


〜5周年 ありがとお〜



表の拍手を文で書いたら、こうなるかなあ〜と、
ず〜〜〜っとちまちま書いておりました。

やっとカタチになった気がするので、公開させていただきます。

妄想を文章に反映させる術を、もっともっと磨きたいものです。

最近、エロ本読むヒマもない。

糸さんととまこりんには、いつまでもいちゃいちゃしていてて欲しいですなw

ところで、一慶は寝室から出て行っていません。

一慶にとっては、見慣れた光景なんだろうか?ふたりの合体は??
と、思ったら、羨ましい限りです。って見たいのか?(笑)



お付き合いありがとうございました。
このようなちょろい話を、これからもちんたら書いて行きますので、
ご覧いただけたら幸せです。
マンネリもここまで続くと、いっそ清清しいと、勝手に自負しておりますです。


では、「Wジュリばんざいっvv」



(2008.06.29)