「三浦さん 休憩に入ってください」
「はーい」
真と共演する初めての映画を撮影中の糸は、歩きながらふと考える。
――――― 家でも現場でも一緒に居られる筈だったのに
数日前から、真の熱烈なファンの子達によって自宅が見つかりそうになり、
真はホテルに、糸は実家にという別居を余儀なくされていた。
糸と真の結婚生活は、絶対に秘密にしようと、ふたりで決めたことだった。
お互いがお互いの足枷になることを、心配しての結果である。
まだまだ、役者として大成していないふたりには、
売れるために隠しておくことが懸命であると判断しての結果である。
――――― そういえば 真は?
ふと後ろを見渡すと、スタッフや他の共演者達の中に、
さっきまで同じ場面を演じていた真の姿は見えなかった。
その代わりに、望んでもいないのに真のマネージャーの皆川の冷たい視線に捕まってしまい、
思わず愛想笑いで目を反らした。
――――― ま 居たって あいつの側に駆け寄れる訳でもないから いっか
自分に言い聞かせるように、糸は撮影現場を離れた。
糸は、撮影現場や楽屋とは異なる階にある女子トイレに入った。
ここは、主にエキストラが使用している場所だったが、
今日は学校内での教室撮影は無く、いつもは強烈なパワーをみなぎらせる女の子達は、
ひとりも居なかった。
誰も居ない、がらんとした広く綺麗な清掃の行き届いたトイレの大きな鏡の前で、
糸はブレザーの前ボタンを外して大きく伸びをした。
高校時代から、きちんと女物の制服を着ていなかった糸には、
衣装とはいえ、短い丈のスカートにネクタイ、ブレザーという格好は、
矢張り堅苦しかった。
「ふう」
一息ついたところで、さっき糸が入って来たばかりのドアが開いた。
反射的に誰が入って来たのかと、振り返った糸の目に映ったのは、
糸にとっては見慣れている長い髪をした真琴だった。
「? まこ?」
「糸さん」
驚く糸に向かって、邪気の無い笑顔を向ける真琴。
「何やってんだ?」
「オレも休憩に入ったから追いかけて来ちゃった」
「って たって ここ」
「うん 大丈夫 慣れてるから」
今でも時折女装生活をしている真には、女子用のトイレに入るという尋常でない行為も普通である。
「だって こうでもしないと糸さんとふたりきりになれないでしょ」
「それは そうだけど」
何日かぶりに真とふたりきりになった嬉しさよりも、
予想もしていなかった事態に、どう対処していいのか解らず、
糸はただただ困惑していた。
固まったまま動かない糸に近付いた真は、
「糸さん こっち」
と、糸の手を引いて歩き出すと、一番奥の個室に入り鍵をかけた。
「お おま―――」
糸が真の真意を問いただす言葉は、真からの口付けによって空に消える。
本来なら、毎日毎日何度も何度も、ふたりきりのあの家で、
繰り返し重ねていた筈の回数を取り戻すかのように、
真の執拗な舌を絡めた口付けは長く続いた。
抵抗しない糸を確認してから、真は糸の胸に手を押し当てると、
その反動で、糸が椅子に座るような格好になってしまった。
糸の足を割って挟まるように、真が糸を追い詰めた。
――――― こんなところで?
まさか、こんな場所で真とふたりきりになった上に、
こんなことをされている自分が信じられなくもあったが、
離れて暮らしている今、
思うように会えない歯痒さが、気付かない振りをしていた欲望の後押しをしてしまう。
いつの間にかシャツの下に滑り込んだ手が、糸の胸を直に優しく包む。
その肌触りと温もりが懐かしい。
糸の乳首は、真の指の動きに素直に反応して固くなって行く。
真は糸の唇を逃さないように少しだけ距離を空けて話し掛けた。
「ほら こんなに濡れてる」
糸の小さな下着の中に入り込んだ真の長い指が、
糸の欲望を掻き立てたのか、更にとぷとぷと愛液を生み出し、
真の指を熱く絡めた。
「……ばか」
この狭い部屋が、今の糸と真がふたりきりになれる唯一の空間だった。
今のふたりが、誰にも邪魔されずに繋がることのできる唯一の場所だった。
誰かが入って来ても気付かれないようにと、お互いに声を殺して求め合う。
――――― この次はいつ抱けるのか?
――――― この次はいつ抱いてもらえるのか?
先の見えない不安がふたりの脳裏をよぎる。
だからこそ、今のお互いの存在を強く感じていたかった。
ずぶずぶと体の中に沈んで来る真が、たまらなく愛しい。
ぎゅっと自分を締め付けてくれる糸が、たまらなく愛しい。
「………ちゃんと守れなくて ごめんね」
耳に唇と舌を這わせながら囁く真の甘い声が、糸の頭の中を痺れさせる。
「…… まこ 」
真の動きに逆らうことなく腰を動かしながら、
金色の髪が滑る首に腕を絡ませながら小さく名を呼んだ。
それが今の糸の精一杯の答えだった。
――――― 迷い道 へや
=== 管理人のしょーもないあとがき ===
メリークリスマス。
ども。管理人です。
なんと、昨年のクリスマスにも、【グラサン】撮影中ネタ書いてました。
自分でびっくり。健やかに忘れておりましたです。
先日、Aさんが、
「撮影中もふたりは女子トイレでやってますv」
とか教えてくれちゃったので(違う?)、
うおおおおっっ!そうかっ!そうですかっ!Aさんの言うとおりだっ!ありがとおっっ!
と、毎度のひとり盛り上がりで一気に書きました。
細かいところはご自由に妄想補完してください。
きっとこれを機会にまこりんが味をしめて、この後、毎日何回も繋がってくれていると信じてます。
こんなことばっかり言ってる馬鹿なわたし。
迷っていないんだけど本編発進じゃないので、【迷い道】にしか入れる場所がありませんでした。
あんまりエロエロしくなくて面目ない。(詫)
今回の話は、こんな絵の元に誕生です。↓
お付き合いありがとうございました。
(2007.12.24)