「なんで抱いてくんないの?」


「え?」



ここ数日、そうしていたようにふたりが寝泊りする糸の部屋に入った途端、
真琴の左腕にしがみついて来た糸が、拗ねたように呟いた。

もう3日も一緒の部屋で寝泊りしているのに、真琴は一度も糸を抱いてはいなかった。
それどころか、同じ布団にすら入らない。
糸はベッドで、真琴は布団を敷いて、それぞれに床に着く。







真琴の正体が、周囲にバレていないかを偵察する人数が、
なかなかボロを出さない真琴に痺れを切らした真澄の差し金によって、急に増えた。

男と知られないように、常に緊張したままの女装で学校に通い、私生活を送る真琴の精神状態が、
見つめられ続ける日々の中で張り詰めすぎて、不安定になって来たことを察した糸が、
連休を利用して自分の家に泊まりに来るよう仕向けたのだ。

糸の家には、以前、大晦日から連泊した過程もあったので、
真琴は糸の説得のもとに、学校が休みになった日から糸の家で厄介になっていた。

急に厳しくなった監視の中で、真琴と迂闊に一緒に居てはいけない、恐らく最大の爆弾である糸が、
真琴と離れている時間が増えたことに、とうとう耐えられなくなったという事実も起因していたのだが。



学校が休みでも部活があるので、昼間は学校で演劇の練習。

夜は三浦家に一緒に帰るという生活を、もう3日も続けていた。
真琴に付けられた監視達も、糸の家にまとわりつくことには限界がある。

そんな中で、一日中真琴と一緒に居るのに、必要以上に構って来ない真琴に、
糸は寂しさと物足りなさを感じてしまっていた。

同じ部屋で、もう3日も一緒に眠っている。
何も無いと思っていても、何かしらの期待をしたりしては、
何かあったら困るのは、まずは女の自分なのだと高ぶる気持ちを諌めた。
それでも考えてしまう、予測し得る行為を求めている自分を自覚しては、
己を責める夜を糸は悶々と過ごしていた。

そんな答えの無い問題を悩み過ぎたために、思わず口から出てしまった言葉だった。







「それって」


小さく、だが確かに発せられた、糸の言葉の意味を理解できない真琴ではなかった。

真琴の方こそ、手を伸ばせば届く場所で静かな寝息を立てて眠る糸を、
どうにか見ないでいることに必死だったのかもしれない。
毎晩、理性と戦っていた真琴に対して、糸の質問は酷である。


なんと返事をしたらいいかと、腕にしがみつく糸の方に視線を落とすと、
糸の視線が重なった。

今まで見たことも無い、恥ずかしそうにしながらも決意を含んだ潤む糸の瞳に、
真琴の理性の蓋が緩み外れかけた。



少しだけ糸から視線を外して深呼吸をした後、真琴が言った。



「だって 糸さん 声出すでしょ?」



糸の顔が真っ赤に火照った。耳までもが同じ熱を帯びていた。



「…… そ それは」



ここは真琴の部屋ではない。
糸の家、つまり、糸の家族が一緒に暮らしている家なのだ。
いくら大きな家とは言っても、何かの拍子に絶対に聞かれてはいけない恥ずかしい声を聞かれない保証は無い。


真琴からの的確な答えに、糸は納得せざるを得ない。


何も言い返せずに顔を赤らめたまましょげる糸を、真琴は自由な右腕で抱き締めた。


――――― これで我慢しなくちゃ だよな ……


真琴の体温を回された腕から感じた糸は、自戒と自制心を強めていた。





「 …… でも もうオレも我慢できない」



微かに耳元で聞こえた真琴の声を、確かめる間もなく、糸の唇に真琴の唇が重なった。

忘れかけていた柔らかさと滑らかさを思い出す。

体の内側から、得体の知れない熱いものがじんじんと込み上げて来るのが解る。





――――― どうしよう


――――― 欲しい





衣服の下で、糸の女としての本能が疼き動き出すのが解る。



唇を合わせたまま、真琴が糸に約束を求める。



「 声 出さないでね 」


「 ……… 」



真琴の首に腕を絡めることで、糸が声を出さずに答えた。


この部屋への突然の来訪者を懸念して、真琴が糸を抱き締めたまま部屋の鍵をかける。

この先のふたりの世界を誰にも邪魔されたくなかった。



糸は真琴の執拗なキスに酔いしれるように、濡れた舌を怖々と絡めている。
真琴は糸の衣服を剥ぎ取りながら、自分の体からもまとわる布を離していく。
薄い下着の上からでも、糸の乳首の硬さが、糸の体を撫でる真琴の掌や指に伝わる。
真琴の下着の下からも、糸を求める男性器が長さと硬さを増長させ続けている。

お互いに下着姿になった状態で、今夜も自分が独りで眠る筈だった用意された床に、
糸を抱き締め絡まったまま、真琴が倒れこむ。
糸の肌とむくもりを感じるのに邪魔でしかない長いウィッグは、倒れこんだと同時に床に投げ捨てた。



理性の上に我慢を重ねていた糸と真は、どちらの想いの強さも比べられない程に、
お互いの唇と体温を求めて体を押し付け合っていた。



糸の口を塞ぎながら下着をたくし上げて胸を直に触ると、
ほんの少し前に布の上から触れた時よりも、
乳房そのものが硬く跳ね上がるように、尖った乳首を象徴させていた。

その硬く赤く染まった乳頭を指で弄る度に、糸の体が僅かに動くことが真だけには感じられる。
真が触れる度に、まるでいつも初めて手を繋いだ時のように、
恥ずかしがるようにびくつく糸が、真には愛しい上に可愛くてたまらなかった。
糸の反応の何もかもが、自分に総てを委ねてくれているように思えてたまらなかった。




――――― 絶対に糸を手放さない


糸に触れる度に、
糸を抱き締める度に、
糸と一体になる度に、

真は、いつも無意識にそう誓っていた。




昨日まで自分が独りで眠っていた布団の上で、
真からの刺激によって体をくねらせる糸の姿は、昼間の男勝りの糸とは別人のように艶かしかった。

真は糸の足を広げ、今日はまだ見ていない足の間に指を這わせた。
電灯に照らされただけで、黒い毛が濡れているのが解った。



「……っ」

声を出さないように、糸は堪えている。

真の長く細い数本の指が、糸の中に入ろうかどうしようかと迷うように、入り口でぐちぐちと動いた。
     少し中に入ってみようか?
     それともまだこの辺りをくちゃくちゃと弄ってみようか?
真の気まぐれに動く指は、黒い茂みの奥で膨らんでいる肌にもささやかに触れて来る。

糸は、足を閉じることも忘れて、真の悪戯にも似た行為に耐えていた。
もう、自分の肢体をどうしたらいいのかも考えられなかったが、
声を出すことで、今の状態から自分を真から離されることだけは嫌だった。


「……っっ」


声を出さずに喘ぐ糸の体に舐めるようなキスをしながら、とうとう真は、
それまで入り口付近の茂みで遊ばせていた自分の指を、糸の中に押し込んだ。
糸の愛液でぬらぬらになった指は、吸い込まれるように糸の下腹部に姿を消して行く。
それと同時に、糸の顔が歪んだが、
真が口を塞いだために、声が外に漏れることは無かった。


「…………っっっ!!」


「……っ!」


糸の中で、真の指がぐるぐるっと何度か動き回った数分の間だけで、糸は脱力してしまった。





「……糸さん?」



糸が涙を浮かべた目で、無言のまま真を切なく見つめた。




「いっちゃった?」


小さな瞬きが返事となった。



「糸さん かわいいよ」



真が糸の頬に涙を拭うようなキスをした。






「でも まだだよ」



「まだ オレの指しか 糸さんの中に入ってないからね」





一度頂点に達してしまった糸は、重くなった体をすぐには自由に動かせない。


体が痺れたままの糸にも、真の総てを受け入れていないことは解っていたし、
真の総てを欲しいと思っているのに、どうしていいのが解らなかった。


動きの緩慢な糸を見て、真は静かに優しく話し掛ける。



「 糸さんは 声さえ出さないで いてくれればいいんだよ 」



そう言うと、真は糸の足を広げたまま、その濡れた入り口に舌を捻じ込んだ。


「 ! 」 


驚いてびくついた糸だが、声は出せない。


ほんの少し前まで指で弄んでいた糸の下の口を、ねちねちと舐めながら侵入しようと動く真の舌の動きに、
一度絶頂を迎えてしまった糸は、前より激しく甘く感じてしまう。
そんな熱い感情を、感じるままの声を出せずに己の中だけで消化することが、
こんなに難しいことだとは、微塵も想像していなかった。


糸は、ただひたすらに体をくねらせ、腕の届く範囲にある真の髪を肩を肌を、
掻き撫で回すだけで精一杯である。


「……っ」



舐められているだけなのに、信じられないくらいに真の存在を感じる。
このまま、体中をその柔らかく熱を帯びた舌で、舐め尽くして欲しいと思うほどに。


今が永遠であるような錯覚を、糸は感じていたのかもしれない。


糸の性感帯を確認するかのように、糸を上りつめさせて行く真の体も限界に近くなっていた。

こんなに大きくしてから糸の中に入れたことがあっただろうか?とやや心配しながらも、
そんな余裕の無くなっていた真は、
糸の愛液と真の唾液で滴る黒い茂みの奥へ、一気に自分を押し込んだ。


「……!」


急に押し込まれた真の大きさに糸の体が動揺する。
何度か味わったことのある真の一部の筈だったが、糸を支配すようとする力が強く大きい。
それでも、さんざん濡らされた糸の入り口と通路は、その大きさをも受け入れ易くしてしまっていた。

ずぶずぶと糸の体の芯を目がけて、真が糸の体を押さえて腰を押しつけ続ける。

自分の一部を根元近くまで糸の中に埋めた真は、
更に糸の奥で糸を取り込むかのように腰を打ちつけ揺らし、
糸の中の襞と、押し込んだ自分の肉棒とをこすりつけ続けた。


「……っぁっ……」


真の動きとシンクロする糸から、苦痛に対する小さな声がこぼれたのを、真は聞き逃さない。
糸の体を犯したまま、糸の耳を噛んだ。


「……っひっ……」


「 声 出しちゃだめ でしょ 」


真は、糸の耳を甘噛みしながら再度たしなめると、
さっきよりも強く糸の体に自分を打ち込み出した。


「 ! 」


糸は真の体に仰け反って抱きついた。
声を出さない代わりに何かをしていないと、頭の中が真っ白になって何を叫ぶか解らないくらい、
自制が出来ない気がした。
今、何かを叫んで真と引き離されるくらいなら、このまま気を失った方がいいと思っていた。


「糸さん」


蚊の泣くような声で、真が糸の耳元で名を呼ぶ。
真に激しく犯され求められながら聞くその声だけで、糸は鳥肌が立つほどに幸せな気分になってしまう。


さっきまでの苦痛は消えて、今は真との一体感を、繋がっていることを実感していた。



「……っ!」

まるで、糸のに自らの体を溶かして取り込ませようとしているかのように、
糸の肌と汗に、自分の肌と汗を密着させて動いていた真のチカラが抜けた。


「………」


声にならない大きな息を吐いた後、お互いの存在を確かめるように、
糸と真がどちらからともなく唇を重ねた。






ほんの少しだけ緩んだ真と繋がった糸の足の隙間から、肌を伝わって精液が溢れ出た。

熱くなった肌に近い温度で。




それはどちらのものなのか、知る必要も理由も無かった。


糸と真だけには、知る必要は無かった。






























――――― 迷い道  こえ 




























=== 管理人のしょーもないあとがき ===


何度もおいでくださっている皆さま、毎度さまです。

そして、お初においでくださってしまった皆さま、はじめまして。
(↑これを最初に読むようなそんな勇気あるお客様は居ない、と思いたい。)

糸まこでお送りする、マンネリエロでございます。

本編発進予定で考えていたのですが、発進地を爽やかに見失いましたので、
どうしようかと思いつつ【迷い道】に入れてみました。

が。ええ、全く迷っていない気がします。
もっと続きを妄想してはいるのですが、このままではうっかり年を越えそうなので終結。

今抱えている妄想は、次の話に投入したいと思います。
そうすると、また本編発進が難しいのですよね。うーむ。
なので、何事も無かったように、つらっと改編するかもしれません。この話。

それよりも、12月15日に読めるであろう【Wジュリ新作】のために、
この話を急ぎまとめてしまったという感じでしょうか?

だって、新しい妄想の波がやって来て、この話が立ち消えたら悔しいもんっ!
まこりんの腕にしがみついてオネダリする糸さんを書きたかったんだもんっ!
糸まこには、いつでも合体していて欲しいんだもんっ!

はいはい。(自作自演)



こんな私は、昨日入手したTUBEの新しいCDAを聞きながら、
妄想にかられるままに今年の糸まこクリスマス絵を泣きながら描いております。
もう、なんで泣いてるのかわかりません。
それはね、きっとやっと届いた来週のライブのお席が、1桁列じゃ無かったからv
がっかりだよっ!(叫)



では、数日後に日の目を見るであろう【Wジュリ新作】。
この世界では、エロい妄想にとらわれた素敵なネタばれをお待ちしております。


ですが、この世界のエロの中心は、学生時代の初々しい糸まこでございます。
それなのに、たまに脱線して新婚に手を出しますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。



(2007.12.12)