ピンポーン ピンポーン


けたたましく鳴る呼び鈴に応えるべく、慌てて玄関へ向かう真。


「まこー」


施錠された扉の向こうから、聞き慣れた声が聞こえた。

鍵を開けた玄関で、拍子抜けするほどに満面の笑顔で真の前に立つ糸。





「じゃーん!勧誘会の衣装!!」

「裁断終わって縫うだけだから学校に取りに行ってきた 真琴とあたしの分」

「日曜だけどおじゃまするぜー ・・・せんべー持ってきた 食う?」


糸の勢いに、何も言い返せない真が、思わず笑みをこぼす。


「・・・・・・」

「なっ 何だよ・・・」

「・・・なんか・・・・・・  やっぱ糸さんっていいなー――って」


真は、糸が今の自分に自然に接してくれることが嬉しかった。


「何でもない」

にっこりと笑う真。


「・・・・・・?」



――――― まこの考えてることがわからないのは 今に始まったことじゃないけど

――――― あれが何でもないって顔かい

――――― もっと何でも口に出して教えて欲しい

――――― 想いも全部



「あ―――― 男のカッコして 誰か来たらどーすんだよ」

「平気「糸さん」しか知らないしここは」

「・・・あ そか」



―――――― 前はそうでなくても良かったんだけど 最近欲が出てきた



「劇の台本もできたんだね 「白鳥の湖」」

「そ――  だから衣装も大変 白鳥は12羽だぜ!? あと二十日もないのに 皆めまいするって言ってた」

「ま 2年がちょ―ど12人いるから一人一着やって プラスあたしは王子でまこは王女の衣装があるけど」

「・・・・・・」

「・・・ねえ」

「私が王子で糸さんが王女になってるけど?」


ざしっ
糸が勢い良く指に針を刺した。


「なにい―――っ!?」

「先生に聞いてみよう」


真が顧問の伊藤先生に電話をかけた。


「あ ごめんねー それ先生が勝手に直したの」

「ほら 前に二人の逆転やったら すごい人気だったでしょ? 黙ってて悪かったわ ウフフフフ」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・なんで!!」



――――― 二度と姫はやるまいと思ってたのに とんでもなくイヤだ―――――!!

――――― 直前になってあの先生は!

――――― いや その前に!

――――― 「女」とすごしてるまこに男装なんて バラして下さいっつってるよーなもんじゃないか



「糸さん 心配しないで 去年もそういうのやったでしょ?」



――― でも



「大丈夫「天野真琴」という女の子が王子を演じるだけ」

「オレの素顔は糸さんしか知らない これからもね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「糸さんの王女さま たのしみだしー♪」



――――― 真琴は最近 二人きりだと「男」に戻る  

――――― いつもより少し低めのやさしい声

――――― あたしに欲が出て来たのは あの子が現れてからだ



         「あなたはマコト君のなに?」

         彼女はいいなずけの飯塚隆世

         超虚弱体質で 2月に兄を引き連れて転校してきた
 
         きっと機会があれば―――――

         真琴を連れ戻すつもりなんだろう

         とくにあの兄は・・・

         真琴もそれをわかっているのに隆世ちゃんには優しいのだ

         なんかハラ立つ・・・




              ムカムカムカムカ 


                                 むかむか



「あ」


ぐさっ、と、手元から気持ちを離してしまった糸が指に針を刺した。


「糸さん さっきから刺してばっかり」

「・・・うっ・・・」」


くすくす
真が柔らかく微笑む。


「かして?」


そう言って糸の手をとった真が、針が刺さった指に口付けをした。


「消毒終了」

「おっ おっ おまえっ」

「え?もっとやってほしい?」


真は、糸の手にキスの雨を降らせた。


「――――― !!」


糸は恥ずかしさのあまりに、真を突き飛ばしていた。





――――― とにかく色んな事が合ったけど 今は何事もなく 真琴はあたしのそばに居る





突き飛ばされ倒れた真は、後頭部を押さえて起き上がろうとしていた。


「いっつー」

「ごっ ごめんっ」


糸が自分のしたことを我に返って反省しながら、真に手を差し伸べる。


「大丈夫か?」


思わず手を伸ばした糸の顔の数センチ前に、真琴の顔が現れた。


「え?」

「大丈夫じゃない」

「え? え?」

「大丈夫じゃないって言ったら どうするの?」


目の前の真剣な表情の真に、糸の思考回路が爆発しそうになっていた。


何も言えずに固まっている糸の頬にそっと真の唇が触れる。


「うそだよ」


糸には何が起こっているのかわからない。


「糸さん かわいーvv」

「こっ こんのー!」


と糸が怒りの拳を振り下ろす間もなく、真は腕の中にすっぽりと糸を抱き締めてしまっていた。


「ごめん でも 糸さん可愛すぎ」


真が言っている言葉の意味が、糸にはさっぱり理解できなかった。


それでも、自分を抱きすくめる真の腕からは逃れられない。
というより、逃れる理由も、逃れたい気持ちも無かった。
それほどに、糸を抱きすくめる真の腕は、温かく大きいものだった。


「あ・・・の・・・・・・」

「え? もっとしてほしい?」


糸の顔が、かー――――っと火照った。

何も言い返せない。

恥ずかしさで声も出せないのに、糸は真と離れたくなかった。





        このすぐ先の未来に、
        真との離別という道も用意されているかもしれないことを、糸が知る由も無かったのだが。





糸は真琴を独占したいと思い始めていた。


真は糸よりも早く、糸を独占したいと思い始めていた。


その想いと温度が重なろうとしていた。


自分の想いを上手く声にできないで真っ赤になっている糸に、
真は両手で頬を押さえて、ちゅっと触れるだけのキスを何度か押し付けた。

糸は間髪入れずにやって来る真からのキスを目を閉じて受け入れていたが、
その攻撃が止んだところで、怖々うっすらと目を開けた。
その先には、優しく微笑む真の顔がドアップで広がっていた。
糸は、矢張り恥ずかしさに声も出せない。
その上に、顔が真の両手で固定され、自分の手は真の両肩の外側で踏ん張っている。
こんな体勢では、何の抵抗も逃走もできない。


糸は真っ赤になりながらも、上から真の顔を真っ直ぐに見つめていた。
女らしいような男らしいような、中性的な印象を持つ真の顔は、
女であれ男であれ、見つめ続けるのに理由がいらないくらいに端整で目を奪われる。
自分が真の顔を、こんなにも見つめてしまう理由が、
そんな外面的なところにあるのでは無いことを、糸はまだ自覚してはいなかった。


糸はじっと見つめる真の目の中に吸い込まれるように、真の唇に自分の唇を重ねた。


真は、待っていたように糸の唇を、優しく吸い付くように受け止めた。
もう離れない……とでも言うかのように。




糸の唇を覆ったままの真が、体勢を反転させ、糸を自分の体の下に組み敷いた。
真の体の下に、糸の体が横たわる。

真との長い口付けに酔い始めていた糸は、
時折開けた目に映る真を切なそうに見つめているだけだった。

真は、糸の着ていたオーバーオールのズボンを肩からゆっくり下ろし、体から離す。

その下に着ていたシャツと無防備な下半身を隠す小さな下着が、真の面前だけに露になった。




真の下半身で固くなったモノが糸の体にも当たったが、
糸には、真に何が起こっているのか、何の理解も想像もできてはいなかった。




糸の唇に舌をなぞらせながら、その中に真の舌が進入して行く。


しなやかな指達は、匠に糸の顔からうなじと首を通って、柔らかに膨らんだ胸へと動いて行く。
ささやかながらも女性特有の膨らみを伴った糸の乳房が、
静かにそっとめくり上げられたシャツの下から現れていた。

「…んっあっ……」

舌を絡ませられるままに真を受け入れていた糸は、
知らず知らずのうちに、真を求めて反り立つ自分の乳首には気付いていない。

真の指が、糸の反応を捕まえ、尖りかけている糸の乳首を摘まんで弄った。

「…あああんっ!」
思いがけない激しい刺激に、真の口から少しだけ解放された糸の口から声が漏れた。


聞いたことのない糸の甘い声に促されるように、真は糸の口中を舌で犯しながら、
両手で糸の乳房を強くも優しく抱き上げては指を食い込ませて行く。


「…んんっ…」


糸は声にならない音を真に塞がれた口から漏らしていた。


もう、全身を通じて自分に触れている真のこと以外、何も考えられなくなっていた。








「ごめん 糸さん」





       …… まこ? …… なんで 謝ってるんだ?






堪えきれずに許しを乞う真の言葉に反応できないまま、糸は真を受け入れた。



「あああああっっっ!」



信じられない場所に信じられない激痛が走った。


自分に何が起こっているのかっ!?


目の前には、すまなそうに切なくも息を荒げる真の顔があるだけだった。



「糸さん…」



儚げに名を呼びながら、真が自分を抱き締めた時、
糸は自分の中に真が居るという事実を、やっと認識した。



「……まこ…?」



真の一部を体に飲み込んだまま、
その食い込む衝撃に思わず体を反らせながら、糸が真の名を呼んだ。



「……ごめん   糸さん……」



仰け反る糸を逃がさないように抱き締めながら、真が自分を糸の中に何度も押し込んだ。



糸と繋がっている下半身からは、聞いたことの無い水音が真の耳に届いている。



空を仰ぐ糸にも同様に、真が動く度にその下半身から耳慣れない水音が聞こえている。





あの初めての鋭く鈍い痛みも、肌に触れる真の熱い息遣いと共に、少しずつ気持ち良い感覚へと変わって行くような気がした。


















糸に包まれ抱かれながら、真は自分の居場所を見つけていた。
















               ――――― オレの居場所は ここだから































<予感>
























=== 管理人のしょーもない話 ===




うはー。

ものごっつい久々の本編発進でございました。

いやあ、久々すぎて、書いてて恥ずかしいです。←いまさら何を言うか。

もっともっと、細かいエロ描写もしたかったのですが、
脳内で糸まこがお互いに「はぢめてなの・・・やさちくしてね」
とか言い合ってくれちゃっているので、
独り勝手に言葉に出来ないまま悶絶に耐え切れず爆死。
すみません。ぬるくって。
ご自由に脳内補完と補填をよろしくお願いいたします。


10年経っても色褪せない、魅惑的なWジュリ世界に、
今でも翻弄されておりますですvv


今回も、お付き合いありがとうございました。

もっともっと糸まこの愛の深さを、エロく描いて参りたいです!(願望)


(2007.10.30)


お気づきの方がおられるかは謎ですが、
この世界の通し番号は、いくつか抜けております。
そのひとつの20番が書きかけだったことに、さっき気付きましたっ!
20番ってありませんよね?勘違い??
たまにやらかす例の試みに途中で挫折したらしいですが、これも本編発進なので、
絶対に最後までいちゃつかせたいと思いますっ!ふんがー★