出掛けに空を見上げると、いつもより雲が少ないように見えた。
「だいじょうぶかな？」
「荷物も増えるしな」
糸は誰に問い掛けるでもなく、自問自答を済ませると、
帰りが遅くなることを家に居たクリスに告げて外へ出た。
その数十分後。
さーっと降り出した雨が、僅かの間に、ざーっと音と粒の大きさを変えて地面に落ちて来た。
さっきまで雲の間から申し訳無さそうに見えていた青い空は、
いつの間にか完全に厚い雨雲に姿を隠されてしまっていた。
「うわー」
「やっぱり傘持って来りゃ良かったな」
両手に買い物袋を提げて、大粒の雨に容赦無く打たれながら走リ出す。
そんな後悔は後の祭りで、糸が全身ずぶ濡れになって真の住む部屋へようやく辿り着いた。
不意な大雨は雷も伴っているようで、時折遠くで光ってはその度に鈍い轟音を放っていた。
糸は、まだ主の帰って居ない空っぽの部屋に合鍵を使って入ると、
まずは玄関に荷物を置き、ぐっしょり濡れた髪の毛を絞った。
高校時代は短かった髪も、今はすっかりロングと言っても差し支えない程に伸びている。
玄関に鍵を掛け直し、あまり部屋を汚さないようにつま先立ちで中に入ると、
この時期には屋外に干せないために、几帳面に屋内に干してある洗濯物が目に止まった。
（ごめん）
折角洗ったのにな・・・・・と心の中で詫びながら、
糸はその洗濯物の中から乾いたスポーツタオルを外し、大雑把に体を拭いた。
タオルで拭いたくらいでは気休めにしかならなかったので、
洗濯物の中からまだ少し湿っているシャツも借りることにした。
肌にまとわりついているぐちょぐちょのシャツと短パンを脱ぎ、
乾ききっていなくても今脱いだ衣類よりは数段もマシな真のシャツに袖を通す。
（真の服を着るなんて久しぶりだな）
真の服を最後に借りたのは、真が熱を出した時だっただろうか？
高熱を出しながらも自分を頼らない真に憤慨した糸が、学校を早退してこの部屋に走り込み、
食事を作ろうとして失敗したため、真から着替えを借りたのだ。
（あん時は女物しかなかったんだよな）
真は高校時代を女装生活で過ごしたので、女物の洋服をたくさん持っていた。
糸は男物の衣服を借りるつもりだったのだが、生憎クリーニングに出しているとかで、
ミニスカートをはくことになってしまった。
ピンクハウスばりのフリルの溢れる衣装よりマシな服が、それくらいしか無かったからだ。
そのミニスカートのまま、真の前で坂本に蹴りを喰らわせたことすら懐かしい気がした。
その特異な生活から解放された今では、当然、男物の衣服しか見える所には置いていなかった。
（あの女物の服って どっかにしまってあるのかな？）
糸は、脱いだばかりの濡れた自分の衣服を洗濯機に放り込むと、濡らしてしまった床を拭きながら、
玄関に置いてあった買ったばかりの荷物を取りに行った。
ガチャ
鍵を開けて玄関に入ると、見慣れた靴が置いてある。
「糸さん 来てるの？」
雨は降り続いていたらしく、真は濡れた傘をたたみながら声をかけた。
聞こえていないのか、それとも本当に居ないのか返事が無い。
「？」
不思議そうに真は自分の部屋に入ると、沸騰しているらしい鍋の前で、
糸が真剣に計量スプーンを握りながらメモをブツブツと読んでいた。
糸の存在に安心した真は、声をかけながら奥へ入る。
「ただいま･････糸さ・・・・・・」
と言った途端に固まってしまった。
「あ まこ おかえりー」
真の声にようやく気付いて、糸が計量スプーンを持ったまま振り返って答えると、
真は黙ったままで立ち尽くしている。
「まこ？」
硬直した真に糸が不審そうな顔をした。
「糸さん なに？その格好？」
「は？ あ ごめん シャツ借りてるから」
小さな台所に立つ糸は、真には、どう見ても自分のシャツしか着ていないように見える。
サイズが大きいらしいシャツの肩の位置は大きく下がり、大きな袖口から伸びた細い腕がより細く見える。
更にその下には何も身に付けていないように白い太腿が剥き出しになって生え伸びているようだった。
シャツに短パン姿は見慣れている真だったが、この糸の姿は刺激が大き過ぎた。
体中の血が沸騰しかけるのを静めながら、平静を装って話を続ける。
「･････傘 持ってなかったの？」
「うん 家出るとき降ってなかったし」
それでもこの雨の多い時期には持って歩かないか？と思う真に、糸が話を続ける。
「今日はあたしが夕飯作ってやるって言ってたから 買い物に傘は邪魔だったしさ」
どうやら、夕食の材料を買い込むことを考えて、傘を持つことを二の次にしたらしい。
結局、糸は糸自身のことよりも真のことに一生懸命になってしまうのだ。
そんな糸の無意識な一途さが、真にとってどれほどの救いをもたらして来たのかは、
昔も今も真にしか計り知れない。
何を作ってくれようとしているのか、大変そうながらも楽しそうな糸の姿を、
もう一度じっと見つめようとした真の頭に、一気に血が上った。
学生の頃の糸は、好んで男物の服を着ていたし、
真の男物の服を借りても何の違和感も無かった。
だが、今、目の前にいる糸は、真が普段着ているシャツを借り物と言わんばかりに、
だぼだぼな装着のままで動いている。
いつの間にか、こんなに女らしくなったのだろう？
糸の優しさや強さや弱さ････全部を知っているつもりだった筈の真は、
自分の大きさの中にすっぽり包まれる糸の姿に、これまで以上の愛着を感じていた。
「･････あのさ 糸さん」
「なんだ？」
真の服を借りたまま台所に立っていた糸は、はっと気付いて答えた。
「ごめん！エプロンしなくちゃだよな！汚れちゃうから･････」
一人合点して慌ててエプロンを探して周りを見回す糸に、面食らう真。
「いや･････そうじゃなくて･････」
言いにくそうに真が半分顔を隠して問い掛けた。
「･････下着は 着けてるよね？」
「･････は？･･････？･･･････！？・・・・・･･･････！！！」
真が何を言っているのか解らなかった糸だが、ようやく事態が飲み込めたらしく、
急に困ったように怒ったように耳まで真赤になってしまった。
「･････ばっ ばかっ 当たり前だろっ！！」
「･････そ･･･････そうだよね」
真が安心したようにもがっかりしたようにも取れる表情で、笑って答えた。
「ったく･････もうすぐ できるから向こうで待ってろ！」
「うん わかった」
糸が下着を着けていても着けていなくても、数時間後にはきっと意味の無いことになるのであろう。
いずれにしても、糸自身も真にとってのご馳走であることには変わり無い。
そんなことを考えているのかいないのか、真は持ってきた書類に目を走らせるふりをして、
自分のシャツに包まりながら自分のための食事を作る糸の後ろ姿を、幸せそうに見つめていた。
真が持ち帰ったその書類には、今のこの部屋よりも広い間取り図がいくつも描かれていた。
「ごちそーさま 美味しかった」
「ホントか？」
「うん 本当に」
「よかったー」
何をやっても真には敵わないと思っているが、褒められると素直に糸は喜んだ。
そんな糸の屈託の無い表情も、真は見ていて嬉しかった。
「じゃ 片付けちゃうから」
「いいよ オレがやっておくから」
結局、ふたりで片付けることになり台所に並んだ。
真が洗うそばから、糸がキュッキュッと綺麗になった証しの音を立てて拭き取って行く。
真が全部荒い終わって手を拭いたところで、糸が最後の食器を棚にしまうところだった。
「糸さん」
真が悪戯気味に、不意に後ろから糸に抱き付いた。
「わっ！」
糸は持っていた食器を落としそうになったが、持ち前の運動神経の良さで辛うじて堪えた。
「ばかっ 何やってんだ！」
「そんな格好でいつまでも居るからだよ」
真の体温をシャツ一枚越しに感じて、みるみるうちに体が熱くなる。
「･････しょ しょーがないだろ･････」
「うん オレは嬉しいからね」
囁くような真の声が、耳のすぐ後ろから熱い息と一緒に糸の理性に襲い掛かった。
それと同時に真の手が糸の胸を矢張り後ろから抱き締めた。
「あ･････」
思わず息が声になって漏れた。
下着とシャツを隔てても、真の手の動きや指の動きがはっきりと肌に伝わる。
「･････やっ････････」
真の腕をほどこうとしても糸の手には力が入らない。
真は抵抗できない糸の様子を悟ってか、シャツの中に手を入れると、
糸の柔らかい胸を守る下着を上に押しのけて、直にその膨らみを掌に収めきった。
ゆっくりだが、強く優しく両の乳房を揉まれるうちに、固くなって来た頂きをも、
指で挟まれて形に合わせて扱かれては、先端を突付かれた。
「やっ･････あっ･････」
大きめのシャツから露わになっている首筋に唇を添えられたまま、
攻められた胸が張りを持って尖って行くのが、糸自身にも解った。
真は十分に張りつめた胸から右手だけを離し、そのままシャツの下の肌を下へと滑らせて行った。
糸の大切な場所を隠す小さな下着は、真の手が触れた丘の辺りをすでにしっかり温めて、
その先の割れ目に至ると、真の指にも湿っているのが感じられる程になっていた。
糸の体が、着々と準備をしていることを察した真は、
糸への入り口を隠す布の間から脚を割って指を這わせた。
見えないながらも守りを固めるかのように生い茂った茂みを分け入り、
既に熱を帯びて熱くなっているその穴口へと辿り着く。
「･･････やだっ･････やめっ･････」
真の手の動きが恥ずかしくてたまらない糸から、空しい制御の声がこぼれる。
そんな声にも後押しされるように、真琴は糸の中に指を差し込んだ。
「････ぃやあっっ･････」
痛いのか心地良いのかどちらとも取れない糸の喘ぎ声の中で、
真の長い指がとぷとぷと糸の中へ沈んで行く。
「････やっ････まこ･･･････ぃやっ････」
真は力を緩める事無く糸を抱き締めながら、
首筋に舌を這わせ、片方の乳首を弄び、最後の砦に攻め入っていた。
「･････やあぁぁぁ････････」
普段は絶対に聞くことの無い真琴だけが知っている糸の甘い叫び声が、
真の欲求をもどんどん高みへと導いて行く。
「･･････糸さん･････」
糸の臀部に固くなった真の一部が押し当てられた。
次の瞬間、糸の下着はするりと降ろされ、白い臀部が更に白く蛍光灯に照らされた。
「･････あっ････」
糸はくるりと真の正面に体を向けさせられると、そのままぐいっと腰を持ち上げられた。
同意する間も抵抗する間も無く、無造作に開かれた脚の間に真が割って入るとほぼ同時に、
熟し切った糸の陰部に真の一部が突き刺さった。
「･･････ああぁぁっっ･････」
糸は真に腰を抱きすくめられながら仰け反った。
真は糸の全てを荒らし手に入れるかのように、奥へ奥へと自らを押し込んで行く。
「････ああっ････」
糸の中に分身の殆どを埋めてしまった真が少し腰を動かすだけで、
お互い体の芯には言い尽くせない快感が走り抜ける。
「･････んっ････あっ･････」
「糸さん･････」
真が、切ない表情で声を出す糸に、優しくも激しい口付けでその声を封じ込めた。
全てを自分に繋ぎとめておきたかった。
やがて、糸の中では、真の想いが液体の形を借りて愛の深さを伝えようとしていた。
――――― 一緒に暮らそう ―――――
――――― そんなふたりの願いが叶うまで、もう少し・・・・・あと少し・・・・・
【ＷジュリエットⅡ・１巻 発売記念 ～その１～】
まこりんのでっかいシャツを着る女の子らしくなった糸さんを描いてみたくて、
ただ、それだけで、こんな話になりました。
う～～～～む。
やっぱり落描きマンガのままで拍手絵で終わらせとくべきだったかしら？（悩）
もう出しちゃったのでいーです。くよくよしないでおこうっと。
それにしても、エロ話を書くの久しぶりで、全然勘が取り戻せませんです。参った。
巷では、ペ○スという言葉を堂々と表題に使って本が出ていたりして、（←この作家さん好きｖ）
うひょう♪と驚いたりしているのですが、今回はあえて使いませんでした。
だからか？ぬるいような気がするのは？？
いえ、精進します。
【ＷジュリⅡ】という話題が出てから、もう１ヶ月？経ちましょうか？
正直、今でも狐につままれた思いでいるのですが、本当に出るんでしょうね！？
それ程に、待ち焦がれた朗報だった訳です。
よくここまで、このサイト動いていたなあ・・・・・。しみじみ。
それもこれも、こんな世界に足を運んでくださる皆さまのお力添えのお陰でございます。
月並みな言葉ですが、本当にありがとうございます。
ところで、私はこの世界では、本編よりの発進で話を書くことを前提にしており、
それ以外は【迷い道】という呆れたシリーズとしております。
更に、学生時代の糸まこの関係をも大前提としておりましたが、
今後その決まりは、煙のように無くなって行くと思われますので、ご了承ください。
【ＷジュリエットⅡ・１巻 発売記念 ～その１～】
こちらは、涼さんからのリクエストに合わせてお送りいたしましたが、
全然リクに添っていなかったら大変本当に申し訳ありませんです（汗）。
【～その２～】は、また別の方のリクエストにお応えしたいと思いますので、
完成次第公開させていただきます。
お付き合いありがとうございました。
（2006.11.03）