「ちょっと濡れちゃったね」
「こんなの大したことないって」
「風邪ひいたら大変だから 早く入って!」
「え ああ ありがと まこ」
突然の雨に降られた下校途中の糸と真琴。
天気予報を信用してなのか、折り畳み傘を忍ばせていた真琴の機転でずぶ濡れにはならなかった。
だが、ふたりを一つの傘でまかなえる程、優しい雨では無かった。
ふたりがどんなにしっかり寄り添っていたとしても無傷でいるのは難しかった。
思いの外濡れてしまった糸は、真琴に誘われるままに真琴の家に立ち寄ったのだった。
「糸さん シャワー浴びなよ」
「いいよ これで充分だって」
借りたタオルで体に残る水滴を拭い取っていた糸が答える。
「だめだって ちゃんと温まらないと帰さないよ」
真琴に弱い糸は、言い負かされて浴室に向かった。
ザ――――――――
真琴は糸の濡れた洋服にアイロンをかけながら、糸を温めているであろう遠い水音を聞いていた。
髪から雫を滴らせ、湿ったシャツが体の線を写し出していた。
見るつもりはなくても目に入ってしまった普段と違う彼女の姿。
手元の洋服を通して、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と、重なって込み上げる独占欲に頭と体の熱が急に上がった。
火照った心が語り掛ける。
―――――――誰にも見せたくないよね?
それほどに水と戯れた糸は真琴の脳裏に焼き付いてしまっていた。
―――――――あのまま透明な水の中に沈めてしまえたらいいのにね?
真琴はいきなり立ち上がると躊躇うこと無く、糸が使用している浴室に向かい扉を開け、中に入った。
浴室のドアに鍵は付いていない。
「まこ!?」
驚く全裸の糸に真琴は抱き付いた。
湯気の中で湯にまみれた糸をシャツを着たままの真琴が抱き締める。
糸はシャワーを握ったまま、その口を何処に向けていいのか解らず立ち尽くしていた。
濡れていっそう滑らかな糸の肌に触れながら、
真琴は果てしない硝子張りの水の中で長い手足を存分になびかせる彼女の姿を思い描いていた。
あたかも、それは、美しい濁りの無い青い世界で、
美しい肢体を存分に見せつけて体をくねらせる熱帯魚のようにも見えた。
―――――――誰にも見せない。
―――――――飼っているのはオレだから。
―――――――だから
―――――――見ていいのもオレだけだから。
真琴はどうしていいのかわからないまま固まった糸を抱き締めたまま、
使われていなかった浴槽に勢いよく水を注ぎ始めた。
「・・・・・まこ?」
「・・・・・糸さん 糸さんはオレだけのものだよね・・・・・」
逆らわない糸に真琴が優しく問う。
糸が握り締めたシャワーから出る細やかな水音を嘲笑うかのような轟音を伴って
浴槽の水かさは
真琴の心に模られた大きな硝子の水槽の水かさは、どんどん増して行く・・・・・・。
その水かさは真琴の想いに比例していた。
数分前に真琴と糸を包んでいた筈の小さな傘のぬくもりは、もう何処にもなかった。
===== あとがき ======
誰とは言いませんが迷いまくってる恐るべし【迷い道】。
こんにちは。管理人です。
受け入れていただけるなら万歳vv
ドン引きされる覚悟もそれなりに・・・・・・・・がくがくがくがく・・・・・・。
今回のテーマは【言葉あそび】でございます(え?)。
己は某教育放送の回し者かっ!?(こんな得体の知れない回し者は居ないって)
【かさ】と【傘】で遊んでみましたvv
遊ぶにしては狂気の世界過ぎた気もしますが、皆さまの妄想力に後を委ねたいと思います。
(お前、逃げるのかっ!?←野原しんのすけ風に)
で、ふと気付いたら、前回の【えき】も他の言葉とかけられたな〜と(遅いって)。
話戻りますが、現実と妄想と想像の境目って、突然見えなくなったりするモノじゃないかと思います。
もちろん、流れ続ける日常の中で見失うことは無いと信じますが、
かすんで見えることはあるんじゃないかと。
そこから踏み込んではいけない世界に足を踏み入れてしまうのか、それとも踵を返して戻れるのか。
そんな不可思議な空気を感じてしまうのは私だけでしょうか?
【迷い道】、懲りずに迷い歩き続ける予定です。
時を割いて足を運んで心を砕いてくださる皆さまに、言い尽くせない感謝を。
ありがとうございます。
○○に傘の先を突っ込む・・・・・・っなんて期待してなかったよね?←こうしてまた孤独になる。
・・・・・キジも鳴かずば撃たれまいに。
(2006.01.25)