「糸さん ただいま」

「いい子にしてた?」



優しく話し掛けながら部屋の灯かりを点け、寝室に置かれた大きな箱を開ける真。


大きな家電が入っていたのかと思われるような、ダンボール製ながらも頑丈そうな大きな箱。
その中には、まるで通信販売で送られて来た人形のように長い手足を折りたたまれた糸が収まっていた。

裸体で居る糸の体温が奪われないように、薄橙色の柔らかい毛布がたっぷりと敷き詰められている。
毛布に包まれてそっと中を覗く真の方を見返すその目には生気が少ない。

真がだるそうに自分を見上げる糸を、本物の人形のように軽々と抱き上げて箱から出す。

人形と違うのは、その長い手が後ろ側に縛られていたことと、
同じように長くしなやかな足が、布紐という枷によって自由を奪われていたことくらいかもしれない。

昨日までされていた猿轡は、もう必要なさそうだという真の判断で今日は外されていた。

真は手足を縛り上げたままの糸をベッドの上にそっと横たえた。

ひとりで泣いていたのであろう涙の跡を残す糸の頬に静かにキスをする。
糸は抵抗もせずにされるがままに目を薄く閉じていた。

幾度か糸の顔にキスを落とした真は、変わらぬ糸のぬくもりに安堵したように糸の傍を離れて数歩歩くと、冷蔵庫を開けた。

その中から冷えたミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと
その液体を少しだけ口に含む。

そのまま飲み込まずに、ぐったりと横たわる糸の口に自分の口からさっきまで冷えていた液体を流し込む。

真が出かけてから何も口にしていない糸の乾いた口中に真から与えられた液体が染み込んだ。

ごくんと飲み込む糸の喉の動きを確認した真は、もう一度さっきより多くの水を口移しで糸に与える。

渇きを癒すために自分の唇を求める糸が、限りなく愛しかった。



―――糸さんにはオレがついて居なくちゃ―――



真が微かに怪しく微笑む。


口元からこぼれた液体を流す糸の髪をそっと掻き上げるとぐっと顔を近付けた。


「―――糸さん もっと欲しい?」


「・・・・・・・・・」

無言のまま潤んだ瞳で真を見つめる。

声にならない懇願の意を受け取った真は、糸の欲求に応えるべく何度も唇を重ね続けた。

そのうちに無くなってしまった水の代わりに、自分の舌で糸の口中を満たすように舐め回し糸の舌を捕まえ絡めた。


「―――ふっっ・・・・・・」

少しだけ正気に戻りかけた糸が絡みつき続ける接吻に息苦しさを訴えた。

真は糸の声に気付かないふりをして、執拗に糸の口を塞ぎ舌を求めては吸い付く。
離れていたふたりの短い時間を取り戻すかのように
ただひたすらに糸の柔らかく甘い唇と舌の感触を楽しんでいた。


長い長い熱いキスの後、やっと真が唇を僅かに離すと、
眉間に小さくしわを寄せる糸の顔が目に入った。

どんな表情の糸に対しても、今の真には止め処ない愛しさしか感じられない。

糸の蒼白い顔から繋がる更に白い首筋には、
何度も何度も繰り返し真によって付けられた赤い蒼い薄いあざのような印が点々と残っている。

その刻印はまるで何かの模様のように糸の体中に散らばっていた。
ところどころ消えそうに薄くなっているその刻印を新たに付け直すように
真は糸の体を吸い始める。


その仕草はまるで目の前に餌を与えられた猛禽類が、それを勢い良く何度もついばむのにも似ていたかもしれない。


真に唇を解放された糸が小さく声を出す。

「・・・・・・まこ―――」




「―――なに?」

「―――ほどいて」



「―――だめ」


糸の顔が、毎日何度となく繰り返されるうちに予想できていたであろう真の答えにきゅっと歪む。


「だって ほどいたら逃げるでしょ?」


糸の顔を見てそう言い放った途端、真の手が糸のはだけている乳房をわしづかみにした。

極自然に男の力を込められ、形の良い乳房に真の指がめりこむ。

「―――はふぅっっ・・・」

突然の真の乱暴な行為に糸の体が無意識に甘く反応する。

これも真による連日の調教の賜物なのかもしれなかった。

毎日、意に介さ無いまま真に犯され続けることによって、糸の体は恐怖心に捕われながらも
すっかり女の体としてのあらゆる感覚を開花させられていたのだから。


快感に捕われないようにと自分を必死に保ちながら、糸が小声で会話を続ける。

「―――逃げないから」


「―――まだダメだよ―――」

真は体の後ろで拘束していた糸の両手をベッドの片端に縛りつけた。
糸は横向きにベッドに貼り付けられる格好になっている。

真は糸の後ろから白い背中に手を触れ、撫でるその後をざらついた舌でねっとりと追って行く。

「―――あ・・・」

繰り返されて来た真からの無限とも思える愛撫に、糸の体は望まない快感も受け入れられるようになってしまっていた。

真は糸の苦しげな表情を読み取りながら、後ろから糸の乳房を揉みしだいた。
手に馴染むふたつの乳房を抱きながら、長い指先でまだ大人しい突起を細やかに刺激すると
簡単に摘めるほど素早く固く色付いて行くのが解った。


「・・・・・・まこ―――もう―――やめて―――」


「・・・・・・だめだよ―――」

真の片手は、拘束された糸の両足を後ろから割って閉じられた茂みに滑り込んだ。
その少し奥は、今にも糸の愛液が溢れ出ようと真の手引きを待っていた。
真の指が溢れた糸の愛液で黒い茂みを湿らせて行った。


「もうこんなにイヤらしく濡れてるよ」

「・・・・・・たまには 見せてあげるね―――」

真はベッドから起き上がると、糸に見えるように大きな姿見を目の前に立て掛けた。
両手の自由を奪われて寝返りをうてない糸の目に信じられないくらい哀れであられもない自分が飛び込んで来た。



「―――――!!」


頭の上で両手を結び付けられている。
それなのにふたつの乳房の先は赤くはっきりと女であることの自己主張をしている。
その上、閉じてある筈の恥部を隠す黒い茂みからは光の加減でぬらぬらと恥かしいテカリを放っていることが解ってしまった。

糸があまりの恥かしさにきつく目を閉じてしまうと、真がそっとその髪を掻きあげて
糸の耳に舌を入れた。

「―――!?」

予想しなかった場所へのねっとりとした熱を感じて糸の体温がどくんと上昇した。


「―――なんで こんなことするんだ?―――」

今の糸の当然の問い掛けにその耳に唇を触れさせたまま真が答えた。


「糸さんが悪いんだよ?」


「―――??」



「・・・・・・オレ以外の男を見るから―――」















     ―――――夕闇が静かに辺りを覆い始めた頃。



     「糸さん どうしたんだろうね?」
     「うん ずっとお休みだよね」

     「真琴さんには 連絡無いの?」

     美咲と伸子が 何日も続けて学校に来ていない糸を心配して話題にしていた。

     「ええ ずっと携帯も繋がらないし 心配してるのよ」

     「そうなんだ?」
     「でも糸さんのことだから 急に思いついて旅行とかに行ってるのかもしれないし・・・」
     「糸さんならあり得るかもね」

     「だからもう少し 様子をみようかと思っているの」
     「真琴さんがそう言うなら私達もそうしようか?」
     「うん そうだね」

     「じゃあね 真琴さん また明日」
     「さようなら」


     3人の中でひとり帰り道を別つ真琴が、遠ざかるふたりに向かって微笑みながら手を振っていた。




     ―――――辺りには、少しずつ少しずつ新しい闇が降りようとしていた










     ―――彼女を離さずに居られるなら どんな嘘でもついてみせる―――

     ―――彼女をひとり占めできるなら どんな人でも騙してみせる―――







     糸は真にとって、いつしか唯一かけがえの無い女になってしまっていた。


     ひとりで真っ暗と思われた長い出口の無い道を歩いて来た真に希望という光を照らしてくれた糸。


     ―――彼女を振り向かせたい
     ―――彼女を自分のモノにしたい
     ―――彼女をひとり占めにしたい

     そんな当たり前の願いを感じたのが始まりだった。



     それはいつの間にか

     ―――彼女の目に自分以外の男が映ることが許せない
     ―――彼女の手が自分以外の男に触れることが許せない

     抑えきれない欲求へと変貌して行った。



     ならば、いっそ―――――


     そう思っていたある日、
     真はとうとう自分の部屋に遊びに来ていた糸を監禁してしまったのだ。



     初めは抵抗していた糸だった。
     だが、幾日も体の自由を奪われ声を奪われたまま真に激しく長く求められ、
     意に反する気持ちの中にも自分の体の中に受け入れ続けているうちに、

     糸の体自体が、真のそんな一方的な愛を無意識に欲するようになってしまっていたのだった・・・。















真は、鏡に映し出された自分の淫らな姿に真赤になっている糸の両足を手早く自由にすると
その足を躊躇なく左右に広げた。
目前に広がった濡れた茂みの中の入り口に、戸惑うこと無く既にいきり立っている自分自身を突き刺して行く。

「・・・やっっ―――」

何度経験しても慣れないその衝撃に糸の腰が逃げようとするが、絶対に逃がさないという勢いで真が押さえつける。
糸の呼吸が真の体の下で激しくも小刻みに荒く変わって行く。


「―――逃げちゃだめでしょ?」

真が苦痛と快楽で半開きになった糸の口を自分の口でしっかり隙間無く塞ぎ、口中をも激しく犯す。
上からも下からも真に繋がれ、彼の熱と振動を与え続けられる糸に次々と快感が襲いかかる。

頭の奥まで真の全てに侵されて行く糸には、もう何も考えられない。




糸を抱き締める真の気持ちが大きな槍になり、糸の全てを求めて彼女の中を突き進む。
その全てを糸の体が高揚しながら熱く強く締め付け続ける。




―――糸さん 愛してる―――

―――いつまでも 愛してる―――

―――だから オレだけを愛して―――





糸に自分の想いの全てを伝えようと激しく腰を揺らし続ける真。

そんな真の全てを受け入れ続けてしまう糸。





糸の中に真の切ない想いの全てが、まるで嵐の中の激流のように今日も押し寄せて行く・・・・・・。








―――もう誰も見せない

―――もう誰にも見せない

―――もう誰も触れさせない

―――もう誰にも触れさせない





―――このまま絶対に手離さない







―――だって 糸さんにはオレがついて居なくちゃ ダメでしょ?







―――これからも ちゃんと しまっておいてあげるからね

























                   この幸せがいつまで続くのか―――――









                   その答えは 誰にも見えない―――――


























<迷い道 ――はこ――>

















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