「糸さん　ちょっとここで待ってて？　すぐ戻るから」
そう言い残して真琴は何処かへ行ってしまった。

桜の木が糸を取り囲むように立っている。
そしてその全てが、ざざっと風に揺られる度に、惜しげも無く小さな花びらを糸に降り注ぐ。


（卒業･･･　したんだよな･･･）

―――真琴と一緒に卒業できた―――

自分の頭の上に広がる空と桜を仰ぎながら、糸に新たな実感がこみ上げる。
真琴と離れ離れにならなくて済んだ喜びを、舞い散る桜の中でもう一度噛み締める。

糸と真琴が通う桜ヶ丘高校の卒業式が終わった。
さっきまでクラスの皆や部活仲間と写真を撮ったり歓談をしたりしていた。
そろそろ帰ろうか？と、ふたりきりになったところで、糸は真琴に取り残されたのだ。



「糸さん」
不意に後ろから真琴の声がした。

「お待たせ　糸さん」
「―――まこ？」
振り向いた糸の前に立っていたのは真だった。

なんで急に男の格好で？
真琴の行動が飲み込めない糸は大きな目をもっと見開く。
そんな糸に真は静かに語り始めた。

「今までありがとう　糸さん」
「え？」
「糸さんのお陰でオレは天野真琴として卒業することができた　そして今日からは成田真に戻れる
　糸さんが居なかったらオレはここまで来れなかったと思う　感謝してる　ありがとう　」

真が静かに優しくしっかりとした口調で話す数々の言葉を、糸は呆然と聞いていた。

「それから　これはずっと言えなかったこと」
真の手が糸の顔にそっと触れた。


「オレは　ずっと　あなたのことが好きでした」


「今までちゃんと言えなくてごめん　もちろん　今も好きです
　あなたはオレにとって　世界でいちばん大切な人だから」


「だから　これからもオレのそばに居てください　オレを支えてください」


大きくしなやかな両手で糸の頬をそっと覆ったまま、真が問い掛ける。
糸は突然の告白と問い掛けに固まったまま声も出せない。
それは心の奥底で２年間待ち続けていた真からの言葉に違いなかった。

無意識のうちに糸の目が微かに潤む。
その少し歪んだ世界の中に居る真に、はらはらと桜の花びらが舞い落ちる。
その真の背中にも、はらはらと桜の花びらが舞い落ちる。



「返事は―――」

どんっ！
糸の返事を促す真を、糸が自分から遠ざけるように力強く押し退けた。

「糸さ―――」
糸に突き飛ばされて驚いた真の声を遮って糸が語り出す。

「あ･･･あたしも　まこのことずっと好きで　まこと一緒だったから夢にだって近付けた
　だから　卒業したらまこに似合う女になれるように　もっと頑張ろうって思って―――
　決めて―――」

「はい　そこまで」
真赤になってたどたどしく話す糸の唇に真がちゅっとキスをした。

「なっ　なにすんだっ　いきなりっ」
「糸さんは何も変わらなくていいんだよ　今のままで充分魅力的だから」
（こいつは　また　そんなこっぱずかしいこと　さらっと言ってるし･･･）
糸はにっこり笑う真を上目使いに睨んでいたが、
その笑顔に毒気はすっかり抜かれてしまっていた。


「それで　返事は？」
真がもう一度糸に問い掛ける。


「ずっとそばに居るよ　真」

糸が誇らしげに真を見つめる。


待っていた糸からの答えに、真はこの上なく幸せそうに微笑んだ。


そしてもう一度ゆっくり糸に近付いた。
今度は顔ではなく糸の上半身を包むように抱き締めた。

「まこ･･･」
糸は逆らわずにいつの間にか自分よりずっと背が伸びた真の肩に顔を埋めた。

ふと顔をあげると、見慣れている筈なのにどきっとするような優しい目で自分を見つめる真の顔があった。
糸はそのまま真を待って目を閉じる。
真は迷わず糸の誘いを受けてさっきよりもしっとりと唇を重ねて来た。
角度を変えて糸の唇を吸う真に糸の体が何処からともなく熱くなる。

「あ････　んっ････」
真の舌が糸の歯を割って入って来る。
糸は思わず真の舌を自分の舌で絡め吸っていた。

そんな糸を抱く真の腕にぐっと力が入る。
反対に糸の体からは力が抜けて行く。
真との呼吸もままならない長い口づけを続けているうちに糸の膝が折れ、真と一緒に崩れ落ちた。

「･･･ごめん　大丈夫？　糸さん？」
不本意にも糸にのしかかってしまった真が自分の下に居る糸を気遣いながら身体を起こそうとした。
が、糸が真の首に両手を回したため、真の姿勢はまたもや崩れた。

「･･･糸さん？」
自分の下から自分を抱き締める糸に驚く真。
糸はうっとりと目を閉じている。
「まこって　気持ちいい･･･」
初めて聞くような糸の大胆な言葉に真の身体も熱くなって行く。
真は糸に身体を重ねたまま、頬に瞼に唇に何度も何度もキスをした。

そして糸の細い首にふっとキスをした時
「･･･ぅんっ･･･」
糸の口から微かに喘ぎ声が漏れた。
その声は糸に抱き締められた真の理性を飛ばすのに十分過ぎた。

糸の制服のジャケットのボタンを外し、袖を逃がす。
糸の口を塞ぎながら、ジャンパースカートを肩から下ろし、ブラウスのボタンをいくつか外した。
ふたつの膨らみを解放するのに足りるくらいブラウスの前をはだける。
その間、糸は真にされるがままだったが、その手は真の柔らかい髪や肩や腕をまさぐっていた。

真が糸の乳房を直に見れるようにした時、もうその先は立ち上がっていて、
真を感じている糸を見せつけているようにも思えた。
横たわる糸の体の下に広がる桜の花びら達が、その白いなめらかな肌をさらに美しく艶かしく装飾していた。

自分の乳房を乳首を、口と指で弄ぶ真を受け入れる糸の目の前には、澄み渡る青空と雪のように舞うピンク色の花びらだけがあった。

（ここはどこだったっけ･･････）

不思議な気分になりながら、糸は真からの愛撫に酔い続けていた。
ただただ、真が愛しくて、真の全てが欲しかった。
糸が真の全てを受け入れる準備はとっくに出来ていた。
いつしかスカートの中からずり下ろされた下着にもその証拠がねっとりとついている。
糸は自分から溢れ出る熱いモノを自覚しながらも、真に触られ続け真を触り続けていた。
一瞬でも真から離れたくなかった。
一瞬たりとも真を離したくなかった。

「あぁっっ･･･」
真が自分の中に下から入って来るのと同時に、とめどない嬉しさが糸の感情を隅々まで支配して行った。
真を受け入れている場所が熱く濡れて燃える。
糸は真と一体になることが自然であるかのような確信さえ抱いていた。
自分の中で動きながらどんどん大きくなっていく真の荒い息使いさえ、自分の息使いと連動しているような悦びを感じていた。



―――ずっとそばに居る―――

声にならない声で、もう一度真に答える。



真が糸の中に広がった時、桜の香りだけが愛し合うふたりを覆い隠していた。










＜もうひとつの卒業式＞










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