「・・・・・けほけほ・・・・」
「?まこ? どうした?」
「今日の発生練習 ちょっと上手くいかなくて・・・・・」
苦しそうに小さく咳き込む真琴。
日頃、弱い面を全く見せない真琴の苦しそうな姿を目にして、どぎまぎする糸。
「喉 痛いのか?」
「う・・・・・・ん ちょっと痛いかな?」
部活も終わって、一緒に家路を歩いていた糸と真琴。
途中までの帰り道が同じ部活仲間達とは、少し前の路地でいつものように別れ、今はふたりきりである。
「コレやるよ」
糸が無造作にポケットから、小さな包みを取り出して真琴に差し出す。
「なに? コレ ・・・・・飴?」
「さっき着替えてる時にさ 伸子にもらったんだ」
真琴はいつも最後に独りで着替えをしていたので、その前に皆で着替えている間にもらったのだろう。
「ありがと ケホ・・・・ でもコレ糸さんの分でしょ?」
「あたしの分もちゃんとあるって」
糸は笑顔でもうひとつをポケットから出すと、小さな包みを破って口へ放り込んだ。
「ねえ 糸さん」
「・・・・ん・・・・・なんだ?」
包みの大きさから予想したより大きかった飴玉を苦労して舌で転がしながら、糸が返事をした。
「今日って 実は私の誕生日なのよ」
「え? ・・・・・そ ・・・・・・そうなのかっ!?」
突然の告白に、糸が素直に驚いて隣を歩く真琴を見つめた。
「ご ごめん・・・・・知らなくて・・・・・何にも用意してないし・・・・」
「いいのよ 私も何も言ってなかったんだし」
真琴は何の邪気も漂わせずに、可憐ににっこりと笑う。
こんな糸の反応を見れることすら、真琴には嬉しくて楽しくてたまらなかった。
「だから気にしないで コレありがとう」
真琴は糸から受け取った小さな包みを、満面の笑顔の横でかざしている。
「・・・・・・でも 誕生日のお祝いなら ・・・・・・そっちが良かったな」
「え? なに?」
「糸さんが舐めているのは 何の味?」
「え? あ コレ オレンジっぽいと思う・・・・けど」
真琴からの唐突な問いに、慌ててポケットに突っ込んだ包み紙を取り出そうとしたが、
その動きを制止するかのように真琴が口を開く。
「ねぇ 見せてくれる?」
「あ? いいけど・・・・・」
そう言って糸は何の躊躇いも疑いも無く、舌の上に大きな飴玉を落ちないように乗せて見せた。
夕の陽を浴びて、透き通るように綺麗な橙色の球体が、突然に外の世界に表れた。
次の瞬間、真琴の顔が糸の顔に重なり、真琴の唇が糸の口を覆ったかと思うと、
その球体が、舌ごと真琴の口に飲み込まれ、細く艶かしく陽に光る一筋の唾液と共に、
あっさりと真琴の舌へ絡まれて連れ去られた。
「こっちも もらうね」
にっこりと笑う真琴は、ほんの僅かな間だけ、糸からさらった橙色の球体を舌の上に見せると、
美味しそうに口内に隠して何事も無かったように、いつもの歩調で歩き始めた。
立ちすくむ糸には、何が起こったのか、まだ飲み込めていない。
気付いた時には、真琴の後ろ姿に揺れる長い金髪を見ながら、
水面で餌を欲しがる鯉のように声も無く口をぱくぱくさせるのが精一杯だった。
鯉との違いは、公衆の面前でされた行為に耳まで真赤になってしまったことだけだろうか。
真琴は、糸から奪った飴玉をねっとりと舌で転がしながら、糸の前を自分の部屋に向かって、ずんずんと歩き続ける。
「オレが本当に欲しいものは あっちだけどね」
糸に気付かれないように男に戻りながら、糸からの距離を離し歩き続ける真琴の後ろから、
夕焼けよりも真赤になった糸が駆け寄ってその距離を縮めて来る。
いつの間にか手から滑り落ちた鞄を、真琴に持って行かれたことにもやっと気付いたらしい。
――――― さて ―――――
―――――糸さんに 何処で鞄を返してあげようかな?―――――
―――――糸さんを いつ 帰してあげようかな? ――――――
――――― 今日はオレの誕生日なんだから ―――――
――――― ねぇ? ―――――
――――― いいよね? ―――――
【まこりんお誕生日祝い2006】
表と殆ど変わりなくて、全然エロくなくて面目ないです(悲)。
絵を描きたかっただけなんです・・・・・(懺悔)。
まこりん、ごめんよー。
お誕生日、おめでとー!
(2006.09.18)