★★★★ 告白[糸ver.] ★★★★
あたしは姑息で卑怯だ。
何も知らないふりをしながら、まこが行動を起こすのを待っている。
しかも、変化のきっかけは自分で作っておきながら・・・。
確かにこの先に進む事にためらいがあったのは否めない。しかし、この夏、まこに触られる以前からも抱きしめられたりキスされたりする度に下半身に異変は起こっていた。
それはあたしにとっては自分が女という性である事を強く意識した革命的と言える異変だった。
子宮の奥が伸縮しているような妙な気持ち、尿意に似ているが違う。それに併せて動悸が早くなり、そして胸の奥も痛む。もっと触って欲しいような、怖いような複雑な感情が渦巻く。
そして、必ずあそこから粘液が滲み出してくるのがわかる。
誰かに気付かれる前に早く綺麗に拭わなければという焦り。
まこの眼差しが男に戻ってきらめく度に、あたしは身体全体で彼の魅力に引き摺られそうになっていた。
彼の立場を考え、不用意に彼の「男」が露出しないように気をつけねばと、気持ちを抑えて軽く接する度に心のどこかで不満を感じる。その不満は時には悲鳴にさえもなっていた。もっと触りたい、そして触られたい。だから合同夏合宿ではいつもより近くに常にいられて幸せだった。勿論、あたしの身体の葛藤をまこに勘付かれた状況も併せてあたしは嬉しかったんだ。
正直な話、まこに触れられた時は心の準備が追いつかない状況だったが、全然嫌ではなかった。あたしのブラの下に這いこんできた手や、下着の中に侵入し、あの部分に差し込まれた指先の躊躇のなさには少々驚いたが・・・。
告白すると、あの時の陶酔感が忘れられずに、まこの真似をして快感が得られるかをあたしはすでに何回も試している。「マスターベーション」と呼ばれる行為。
夜、照明を切って、ベッドに入った後、すぐ眠れないとあたしはまこを思い出す。自動的に彼に触れられた場所に自分の指を這わせる。こんな事、自分でも恥ずかしいけど、止められない。
一度、竜良のアホが部屋にやってきた事はある。辞書か何かを貸して欲しいと声をかけられ、ドアを開けられた。
廊下の明かりがぼんやりと暗い部屋の中を照らす。あたしは自分の行為を勘付かれる事を怖れ、寝返りを打って、ドアに背を向けた状態で寝た振りをした。竜良は少しぐちってドアを閉めた。廊下を兄達の部屋に向かって歩く足音が聞こえ、ホッとしてそのまま
寝たのを覚えている。
このまま、無邪気な振りをしてまこを潜在的に挑発するのは間違っている。
あたしは十分卑怯だけど、気付いたからにはそれは改めるべき。
もしかしたら、スケベで変な女と思われるかもしれない。
まこに軽蔑されたり、気持ち悪いと思われる可能性を考えたら身が竦むほど怖いけど・・・、気付いてしまった事を無しにするなんて芸当はしたくないし、出来ない。
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9月下旬のある日曜日
文化祭の打ち合わせの為に、まこが約束通り我が家にやってきた。
早速、あたしの部屋に上げて打ち合わせを開始する。
あ、でも丁度2人きりになった事だし、ここのところ考えていた話をすませられるかな?
「まこ、打ち合わせの前にひとつ別件いいかな?」
「どうしたの、糸さん?」
「夏合宿で一緒に空き部屋に缶詰になった時にあたし。」
まこは先を促すようにあたしを見ている。
「勝手に・・・えっと、ズボンを開けて触っただろう?」
んーー。落ち着かないな。あたしが手にしている台本をまこが眉をひそめて見ている。
あ!よれよれになっている!?
「あたしが無知だったせいもあるけど、あの時は本当にまこが苦しそうに見えたので、あたしで何かできっるんじゃないかと思って・・・。いやらしい気持ちじゃなかったんだ。」
あたしは話す順序をうまく組み立てられない自分にもどかしさを感じながら進める。
「思えば、あの時からまこの態度が変わった。もしかして、あたしの考えなしの行動で惑わせたんじゃないかと・・・。」
「糸さん、今日はセリフの稽古と打ち合わせに来てるんだけど。」
「あっ!そうだったな。ごめん。この前、この事に思い至って、何とか2人の時に話したかったんだけど、なかなか機会がなくて。」
あたしはちょっと落ち込んだ。そうだよね。時と場所を考えなくちゃいけないよね。
「それについては別の日にね。今日は予定通り稽古をしよう。」
「うん・・・。」
でも、その日は竜良の大騒ぎのせいであまり稽古にならなかった。いや、あたしにも落ち度はあったな。まこの件でいらいらして、あいつにしわ寄せいったかも・・・。
ま、最終的にうまく落ち着いてよかったよ。まこにも迷惑かけちまった。
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「いやー昨日は悪かった。まこにも色々と迷惑かけちゃったね。」
翌日、登校した途端にまこと出くわした。
「こちらこそ、車で送っていただいたり、夕食をごちそうになったり、ありがとうございました。」
「夕食って言っても、あの騒ぎだったから合間に軽いサンドウイッチだったし、送るのも悠斗兄が勝手に送っていったし、礼を言うほどではないと思うけど。」
「どちらも悠斗さんにわざわざお骨折りいただいたものです。感謝していた旨、伝えておいてくださいね。」
毎度の事ながら、こいつの気の配りようはすげーな。
「礼儀正しいってか、うちの兄貴相手にそこまで気を使う必要はないぞ。」
「親しき仲にも礼儀ありです。ところで、昨日は十分な稽古ができなかったし、何か糸さんのお話もあるようだし、良ければ今日、うちに寄りますか?」
「あーそういえば、まともに稽古できなかったね。」
「時間とれるなら、ついでにご飯も食べてく?」
「うーん、(ごくっ)そうだね。じゃ、家に電話してくる。」
「じゃ、今夜のメニュー考えときますね。」
めしに釣られたわけではないぞ!確かに昨日は予定通りの打ち合わせは出来なかった。
お、そうだ。電話のついでに真琴さんからのお礼を悠斗兄に伝えねば。あれ?今は家にいないよな?んじゃクリスさんに伝言伝えるかな?
あたしはあれこれ考えながら公衆電話に向かった。
HR 始まるまでに家に連絡できそうだ。携帯あれば簡単だけどな。
いや、安易にそんなもの手にしたら、始終チェックがはいりそうだ。
その日、部活に出た後、まこと一緒に食材の買い物をした上でアパートにお邪魔した。
一緒に夕飯の元を買い物するなんて・・・すごく親密な感じで嬉しかったりした。
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「それで、合同合宿の時の事を今頃蒸し返したのはどういう事?」
いきなり、本題を突きつけられ、バッグから台本やメモ帳などを取り出しかけていたあたしは動きを止めてしまった。まこと一緒に軽く夕食を食べ、後片付けをした後の話だ。
「ああっ!その話ね。うん。」
アパートに戻り、当然のように私服に着替えたまこは自分のベッドに寄りかかるようにして床に座り、片ひざ立ててあたしの返事を待っている。
なぜかわからないが、まこが男の格好に戻るたびにあたしは正視できないものを感じる。
単純な話、こいつは格好いい。女装している時には抑えられている気配が変わり、別人の様なひやりとした雰囲気になる。多分、こっちが「地」なんだと思う。真琴でいる時は基本的にまこが考える真琴を演じているんだ。
通常モードでもこの吸引力だから、スケベなことをしようとする時には更に拍車がかかって逆らえなくなる。
「その話。まさかあの状況で稽古中に話す内容ではないと思ったから、一日待ってもらったけど、糸さんが何を気にしているのかわかりにくかったので、説明してくれる?」
「うーんっとね・・・。」
あたしはポツポツと自分の言葉を使って考えていた内容を説明した。
まこの「なに」に考えなしに触れてあのような状況に陥った。元々が自分の思慮のない行為が原因かもしれないのに、まこに対して「スケベ」呼ばわりをして非常に心苦しく思っている事。あたし自身の欲望に関しては、告白する勇気がなかなか出てこない。
「そういうわけで、あたしも色々と反省した上で、まこに謝罪したかったんだ。」
「なんで謝罪?」
「だって!今説明したけどっ!・・・」
急にまこがひざ立ちになり、テーブルを回ってあたしとの距離を詰めてきた。目つきが変化し始めている。そのまま、動けないあたしをやんわりと床に押し倒し、のしかかってきた。
「あのね。」
そのままあたしに頬を寄せて囁いてくる。ぐあ、拒否する余裕なんてどこにもない。
「糸さんのあの行為はオレにとっては予測できない驚きだったけど、嬉しかったよ。」
「ええ?」
「結果的に期待していなかった満足感も味わったしね。」
「・・・」
我ながら赤くなったのを感じる。ここまで引っ付かれると隠しようがない。なんで、咄嗟にこんな思わせぶりなセリフがでてくる?そういえば、まこってアドリブ強かったな。頭の回転が速い?羨ましいこった。
「勿論、糸さんは世界一大切だからある程度のストッパーはかけていますよ。でも・・・。」
ひ〜、いつのまにか頬を舐めてるよ。この人。
そのまま滑らせた舌で唇をノックしている。もしや開けろって合図?
「機会さえあればいくらでも関係を進展させる心構えはあるけどね。」
こじ開けられた口に深くまこのそれが重なってくる。いつの間にか慣らされた執拗なキスを受けながら、意識が朦朧としてくる。やばい、流される。
「だから、あの行為自体にはちょっと驚いたけど、あれが原因でおかしくなったというわけではないんだよ。それに。」
「あっ!」
いつのまにかあたしが着てるコットンセーターの裾から入れられた手がやんわりと下着の上からあたしの胸を鷲づかみにした。朦朧としていたあたしもその刺激に意識が戻った。
鷲づかみにした乳房をゆっくりと揉みながら、こちらの顔を覗き込んでくる。正視出来ない程鋭い目つきで観察されているのを感じた。慌てて顔を背けると、くすっと笑って耳を舐める。
(ひーっ!)
背筋がゾクゾクとし、痙攣したように身体が一度反応した。それに気付いたように低く笑い先を続ける。
「健康な男子が好きな子を前にしてスケベになるのは至って普通だと思うけど?」
低い声で優しく紡がれる言葉を耳にしながら、あたしはじわっとあそこが湿ってくるのを感じてた。ああ、又だ。又あたしは逃げるのか?本当の本音は隠したまま、まこに行動させるのか?
「オレの気持ちわかってくれた?」
「う・・・ん。」
「では、稽古しよっか。」
「まこ。」
「ん?何?」
起き上がろうとしていたまこはもう一度屈んであたしの顔を覗き込んだ。
「あたしはまこに触られるのが好きだよ。あの。」
「・・・。」
「H な事されるのも好きだと思う。」
まこの目が大きく見開かれる。
「キスされるのも、スケベに触られるのもまこ以外からは考えられないし、気持ち悪い。想像しようとしてもあまりの気味悪さに想像できなかった。」
「・・・。」
「でも相手がまこなら触りたいし、触られたい。たぶんあたしも、スケベなんだと思う。気持ち悪いかもしれないけど、これはあたしの本音。」
「・・・。」
「あたしだけ本音隠すのもフェアじゃないと思うから告白しました。えへへ。」
あたしは押し黙っているまこに一方的にぶっちゃけて、最後に笑いでごまかした。
まこが何も言わずにここまで呆然となっているのも珍しい。
もしかしたら、あたしのとんでもない発言にびっくりしてる?
びっくりするだけならいいけど・・・あたしは嫌な予感が当たらないよう祈った。
軽蔑されたかなぁ?
まこはしばらく黙ってあたしの顔を凝視していたけど、表情が消えたように見えた。
何を考えているのかわからない。しばらく黙って見つめ合っていたけど、あたしの我慢が限界に近づいた頃にため息をついて口を開いた。
「糸さん・・・ってバカ?」
無表情だったまこの顔に色が戻る。にこやかにあたしを見つめている。
でも、顔の表情は微笑に見えるけど、目が冷たい。
軽蔑された?あたしは目の前が真っ暗になった。
軽蔑された状態でまこが次に何を言うのか、自分の罪状を読み上げられるような気分で待った。
「何、呆けてんの?」
まこは起き上がりかけていたあたしをもう一度床に押し戻し、あたしの上で馬乗りに座りなおした。
その状態であたしの顔に顔を近づけて、口付け寸前のような近い距離で止めた。
「そんな話を今の状態のオレにするなんて。本当にバッカじゃないの?」
言いながら、あたしのあごに手をかける。あたしのおなかの上に座っているまこの股間に硬いものを感じた。それに気付いたあたしは自分が墓穴を掘った事に気付いた。
「口開けて、舌出して。」
まこの指先が力を入れてあたしの口を開ける。痛かったので、途中から自発的に彼の命令に従って舌を出した。目の前の絶望的に鋭い眼差しに萎縮したせいもある。
出されたあたしの舌を見ながら、まこの口角が上がった。
「いい子。」
そのまま、咬みつかれるようなキスをされた。あたしが差し出した舌にやんわりと歯を立てて自分の口に引き込み、まこ自身も大きく口を開けて、深くあたしと口を合わせる。
まこに持ってかれたあたしの舌は彼の舌に絡まれ、吸われた。
舌を引き抜かれそうな激しさにあたしは呼吸困難に陥って彼の胸を叩いた。
「まこ・・!」
キスが途切れた瞬間に息をつき、彼に文句を言おうとしてもすぐに又口を塞がれる。
いつの間にかまこの左手があたしの後頭部に差し込まれ、顔をそむける事さえもできなくなっている。
角度を何回も変えて、まこの舌が今度は攻め入ってきた。2人分の唾液が混じってあたしの口の端から流れていく。あまりにも激しくて、快感を感じる以前に苦しい。涙が少しこぼれたのを感じた。
これって、罰?
いつも優しいまことは打って変わったきつい側面を見せられ、あたしは泣けてきた。
軽蔑されたから?
もう好きではなくなったから?
がっかりしたから?
一旦流れ始めた涙は止めようとしても止まらない。口が塞がれているのでしばらくは喉を詰まらせて泣いていたが、途中から開放された。まこの前でこんな泣き方をしたのはしばらくぶりだった。あ、鼻水まで出てきた。現実なんてこんなものだ。
いつのまにか、まこは行為を止め、黙ってあたしを見てた。
そんなまこに気付いて見上げたら、ティッシューを数枚まとめて渡された。
「鼻かんで。」
「あ・・・ありがと。」
そういえば、いつも棚の上にあるボックスティッシューがなんで床にあるんだろ?
あたしは鼻をかんで、更に新しいティッシューを渡されて涙も拭いた。
「ごめんね、糸さん。本音を聞かせてくれてありがと。」
え?なんで感謝される?さっきまで怒ってなかった?
どうやらあたしの疑問は表情に出ていたらしく、まこは優しく微笑しながらあたしの残っている涙を唇で吸い取った。
「あんな話を聞かされた日には先延ばしに待つ気持ちがすっ飛んだ。」
「え?」
「悪いけど、全力でセックスさせてね。少々痛いかもしれないけど、最後には喜んでもらえるようがんばりますので、よろしく。」
「(ええ?何このセールストーク?)あたしの話を聞いて引いたんじゃないの?」
「ん?引く?なぜ?」
まこは新しいティッシューをあたしの鼻にあてがって、「はい、チン。」と言い、条件反射であたしは鼻をかみ、子供のように鼻を拭われた。ちょっと屈辱。
「はっきり言って、オレ的にはすごく嬉しかったよ。どこにも引く要素などないけど?」
「でも怒ってた。さっきのキスもすごく乱暴で。」
「は?なるほど、そうとられたか。」
目を和ませたまこがあたしを抱きしめた。
「手加減無しの全開でいけると思ったら興奮しちゃったんだ。」
「えーと・・・それって。」
「やりたい気分がオレだけではなかったとわかり安心したの。今日はあきらめる予定だったあんな事やこんな事もできるかもって思ったら制御できなくなった。怖がらせたのならごめんね。」
「・・・。(あんな事やこんな事?)」
あたしはたまらなく不安になってまこを見上げた。
まこはいつも通りの優しい微笑をたたえている。
先ほどの苛烈な表情と動きを思い出すと冷や汗が出そう。
自分からまな板の上によじ登った鯉の心境だ。
* 交歓[ゑひもせず]に続く *
★★★★ 告白[真ver.] ★★★★
糸さんには出合った頃からすごく惹きつけられた。
この自由奔放で一途な人に魅せられないということ自体困難だ。
当然のことながら、彼女の回りには自然と人が集まってくる。
さて、オレは現在の状況には少々苛ついている。
無事卒業し、父親との勝負に勝利し、将来のこと、周りのこと、オレ自身の状態などに一区切りつけないことには糸さんに対する責任は取れないと思い、頑なに一線を引こうとしていたのもそれ故だ。しかし、大きく開き始めた大輪の花の香りはオレを悩ませる。
時が過ぎ、一緒にいてもはっきりと気付けるほどに糸さんは変わってきた。
どんどん綺麗になる。糸さん自身は自分のことをがさつで乱暴者と考えているようだが、ちょっとした拍子に見せるそのたおやかさを目にするたびにオレは焦燥感に駆られる。
キスする時、抱きしめる時、笑顔を見せられる時・・・、オレは彼女の芳しさを感じる幸福に狂いそうになる。それは殆ど魔力のようだ。
ここに至って自分の我慢の限界に来ていることはわかっている。
オレはぎりぎりのバランスで張り詰められた自分の状態も承知している。
どんなに自分を抑え、気をつけても、その時は来る。
糸さんをくわえ味わい尽くす時は、やがて来る。
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9月下旬のある日曜日
文化祭の打ち合わせの為に、約束通り糸さんの家を訪れた。
彼女の兄弟達やクリスさんに挨拶の後、早速、糸さんの部屋で打ち合わせを開始する。
でも、急に糸さんが思いつめたような顔をして詰め寄ってきた。
「まこ、打ち合わせの前にひとつ別件いいかな?」
「どうしたの、糸さん?」
「夏合宿で一緒に空き部屋に缶詰になった時にあたし。」
オレは先を促すように糸さんを見つめた。
「勝手に・・・えっと、ズボンを開けて触っただろう?」
糸さんは話しながら、手にしている台本を丸めたり伸ばしたりしている。
落ち着かないせいだと思うけど、台本がよれよれになってるぞ。
「あたしが無知だったせいもあるけど、あの時は本当にまこが苦しそうに見えたので、あたしで何かできっるんじゃないかと思って・・・。いやらしい気持ちじゃなかったんだ。」
糸さん、何言ってるんだ?何故、今頃になってこの話題?
・・・ってか、家でする話題じゃないぞ。今は気をつけて声を低めてるけど、この人、激昂すると吼えるし、怒鳴るし、暴れるし(?)。
「思えば、あの時からまこの態度が変わった。もしかして、あたしの考えなしの行動で惑わせたんじゃないかと・・・。」
(おいおい。)
「糸さん、今日はセリフの稽古と打ち合わせに来てるんだけど。」
「あっ!そうだったな。ごめん。この前、この事に思い至って、何とか2人の時に話したかったんだけど、なかなか機会がなくて。」
しゅんとなった彼女には悪いけれど、自宅の自分の部屋とはいえ同じ家の中に家族がいる状態で話す内容ではないよ。
「それについては別の日にね。今日は予定通り稽古をしよう。」
「うん・・・。」
でも、結局その日は竜良君の写真騒動であまり稽古にならなかった。
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「いやー昨日は悪かった。まこにも色々と迷惑かけちゃったね。」
翌月曜日、登校した途端に糸さんと出くわした。
「こちらこそ、車で送っていただいたり、夕食をごちそうになったり、ありがとうございました。」
「夕食って言っても、あの騒ぎだったから合間に軽いサンドウイッチだったし、送るのも悠斗兄が勝手に送っていったし、礼を言うほどではないと思うけど。」
「どちらも悠斗さんにわざわざお骨折りいただいたものです。感謝していた旨、伝えておいてくださいね。」
糸さんは感心したように目を見開いた。
「礼儀正しいってか、うちの兄貴相手にそこまで気を使う必要はないぞ。」
「親しき仲にも礼儀ありです。ところで、昨日は十分な稽古ができなかったし、何か糸さんのお話もあるようだし、良ければ今日、うちに寄りますか?」
「あーそういえば、まともに稽古できなかったね。」
「時間とれるなら、ついでにご飯も食べてく?」
「うーん、そうだね。じゃ、家に電話してくる。」
「じゃ、今夜のメニュー考えときますね。」
糸さんって警戒心ない。真琴の姿で誘うとあっさりと話が進むから楽だなー。
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「それで、合同合宿の時の事を今頃蒸し返したのはどういう事?」
いきなり、本題から始めたら台本を取り出しかけていた糸さんが固まった。
軽く夕食を食べ、後片付けをした後の話だ。
「ああっ!その話ね。うん。」
オレはアパートに戻った途端に女装を解いてくつろいだ姿に戻った。
ま、くつろいだ姿って言っても制服から私服に着替えただけの事だけどね。
このところ、糸さんはオレが女装を解くたびに目を泳がせる。
特に変な格好はしてないよ?今日は長袖のクルーネックにチノパンだから、糸さんの服装と似たり寄ったりだしね。
それなのに・・・こらっ!そこ?なぜ目をそらす?ま、いいけどね。
「その話。まさかあの状況で稽古中に話す内容ではないと思ったから、一日待ってもらったけど、糸さんが何を気にしているのかわかりにくかったので、説明してくれる?」
「うーんっとね・・・。」
糸さんがぽつぽつと言葉を選びながら説明してくれた内容を簡単にまとめると、あの時オレの「なに」に考えなしに触れてあのような状況に陥った。そしてそれが原因となってオレの現在のご狼藉ぶり(?)に至っているのではないかと心配されているらしい。
元々が自分の思慮のない行為が原因かもしれないのに、オレに対して「スケベ」呼ばわりをして非常に心苦しく思っているとの事。
説明を聞きながら、オレはあきれるやら、ムカつくやら、糸さんの人がいい箱入り娘振りに少々疲れてしまった。
「そういうわけで、あたしも色々と反省した上で、まこに謝罪したかったんだ。」
「なんで謝罪?」
「だって!今説明したけどっ!・・・」
あー面倒くさいな。オレは律義に説明を繰り返そうとする糸さんを床に押し倒してその上にのしかかった。
「あのね。」
目の前にある赤くなった愛しい顔に頬を寄せて俺は囁いた。
「糸さんのあの行為はオレにとっては予測できない驚きだったけど、嬉しかったよ。」
「ええ?」
「結果的に期待していなかった満足感も味わったしね。」
「・・・」
糸さんの頬が更に熱くなったのを感じた。可愛いよね、この人は。
「勿論、糸さんは世界一大切だからある程度のストッパーはかけていますよ。でも・・・。」
熱くなっている糸さんの頬を舌先でなぞる。我ながら軽くフェチ入ってるなぁ。
そのまま、糸さんの唇を舌でつつく。
「機会さえあればいくらでも関係を進展させる心構えはあるけどね。」
舌でこじ開けた糸さんの口に深く自分のを重ねていく。彼女との口付けを堪能した後、口を外して続ける。
「だから、あの行為自体にはちょっと驚いたけど、あれが原因でおかしくなったというわけではないんだよ。それに。」
糸さんのコットンセーターの下から手を忍ばせて、彼女の乳房をブラジャーごと覆った。
ゆっくりと揉みながら顔を見ると真っ赤になって目を泳がせている。こりゃ耐えてるな。このブラとりたい・・・。
ブラの下の乳首が硬くなってくるのに気付いた。耳に口を寄せると反応するし、この感度の良さは最高だ。
「健康な男子が好きな子を前にしてスケベになるのは至って普通だと思うけど?」
もっと悪戯したい・・・と心が命ずるままに突っ走ったら止められなくなりそう。
今の状態で手放すのはオレも半殺しっぽくて嫌なんだけど、明るい明日の為にも理性を総動員させて停止信号を送った。
「オレの気持ちわかってくれた?」
「う・・・ん。」
うわ。なみだ目でオレを見上げた。(ため息)
「では、稽古しよっか。」
「まこ。」
「ん?何?」
起き上がろうとしていたオレはもう一度屈んで糸さんの顔を覗き込んだ。
何だか、急に改まっちゃってどうしたんだろ?
そのオレの耳に糸さんのとんでも告白が突き刺さった。
「あたしはまこに触られるのが好きだよ。あの。」
(ぐおっ)
「H な事されるのも好きだと思う。」
待って待って、これって意図的?なぜにこのタイミング?
「キスされるのも、スケベに触られるのもまこ以外からは考えられないし、気持ち悪い。想像しようとしてもあまりの気味悪さに想像できなかった。」
「・・・。」
「でも相手がまこなら触りたいし、触られたい。たぶんあたしも、スケベなんだと思う。気持ち悪いかもしれないけど、これがあたしの本音。」
「・・・。」
「あたしだけ本音隠すのもフェアじゃないと思うから告白しました。えへへ。」
何がえへへだ。オレは頭痛を感じた。正気か?我慢しているオレにこの仕打ちか?
いや、待て。お互いに望んでるってことじゃないか?あーダメだ。
短い間にオレの頭の中で「やる?やらない?」の決断から進める手順、手元にあるゴムの個数まで色々な考えが溢れた。それにしても糸さん。自分の発言の効果、わかってる?
たぶん、わかっていないだろうな・・・。オレは少々イラついてしまった。
糸さん相手にこれほど凶暴な気分になるのは珍しい。
「糸さん・・・ってバカ?」
糸さんの表情が曇る。オレが何にイラついているのかわかんない?
オレの心の葛藤とは裏腹にオレの身体は欲望に忠実に戦闘準備を始めている。
「何、呆けてんの?」
起き上がりかけていた糸さんを押してもう一度床に戻し、馬乗りに座りなおした。
その状態で彼女の顔に自分のそれを近づけて、告げる。
「そんな話を今の状態のオレにするなんて。本当にバッカじゃないの?」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情の糸さんのあごに手をかける。
だめだわ。もうストップはきかなくなった。
「口開けて、舌出して。」
指先に力を入れて彼女の口を開けようとしたら、自発的に従ってくれた。
「いい子。」
そのまま糸さんの舌をオレの口腔に引きずり込んで思う存分味わった。
しかし、途中で苦しくなったらしい糸さんに胸を連打されて中断。
「まこ・・!」
中断されたキスを再開、角度を何回も変えて、糸さんの唇を味わいながら、オレの行動は次第に下半身に支配され始めた。頭の中では糸さんをこのまま泊める画策をし始めた時、彼女が泣き出している事に気付いた。何、その反則技?頭のどっかがスッと冷えた感じ。
相手が糸さんじゃなかったら、そのまま気にせず事を進めるところだけど・・・大事な糸さん相手にそんな暴挙はできません。まだ理性が残っていた事に感謝しつつ、行為を止め、泣き止むのを待ってみた。
糸さんは泣きやめたくても止められない状態らしい。オレはかなり興奮気味だったので少々乱暴だったのかもしれない。
しばらくしたら、オレが見守っている事に気付いたらしく潤んだ目で見上げた。
あまりにも可憐な風情にドキッとしながらティッシューを数枚まとめて渡す。
「鼻かんで。」
「あ・・・ありがと。」
続けて更にティッシューを渡し、彼女はそれらで涙も拭いた。
「ごめんね、糸さん。本音を聞かせてくれてありがと。」
泣いた原因がわからないけど、言うべき事は言っておこう。オレはこの期に及んでも、彼女を逃すつまりはさらさらない。でも、初体験が強姦ってのを避けるためにも問題解決の努力はしないとね。
糸さんはオレのセリフに驚いているようだけど、何か誤解でもしてない?
はてな?・・・と思いながらもオレは糸さんの涙を吸い取り、続けた。
「あんな話を聞かされた日には先延ばしに待つ気持ちがすっ飛んだ。」
「え?」
「悪いけど、全力でセックスさせてね。少々痛いかもしれないけど、最後には喜んでもらえるようがんばりますので、よろしく。」
「あたしの話を聞いて引いたんじゃないの?」
「ん?引く?なぜ?」
やはり何か誤解しているのかもしれない。新しいティッシューを糸さんの鼻にあてがって、「はい、チン。」と言い、条件反射で鼻をかんだ彼女を愛しく感じながら、言葉を続ける。
「はっきり言って、オレ的にはすごく嬉しかったよ。どこにも引く要素などないけど?」
「でも怒ってた。さっきのキスもすごく乱暴で。」
「は?なるほど、そうとられたか。」
一連のオレの態度などからそう考えていたのか。内心、結構くるもんあったからなぁ・・。やっぱり言葉にする事をはしょるとろくな事にならん。気をつけよう。
「手加減無しの全開でいけると思ったら興奮しちゃったんだ。」
「えーと・・・それって。」
「やりたい気分がオレだけではなかったとわかり安心したの。今日はあきらめる予定だったあんな事やこんな事もできるかもって思ったら制御できなくなった。怖がらせたのならごめんね。」
「・・・。」
しまった。言わんでもいい事まで言った。
糸さんの表情が不安そうになったので、オレはいつも通りの優しい微笑を浮かべて彼女を見守った。
* 交歓[ゑひもせず]に続く *
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爆弾連続投下中
(2013.04.29)