まおの世界には、クリスマスという行事はあるのか?
いや、あることにしてみた。別に不思議ではない。
ニホンのサッポロ国には、サンタらしき存在が確認されているらしいのだから。
12月。
とうとう今年もおわろうかというこの時期に、ニホンは大荒れに荒れる。
謎の宗教団体が、真っ赤な服を着て、それを雪に染めながら謎の雪中行軍を行うのだ。
ただしニホンで雪が降る場所は非常に限定されているため、この謎の宗教団体を見ることができるのはサッポロ国内だけと決まっている。
そう言うものなのだ。
彼らは都市伝説というか。
「毎年毎年、そう言うデマを流す連中が居るから」
マジェストは困っていた。
正確に記述すると、別に何も頭を悩ませるほどの事はなかった。
悩んでも居なかったりしてる。
彼は今年は準備万端なのだ。
でも悩まされているのは、誰より何よりまおである。
この時期になるといつもマジェストにねだる。
「ねーねー、いこうよー、おんせーん」
「何しに行くんですか。そんな事より書類何とか終わらせてください。この時期はそうでなくても忙しいのです」
マジェストはあきれ顔で。
でももう判っている顔で。
まおもそれを見越しているような、絶対諦めない顔で。
「わかってるけどさぁ。今年の年末ぐらいいいぢゃないの。どうせ何も起こらないって」
ぺたん。
もう何もやる気がないのが目に見えた、机に突っ伏した彼女。
はんこも転がっていてなくなってもおかしくない。
机の上でぱたぱたと踊る掌。
「勇者だってねんまつはきっといそがしーのよ。のんびり温泉にでもつかりたいよ」
「……魔王陛下」
きらりん。
「な。なに」
「陛下は、温泉ではなくサッポロに行きたいのではないですか」
ぎくり。
「な、なに。なにをこんきょに」
「根拠も何も。陛下、ばればれで御座いますよ。どうせ赤い服を着た宗教者を捜して居るんでしょう」
ぎくぎく。
「ついでに言うと、ケーキとか七面鳥とか、あまつさえ靴下を持ってプレゼントを手に入れようとか考えてるのではないですかな」
「あ、あはー、そんなー、そんなことないよぉ。みんな疲れてるだろうからー」
棒読みで答えるまおに彼は大きくため息をついて親指を鳴らす。
それにあわせて、執務室の扉が大きく開く!ばばーんと!
「!」
がらがらがらがら……
「まお様、七面鳥の丸焼きで御座います」
「まお様。ケーキ焼けてる」
丁度体が隠れるほどの大きな台車に、銀色のお盆と蓋を乗せてアクセラとシエンタが。
「めりーくりすまーす!」
「どうせ宗教団体に踊らされるぐらいならと思いまして。今年は用意させていただきました。これでサッポロ行きはご勘弁下さい」
てきぱきと料理を並べていくアクセラ。
シエンタは再び執務室の入口から駆けだしていく。
「え、え」
とか驚いて料理を見回すまおに、口元をにやりと歪めてマジェストが言う。
「最高級らしきドンペリのようなものもご用意させていただきました」
「何故どれも確定じゃないの」
とてとてとてと再び現れるシエンタが両手に抱えているのは銀のバケツ。
氷を詰め込んだその中に、黄緑色のボトルが二本。
「きんきんに冷えて御座います」
そう言って、細いシャンパングラスをまおの目の前に差し出す。
「たまにはよいでしょう。聖夜を祝う魔王というのもどうにもこうにも不自然ですがね」
とぽとぽとぽ。
爽やかな炭酸の音と共に、黄金色の液体がグラスを満たし、白く曇ったグラスを解かしていく。
「如何ですか?」
並べられた料理と、シャンパン。
呆気にとられた顔のまおはゆっくり言葉の主を捜すように顔を上げて。
破顔する。
「うん♪」
12月25日。
多分魔王も閑かな夜。
「……今年ぐらいはゆっくりしたかったんですが」
「帰ってナオに甘いものでも食べさせて楽しみたかったよねぇ」
フユとアキは司令部で残業中。
「今年は雪が降るのが遅いな」
「ちぇー。早くふってくれねーかなぁ」
寮の窓から空を見上げる、ナオとキリエ。
取りあえず何事もなく平和に。
閑話休題。
サッポロでは、赤い服を着た集団が謎の雪中行軍を行いながら、靴下をばらまいていたという。
「わるいごはいねがー、わるいごはいねがー」