ラジオが始まって何ヶ月かして。
 あんまり反響がなかったので、宣伝を繰り返してみた。
 今回はまおにお願いしてみる。

 かちゃり。
「ハーイ、収録終わりでース。お疲れさまでしター」
 少し言葉尻のおかしな声が聞こえて、真央はヘッドホンを外して机の上に置いた。
 ふう、と一つため息をつく。
 嫌いな仕事ではないが、こうも体力を消耗すると立て続け仕事をとることもできない。
「おつかれさまー」
 同僚に手を振って、しばらく席に着いている。
 今日は草臥れた。こんな日はさっさと家に帰って紅茶でも飲んで寝るべきだ。
 真央は同僚を見送ってから立ち上がって、扉に向かう。

「こら陛下、何をなさっているんですか」
「真央は同僚から声をかけられた。草臥れているから、力無く右手を挙げて応えて」
 まおは脚本を片手に、しゅたと右手を挙げて振り向きもせずにマジェストに応える。
「あーのーでーすーねー」
「いたた、痛い痛いってばまじーっ」
 そのまま足音も気配もなくまおに近づくと、両手で彼女の耳を真上に思いっきり引っ張る。
「突然何をなさっているんでございますか、魔王陛下」
 抑揚なくまるで事務的に言う彼に、まおは涙目で振り向くとぷうと頬を膨らませる。
「なによぉ。ちょっとしたお茶目じゃないの」
 ぱさりと落ちる脚本のタイトルは『パーソナリティ真央』。
 どうやら彼女の手書きらしい。
「ふう。まあ、番外編を収録したのも含めてこれで既に5回も配信したんですからね」
「1.5回ってのもあるからもう6回だよ」
 今度は口を尖らせてそっぽ向く。
 何が不満で何かが限界なのだろう。
「何か、嫌なことでも?」
「だってぇ。……ぶるーにもなるよぉ。はんのうないんだもん」
 どーやらかなりさびしーらしい。
 ため息をついてふむ、と頷くマジェスト。
「実は反応はあるんですがね。…魔王陛下、リスナーは増えてるしヒット数も増加傾向にあるんですよ」
 顎に手を当てて撫でながら、ぐずぐずふてくされている魔王を見下ろす。
「この間りくえすとでGIFTした時乃流さんとこにも掲載中でございますし」
 魔王の世界征服日記Gifted、天翔る龍の煌めきで絶賛公開中。
 無論、私は絶惨後悔中(汗)。
「ほんとに?でもおたよりはまだないんだよ」
「はい、ございません。魔王陛下に対して畏れ多いからでございます」
 ほんとにー?と眉根を寄せて思いっきり疑問形でマジェストを睨み付けるまお。
 当然です、とほんの僅かにも疑わない姿勢でふんぬとふんぞり返るマジェスト。
「あいどるになれる?」
「なれません陛下。魔王陛下は魔王にしかなれないんです」

  がびん

 いかに本当のこととは言えかなりショックだったらしい。
 普段なら小さく『がびん』なのに。
「はなよめには?」
「んー、努力次第じゃないですかね、陛下なら」
 むぅ。
 唸ってまおはその場にあぐらを組んで考え込む。
「あいどるになれなくてもはなよめにはなれるのかぁ。しんろへんこうしようかなぁ」
「お待ち下さい魔王陛下、ラジオのパーソナリティからは逃れられないんですよ」
「え゛」
「第一その選択は、般ゲーヒロイン出来ないから美少女ゲーム業界に走るヒロインと同じですよ」
 同じなのかよ。
「ん、それでもいいかも」
 おまいもそれでいいんかい。