ばちばち。
そんな激しい音を立ててすぱーくしそうなぐらい、火花がでる。いや、でそうだ。
「む」
「なんだよ」
取りあえずここは厨房。
まおとキリエ。
目の前にはボウル。
そして、厨房を包み込むあまーい御菓子の香り。
まあ所謂チョコの香りだ。
そしてそのボウルの前で二人は、腕まくりをして真っ白いエプロンをして、三角巾で髪の毛を包んでいいる。
厨房は女子の戦場。そしてその装束は戦装束。
「〜♪」
何故か女子じゃない奴も紛れているが。
「……あいつは一体誰にチョコを作るんだ」
キリエはやたら手慣れた仕草でチョコを型に流し込むミチノリをジト目で睨む。
「ユーカさんじゃないの」
ちゃかちゃか。
まおはオモチャみたいな型を並べて、どろりと溶けたチョコに人差し指を突っ込んでいる。
「あいつは一応男だ。ユーカだって女だ」
逆じゃないのか?
キリエはそう思いながら自分のチョコにブランデーを一滴。
用意したチョコは砂糖は全く入っていない完全なストレートだから。
――はちみつはちみつ
どろり。
――牛乳も……
冷えたまま。
――にひ
キリエの表情が固まるのを横目で見て、口元を歪めるまお。
溶けたチョコを型に流し込もうと傾けて。
「あっとっと」
型をはみ出してしまうのを止めようとして、慌てたせいで逆向きにボウルがくるん。
宙を舞うボウル。そして。
「あーっっ!」
合掌。
「あながち間違っていないぞ、少年よ」
ユーカはナオの前でずず、とお茶をすする。
「ちなみに、ほら。私からだ」
とユーカは丁度掌にすっぽり収まる程度の、真っ赤な箱を白いリボンで包んだものをナオに差し出す。
「え?……なんだ?買収でもする気か?」
ナオは訝しがってユーカを睨む。
ユーカはくすくすとおかしそうに笑うと箱を彼の前に置いた。
「しないさ。ただ、一生懸命な少女達と少し張り合おうと思っているだけだ」
くすくす。
まだこの時点では誰も知らなかった。
「〜♪」
実はミチノリもナオにチョコを用意しているという怖ろしい事実に。
巨大な手袋で冷凍庫にチョコをしまいながら、彼は『ナオの喜ぶ顔』を思い浮かべていたかどうかはさだかではない。
ただ、後日彼の姿を一週間ほど見ることはなかった。