マジェストの『えあこん・ろーぶ』はスイッチ一つで冷房になる。
 あんな涼しげな顔をしているのだから、実はと思いたくなるであろう。
 これはそんなある日のできごと。

  そろそろジュースの恋しい季節。
 サッポロでジュースといえば、我々のいうところのアイスクリームとか、シャーベットの意味で。
 まおもそわそわし始めていた。
「ねー」
「言っておきますが陛下、あいすくりぃむはございませんぞ」
 ばん。
 ばばん!
 何故か効果音付きで、やたらと迫力を持たせながら近寄ってくるマジェスト。
「な、なんだよぉ、まだなにもいってないよぉ」
「言わなくても判りますとも陛下。ええ陛下」
 ずずい。
 何故か、どこかひんやりした空気が彼から流れてくる。
「……」
「な、どうかいたしましたか」
 じと。
「まじー。えあこんのすいっちきりかえてない?」
 眼鏡をくいと押し上げる。
 彼の眼鏡にはご都合反射能力が魔術で付加されており、きらりと光を反射してその奥の顔を隠してくれるのだが。
「何のことでしょう」
 やっぱりその時もきらりと反射して、彼の貌は判らなかった。
「ろーぶだよろーぶ!こないだ切り替えるっていってたぢゃないの!」
「ああ、そのことですか。そんなことしませんよ」
 しれと言うと、彼はそそくさと背を向ける。
「まてまてあやしーっ」
 ばん、と机を叩いて、彼女は全力で飛び上がると机を超えてマジェストの背中に飛びかかる。
「わ、陛下っ」
「このこの」
 ごそごそ。
「わっ、わわっ、へーかっ!」
 ごそごそ。
「ぶーわっっ!なんだよ一体っ!どーしてそんなにすずしーかおしてるのってばさっ!」
 大慌てでローブの中からでてくるまおは、ただそれだけのことで全身汗だくになっていた。
「だから切り替えていないと、言ったではないですか」
「で、でもだって、涼しい風が」
 きゅぴーんとマジェストの目が光る。
「それがこのローブに仕込まれた魔術の素晴らしいところ。外部の熱を吸収して、内側に熱帯もびっくりの温度と湿度を」
「それ以上せつめいするなあつくるしい」