冬の風物詩は、サッポロでは有り得ない。
 みんなも(自分もだけど)忘れてるかも知れない。
 サッポロは常に冬なのだということを……。
 いつもなら、そろそろくりすます・シーズンなんだが。
 お月見はろいんみたいに何度も繰り返すとばかばかしくなってくるもので。
「そろそろさんたさんもあきたなー」
 相変わらず執務机に頬杖のまお。
「まじー、なんかないー?」
「なんかないではございません。仕事してください」
 まったくもってセイロンである。アッサムではない。
「えー。めんどーくさいー」
「まったく……魔王陛下がそんなだからですね、人間どもが蔓延って」
 ぶつぶつ。
 ぐつぐつ。
「……陛下。なにをなさっているんですか」
 ぐつぐつ。
「ん。酒ほっとつくってるの。寒いじゃない。この季節だと酒ホットかしょっちゅーのおゆカクテルだよね」
 いつのまにか執務机のそばに小さなコンロ(キャンプ用はストーブとも言うらしい)を開いて鍋をかけている。
 しょっちゅーというのは、安く大量にアルコールを摂取できるため『しょっちゅう呑める』というところから付いた蒸留酒である。
 酒から作るのが一般的だが、他にも穀物なら何でも良いらしく、ぽてとしょっちゅーや泡しょっちゅー、おおむぎしょっちゅーなどがある。
 なお某所でとれるしょっつるとはちがう。念のため。
「……陛下」
「あ、まじーはおでん用意して、おでん。もーこんな日は温泉で酒ホットでしょ!」
 ←大きめの画像あります(文字なし)
「陛下。妄想はそこまでにしてください」
 ぐい。
 ずずい。
 ばばーん。
 お説教モードに入りながら、まおに一歩迫るマジェスト。
「おーでーん!どーせ今年何にも考えてないんでしょ?おんせんもさんたもないんでしょ!だったらおでんぐらいいいじゃないの」
 ぶすー。
 まお、お説教モードに立ち向かうのは今年初めてだ!しかしもう今年ももう終わるっっっ!
 しばらく、お説教モードまじーとまおのむくれっつらが向かい合う!
「……仕方ありませんね」
 なんと、マジェストが折れたっっ!
 今年最後の快挙だっっっ!怪挙かもしれないっっ!
「アクセラ、シエンタ」
『はーいマジェスト様ー』
 がらがらがらがらーと、相変わらずで二人が大きな台車に乗せたものを持ってくる。
 しかくい。
「おー♪」
 おでん屋台である。勿論屋台仕様なので下にコンロがついていて、だし汁は大量に入っているので一日中煮込んでも沸騰しない。
 なんだかんだいって準備の良いマジェストである。
 大根なんかだしが芯まで染みこんでいて、もうおたまじゃなければ取り出すのも難しい状態である。奇跡にちかい。
「シエンタ!私だいこんとこんにゃく!からしだめだよ!」
「はいまお様ー」
 うきうきしながら、呆れる貌のマジェストにおちょこを差し出す。
「!」
 受け取ると、そこにまおがあつあつの酒ホットを注ぐ。
「ほらほらー。呑むよー食べるよー♪」
 勿論自分にも。とっとっとっとっ♪
 執務室はいつの間にかおでん屋台でよく見かける光景に様変わりしていた。
 おちょうしとおちょこから、いつの間にかコップに変わり、おでん屋台にはのれんがかかり、アクセラは親父役、シエンタが接待役である。
「こらまじーっ!ネクタイをあたまにまくなー!」
「しかし陛下、今日というーきょぉーわ、いわせてもらいますよぉ」
 何故か絡み酒のマジェストだったりした。