いつも辛い雨ばかりのこのきせつ。
 魔王の城周囲もこの季節ばかりはまるで大洪水というか東南アジアの雨期というか。
 でも今年はあんまり降りませんでしたねー。

 じとじと。
 とうとう一年でも最も嫌な季節がやってきた。
 つゆである。
 じっとーと壁や机が湿り気を帯び始めるのを、まおは疲れた本当にもう駄目な表情で見つめている。
「……うっとうしい」
 まおはぼそりと呟いた。
 そのジト目の先に、マジェストがずもーっという感じに項垂れている。
「あつい……なんて気分が悪いんだ……」
 自業自得のような気もする。
「ほんとー、恵みの雨っていうけど、この時期って気温も上がるから暑苦しくて仕方ないよね」
 肌の上にじっとり湿り気が残っている感じ。
 シャワーを浴びてこようと思う。
「あ、陛下、そう言えばシャワー室は故障してつかえないそうですよ」
「なにっ!」
 がたん。
 一大事に思わず声を荒げて立ち上がる。
「ええ、本当で御座います。修理中で、業者が来る予定になっています」
 業者が魔王の城を修理するらしい。
 というより、シャワー室って、大浴場でもないらしい。
「そかー。こまったなー」
 本気で風呂はないのか。
「そのうちナメクジでも這い出してきそうですね」
「いやなことをいうな。まったくー。ろくでもない事を」
 ぐでり。
 いい加減湿気で元気も削りとられてしまった。
 文句を言う元気もなくて机に突っ伏す。
「しかし……しかし陛下」
「あによ」
「ほら、背中に迫るナメクジの群が」
 びくっっ!
 大慌てで振り返って、いつもの石壁をじろじろきょろきょろ見回す。
「いない、いないよね」
「……当たり前で御座います陛下。背中に迫るナメクジの群が居たら怖いよねというお話に過ぎませんよ」
「先に言えーっ、ばかー、まじーのばかーっ」