大晦日まで雪の降る魔城周辺地域。
今更雪なんか珍しくないが、彼女の住む周辺では確かに珍しいんだ。
だからといって。
「うわぁ」
ぶるぶる。
大分冷え込んできて、まおは襟にラクーンファーがあしらわれた白いコートを着込む。
これ、実は大のお気に入り。
「大分寒くなってきましたな、陛下」
とことことマジェストが姿を現して、まおにカップを渡す。
カップからは湯気が立ち上っていて、甘い香りが執務室に満たされる。
「わ。まじーへん」
「誰がマジー=ヘンドリックですか」
じと。
「だれだよそれ。そんなこと言ってない」
おもいっきりぼけたマジェストをジト目で睨み付けながら、カップを受け取ろうとする。
ひょい。
避けられる。
「ダメです」
「な、なんでよー」
「今私のことをへんといいましたから。折角作ったんですが、捨てちゃいましょう」
どぽどぽ。
「わ、わーっ」
まおの見てる前で、そのカップを逆さまにして、中に入っていたショコラオレは床にぶちまけられてしまう。
「まじーっ!」
どん、と両手を机に叩きつけるようにして体をつっぱり、両目に大粒の涙をためてマジェストを睨み付けるまお。
「はい」
だが、すっと彼が差し出したカップにはやっぱり同じものがなみなみと湛えられていて、甘い香りを漂わせている。
まおは?マークを頭の上に飛ばす。
「あ、あれ?」
「魔王陛下。まずはあやまりなさい。折角魔王陛下のためにお作りしたというのに」
そう言って彼はカップを自分の手元によせて、まおから手が届かないようにする。
「え。あー。……うん。あの、ごめん。でもまじー、いつも私のことバカにしたりからかってるじゃない」
それも事実である。
まおが口を尖らせたくなるのもしかり。
「魔王陛下。もう年末、今年の総決算。……そんな時期に、私がそんなことをするとお思いですか」
どこか真摯で、優しい表情を浮かべながら、しかし。
「うん。おんなおいしい事を逃すまじーじゃない」
がびん。
「どうして陛下はここまですさまれたのか……。わかりました、では陛下の年越しそばは抜きということで参りましょう」
「こらまてっ!もしかしてこれはそのための布石だったのかっ!ま、まじー、やめてほんきじゃないでしょ!」
にやそ。
「うーわーっごめんなさーいっ」
なんだかいつも通り、年末も平和な魔城の一角だった。