季節が季節だから、やっぱりやってみたいのはこれ。
 実はこのときのキャラクタの人気投票に被ってたりするんだけど。
 夏の日差しが見える頃。
「ふー、ふー」
 岩山の奥にある魔王の執務室は、以外に涼しかった。
 自然というのは偉大な物で、地下に氷を永遠に保存できるほど涼しかったりするのは極当たり前なのだ。
「うわぁぁん!」
 がたん、と大きな音を立てていすを蹴倒して、両目からだくだく涙を流しながら叫び声を挙げる。
「いやだ、もーやだーっ!」
 半狂乱で叫ぶシエンタ。
 彼は、暑くないとはいえ決して寒くないこの魔王の執務室で、まんまるく着ぶくれしたまま外に向かい走り去っていく。
 のこされたのは、みかん箱の上に載った、食べかけの鍋焼きうどん。
「はい、一人おちでございます」
 冷静に言いながら、左手でもったクリップボードの上にペンを走らせるマジェスト。
 そして彼の周囲にあるだるまストーブ。
 それも三つ。何故彼は汗を一つもかいていないのだろうか。
 信じがたい事に、まるでそこは温泉のように熱気に包まれていた。
「よし」
 顔を真っ赤にして汗だくになりながら、卵を絡めたうどんをすするまお。
 小さくガッツポーズ。
 残りは3名。
 まお、アクセラ、何故かフユ。
 全員既に鍋焼きうどんを制覇しつつあるここは、魔王の執務室を使った『がまん大会会場』だった。
 強引に全員参加させたまでは良かったが、五分と持たずに十人を切り。
 さらに五分と待たず五人を切り。
 そして、今シエンタが泣きながら去っていったのだ。
「順当と言えば順当」
 フユが何事もなかったかのようにレンゲでとき玉汁になったつゆを飲む。
 ちらりと視線を上げたフユと、まおがばちばちと視線をかわす。
 そして、何事もないようにしてアクセラはゆっくり鍋焼きうどんをすする。
「んくんくんく……」
 鍋毎ずずずとつゆを飲みながら、そのまま真後ろにばたーんと斃れる。
 危険な倒れ方だ。鍋をそのまま顔に被って、鈍い音が執務室に響く。
「一人墜ちでございます」
「まじー、漢字違うよ」
 アクセラを片手でひょいと担ぎながら、マジェストは反対側の手を人差し指を立てて振る。
「微妙に間違っておりません」
 そう言うと、フユとまおの二人の顔を見比べて、僅かに微笑みを浮かべる。
「では、頑張ってください」
 汗一つかかないまま、マジェストは執務室を出る。
「先にでられては如何ですか。今なら審判は見ていませんから」
 フユは表情一つ変えずに言う。
「ふ、ふん、いっとくけど言霊は使っちゃダメだかんね。私に隠し通せないんだからね」
「……判ってます」
 じとり。
 温度がさらに上がったように感じた。
「ふふ、ん、なんだかんだ言ってふらふらしてるぞ〜」
 まおが虚ろな眼差しで言う。
「それは、あなたの視界が揺れているんです」
 応えるフユも、くらりくらりと頭が揺れる。

  くりんくりんくりいん ぱたりん

「はい、二人落ちでございます」
 そして。
 何故か大会委員長兼審判のマジェストが優勝の名乗りを上げたという。
「なんで」
「所詮この世は謎だらけなのでございます」