魔王の世界征服日記
あけましておめでとーございますぅ。
魔王城最奥、俗に言う謁見の間。
「あけましておめでとーっ!らいねんまでまたよろしくーっ」
右腕を、拳を握りしめて大きく伸ばし、ぶんぶんと振り回すまお。
それに合わせて、彼女の振り袖がぐるんぐるんと遅れて回る。
時々浮き上がる右足に僅かに全身がゆらゆら揺れる。
「魔王陛下、そんな格好でそんな暴れ方をしたらやう゛ぁいですよ」
でも顔は全然焦っていない。
むしろにこにこ。
第一突っ込みどころはそこではない。
「ふむう。来年まで連載が持つのでしょうか」
をい。冷静に作者に喧嘩を売るな。
「ねねね、ほらほら、和服もにあうでしょぉ」
彼女は長い髪を綺麗に纏めて、後ろにかんざしやら櫛やらをがすがす飾り立てている。
後れ毛がみょんみょんと、何故か前にも後ろにもはねている。
「ええ。魔王陛下はどんな姿をされてもサイコーです」
つい、と彼女の目が引き絞られてジト目になる。
「……今日のまじー、口調に抑揚がないよ」
「年に一度ですからね。今日ほど突っ込みどころが多すぎて迷う日は有りません」
よく見れば、額がぴくぴく、貌も引きつりっぱなし。
「たとえば魔王陛下。和服って何処の文化なんですか」
「え゛」
絶句するまおに、立て続けにマジェストは言う。
「らいねんまでよろしくなんて怪しい挨拶もありません。その髪型は何ですか。第一、魔王が正月を祝ってどうするおつもりなんですか」
とうとうぶち切れて叫び出すマジェスト。
がーっとか背景に背負いながら、両腕を上げて。
「……おとなげないなぁ」
ふ、とため息と共に肩をすくめるまお。
ぜいぜいと荒い息をついてそれを見下ろすマジェスト。
「判りました陛下。ただちに世界を征服する計画を各種目を通していただきます。明日から実行する計画もありますのでそのつもりで」
むんず。
襟首をふん捕まえる。
「あ゛」
「さあ執務室へこもりましょう。ええこもりましょう、軟禁状態で缶詰状態で終わらせましょう」
ずるずるずるずるずる
「うわーわーううわーっ、ねーっ、新年からこれかーっ!いーやー助けてーっっ」
ずるずると謁見の間の奥の闇へと消えていく。
多分、今日は平和だった。