魔城のテラスから覗く、魔城の入口前に積もりきった落ち葉。
 魔城周辺は別に四季が有るわけではないので、何故かと言われると困るが。
 ともかく、紅葉した木々に合わせて、地面は落ち葉で一杯だった。




「なかなかに風流ですなぁ」
 秋が近づいて、紅葉する。
 色づいた木々の葉を眺めながらお茶をすするマジェストはうっとりしながら言う。
「ほんと、きれーだね」
 ちょこんとその隣に座ってあしをぶらぶらさせるまお。
 これぞ秋の醍醐味。
「春はサクラ。秋は紅葉。四季を彩る木々の貌は、その季節を良く現すカンバスのようなものでございますなぁ」
 うんうん、と自分の喩えに頷くマジェスト。
「でもさぁ」
 まおは哀しそうな貌でマジェストを見返し、もう一度木々に目を向ける。
「春のサクラも、秋の落ち葉も、もう少し少なかったら綺麗にみえるかもしれないんだけどね」
「同感で御座います」
 木々の下には絨毯のように落ち葉が敷き詰められてしまっていて、地面など見えなくなっていた。
 そこに、とことこと小さな二人の影が近づいていく。
 アクセラとシエンタである。
 彼らは箒を持って、落ち葉を掃き始めた。
「おお、早速始めましたな」
 ふたりがちょこまかと落ち葉を掃き集めていく。
 でも、集まる落ち葉の割には片づくものではない。
 こんもりと山になっていくだけで、全然集まっていないようにしか見えない。
「…………」
 いらいらいらいら。
「あ゙ーっっ!」
 がたん、と立ち上がるまお。
「まじー!でるよ!」
 マジェストが声をかける間も有ろうか、すたたっっと駆けだして、あっという間に見えなくなってしまう。
「あああ。……魔王陛下、一人で外にでられないのに」
 数分後。
 くすんくすんと泣いているまおを連れて城外にでる。
 まあそんなんだから、先刻の苛々も勢いも出る前にしぼんでしまっていて。
「では陛下」
 すと差し出した箒を見て嫌そうにジト目。
「えー。なんで魔王がはきそうじするの」
「先刻陛下がやると言ったからです。やらないんだったらやらせますよ」
「結局やるんぢゃん。……ちくしょー」
 ざっ、ざっ。
 履いても履いても落ちてくる落ち葉。
 量も多いが。
 まおは大きく伸びをするような恰好で木々を見上げる。
「やっぱり、落ち葉拾いは根源から絶たなきゃ」
「立木を切り倒しては参りませんぞ陛下」
 ぎく。
「な、なんでよー。そうじってのは根本からきれいにすることでしょー」
 ふふん、とマジェストは口を歪めるようにして笑い。
「そんな事をして落ち葉が落ちなくなったらどうするおつもりですか?」
 と、懐から銀色の塊をちらりと見せる。
「う、あ、えーと。おちばひろいばんざーい。おちばさいこー」
 くすくす。
 その後妙に機械的に掃き掃除を始めるまお。
「やっぱり、落ち葉を集めたらこれにかぎりますからなぁ」
 彼に懐には、アルミホイルにくるまれた大きめの芋がごろごろ入っていた。
 焼き芋という魔性の化物は、魔王ですら魅了する。
 今年も城門付近の落ち葉は多い。
「今回は、お裾分けも多くできそうですな」
 城下に見える人間の街を見下ろして、彼はひとりごちた。