普段魔王は何をやっているのだろうか。
 これは、そんな魔王の隠された日常の一こまを描いた問題作である。

 魔王の執務室の隣にある、会議室。
 そこでは参謀級の魔物がずらりと並び、どよめいていた。
「ゆうしゃからの宣戦布告ですぞ陛下!」
 既に魔城にゆうしゃと思わしき一団が、魔物の盾を突破粉砕しながらここ魔城中心部へと突き進んでいる。
 はちくの勢いとはまさにこのこと。
「判っている」
 まおは偉そうに、でも小さくて可愛らしいんだが、胸を張って言う。
 小さいけど。
 何の真似か、まん丸いだて眼鏡をかけて必死になって目をつり上げている。
「――マジェスト、我々はおしまいか?」
 彼女は(吸えもしないのに)ふところから四角い金属製のケースを取り出して開く。
 びろぉどをあしらった箱の内側に、4本並ぶ葉巻。
 彼女はその一本に手を伸ばす。
「Non、Non」
 彼女の真後ろに直立不動で控えていたマジェストが、器用に指先だけを左右に振って応える。
「ぶっちゃけありえません!この程度、ピンチのうちにも入りませんぞ!」
 すっとまおのすぐ側に彼は足を踏み出し、その場全員の貌を一瞥してからまおに顔を向ける。
「ただちに現在地からシエンタが」
 びくっと貌を引きつらせて、泣きそうな貌でマジェストを見返すシエンタ。
「入口付近からアクセラが迎撃、いや特攻を敢行いたします」
「やめやめ。さすがに冗談ですまないぢゃん」
 まおは草臥れた貌でじろりとマジェストを睨み付けた。
「ぷふー、やっぱりこんなんじゃ本気にもなれないよねぇ」
 大きくため息をついて伸びをすると、首を回して自分の肩を叩く。
「しかしたまには訓練しておきませんと。いざというとき困る物です」
 マジェストが至極まともな事を言う。
 しかし、まおはしかめ面で眉を寄せてマジェストを見上げる。
 大きな玉座の上で、足をぶらぶらさせながら。
「いざというときって?」
「恰好いい科白を考えておいてもすぐ使えるとは限らないですからね」
「それのどこがいざというときだ!」
「いえ陛下、激しく緊張している中で、間抜けな会話は厳禁!シリアスモード突入したことに読者がついてこれなくなりますぞ!」
 まおは大きくため息をついて、肩をすくめる。
「こんな脱力系ギャグ小説にシリアスもくそもないよぉ」