おおっと。
 イージーミスをしてしまったからネタを出さねば。
 でも罠もあったりする。

 ぺこりん。
 舞台袖から現れた、燕尾服姿のマジェストは大きく頭を下げる。
 こうしてみればまだまだ若く見えるが、その態度や身のこなしはまさに執事。
 一流の執事である。
「もうしわけありませんでした」
 顔を上げると、でも、先刻までに毅然とした執事然な感じがなくて。
 両目からだくだくと、まるで漫画のように涙を流していて。
 そう、言葉にすれば『ぶわわっ』って感じで。
「まさかFTPアップデートログにも、鯖のでぃれくとりにも名前があってあっぷでーとできていなかったなんて!」
 ぶわわ。
 さらに激しく涙を流す執事。
「こうなったらこのマジェスト=スマート、お詫びをしなければ生きていくつもりのない所存でございます」
 激しく拳を振り、ぎゅっと自分の前で握りしめてかたかた震える。
 無論コレで彼は素である。
 別に大したことを言っている訳でもないんだが、何となく凄いことを言ってるようにも見える。
 彼は両腕を大きく広げる。
 真後ろにある緞帳を一瞬振り返る。
「と言うことでみなさん、今回は極秘映像を入手しました」
 そのまま右手をきゅと握りながら、自分の前に持ってくる。
「このマジェスト=スマート、苦節432年と8ヶ月23日21時間87分67秒234」
 微妙に突っ込んでほしいのか、時間が僅かにおかしいのだが。
「とうとう入手した、この魔王陛下のお姿をとくとごらんあれ!」

 ぴーっ がー

 
「こらーっっ」
 突然、観客席側から怒鳴り声。
「おお」
 わざとらしく何事もなかったかのように反り返って、肩をすくめてみせるマジェスト。
「これはこれは魔王陛下、いつもごきげんうるわしゅう」
「なーにわざとらしくいつも言わないような事くっちゃべってるのよ」
 のっしのっしと大股で舞台にまで近づくまお。
 いつのまにか、マジェストの右足で緞帳は締められてしまっている。
「まじー?」
「何でございましょう、魔王陛下」
 じとーっと半眼でにらみつけるまお。
「いいわよ、何をやっていても。でもね、読者を混乱させた挙げ句騙すのはどうかと思うよ」
 ぎくり
「な、何を証拠に」
「証拠も何も、こう言うのをよーとーくにくって言うのよね」
「魔王陛下、判らない言葉を正しい使い回しで平仮名で言うのは、避けていただきたいんですが……」
「なにもあんな飾り方はないでしょーが……」