仕事があるだけましです。
 そううそぶいて国民の祝日も働き続ける若者達。
 本当にそれでいいの?

 執務室は石壁で囲まれていて、昼夜の区別も付かないが、季節の移り変わりもない。
 だから、毎日ひめくりカレンダーをめくる習慣をつけている。
 今日も執務室に入ったら、ぺりりと一枚めくった。
 そして、壁に掛けた年間カレンダーを眺める。
「……ん、もう5月かぁ」
「世の中はごぉるでんうぃいくに入ると言われております」
 ぺこり、とマジェストがお辞儀をして言う。
「おはようございます魔王陛下」
「おはよー。GWでしょ?どーせ私には一日たりともお休みはないけど」
 むすーと答えて、いつものように執務机に座る。
 羽ペンをつまんで、机の上の書類に向かう。
「お言葉ですが陛下、ですがごぉるでんうぃいくはお休みの日ではございませんぞ」
 いつもより若干時代がかった言葉遣いで、何故か胸を張って言うマジェスト。
 まおは首を傾げ、『こいつ頭大丈夫か』ぐらいに思いながら彼を見返す。
「何言ってるのよ、かれんだー見ても連休じゃない、おやすみでしょーが」
「魔王陛下。残念ながら、かれんだーに示された祝日は、『ブラフ』なのでございます」

  がかっ

 なんだかそんな音を立てて、稲妻が走る。
「……ぶらふ?」
「はい。よろしいですか?ごーるでんたいむというのはどういう時間でございますか?」
 ゴールデンタイム、通称金色の時間。
「『誘おう、私の世界へ』で瞬時に加速した時」
 一瞬の沈黙。
 目が点になったマジェストが、こほんと一度咳払いすると、まおはぼんっと赤くなる。
「陛下がネタとは珍しいですね……一番視聴率を稼げる時間帯の事でございます。尤も、ここにはテレビはございませんが」
 そう言って彼は眼鏡をきらりんと光らせて、カレンダーをびしりと指さす。
「ですから!ごぉるでんうぃいくというのは、『稼ぎ時』なのであります!」
「とかなんとかー。どーせ著者の知り合いの殆どがこの日休めないだけでしょーが」
 忙しい企業人を含め、自営業でもこの週間に休める奴なんかいないよ。
 土日ですら厳しいってのに。
「毎日がお休みで、たまに仕事がある人もいますがね」
「…………仕事しよ、まじー」
 こくり、とマジェストも頷いた。
「仕事があるだけまだ幸せでございます」
 何となくしみじみしてしまった。
「今度のラジオの収録の予定も確認しておいてくださいね、陛下。陛下が逃亡するとラジオが遅れるんですよ」
「ひとのせいにするなー!さくしゃがわるいんだろーが!」
 ごもっとも。