Holocaust ――The borders――
Chapter:4
玲巳――Reimi―― 第1話
穹、という言葉がある。
私はその言葉に重要な意味はないものと信じて、今日まで生きている。
否――生きて、きたのだ。
生きるという意味を無視する事はできない。
人間という者は、生きる意味を探して生きているといっても過言ではないのだから。
でも、私は、何故生きているのかを考えた事がない。
考えるだけ、無駄だからだ。
私はこの生命に意味があるのかどうかなど――恐らく、今の私には言葉にできないから。
その理由は難しくはない。
人間が生きる――人生の目的というのは、自分が生きる事を自分で認め自分が認識し自分で――そう、赦すことだ。
自分が生きていても良い、と。
それは成長の過程であり、哲学的な問題が必ず付随するだろう。
だが私は違う。
私にとって人生は成長の過程でもなければ哲学でも何でもない。
ただ論理的に私という現象が存在し、論理的に記録された全てをただ満たすためだけ。
今現在予見しうるだけの、自らの存在の証拠を、ただその足跡を追う、それだけに過ぎない。
だが――もし、人並みにこの人生に意味があるのであれば。
多分それは、この時のために生きてきたと感じるその瞬間だろうか。
それが生物的なものでも、まして仮にいかなる嘘の塊であろうと構わない。
だから、多分、私は。
まだ人間のままでいられるんだと思う。
人間…私にはあまりにも懐かしい響きだろう。
人間存在として私はあまりに希薄な気がする。
いや、多分私だけではないはずだ。
…私は、総てを識っている。
だから、だ。
知る事と、識る事は違う。
大きな差がある。
知る事はより知らない事を我々に知らしめ、好奇心を生む事になる。
だが識る事は違う。識る事は諦めを生む。
自分が既に識っている事を知る事により見えてしまう総ての事象――それが既に自分の中にあると気づく時。
人は、興味を失ってしまう。
そしてもし、世界の事象総てを識っていると言う事を、自分で知ってしまったとしたら――
果たして、これから生きる意味を、見つけられるのだろうか。
私はそれを生涯の命題として、この道を選んだ。
だから。
Chapter :4 玲巳 ――Reimi――
彼は悩み事があった訳ではない。
彼には何も、なかった。
多分そんな事は言われるまでもないし――言う程の事では、ないはずだ。
少なくとも彼はそう思っている。
でも彼には、それ以外に何もなかった。
何にも。
今の自分を支えるための、何かが欠けているような気がした。
それは何でもない事かも知れない。
でも不安定な自分の存在というのを確定したくて、困っていたのかも知れない。
彼にとって重要でも何でもない、ただの快楽――それに何とか縋ることで自分という物を支えているのかも知れない。
それを手に入れるために、生きているんだと誤魔化して。
如月工業高校はこの辺ではそれほど有名ではない二流も良いところ二流の高校。
だからといって人材が二流だとは、誰も言った覚えはない。
それだけ逆に、純粋に人材を選ぶにはもってこいの場所なのだ。
人間は頭脳だけではない。
様々な才能があり、それを活かさなければ生きている価値はない――だがこの世にはそんな価値すら見いだせない浪費者がいる。
それも悪いとは言ってはならない。
悪いのではない。
彼らは、浪費するしか手段がないのだ。だから、手段を与えてやるのだ。
価値という名前の。
物言わずただ床に転がるだけの姿。
ゆっくりと、つぷりと赤いものが大きくなって、やがて雫になって流れてしまう――
それがまるで果物に爪を立てた時のように瑞々しい印象を与えるのに、あの甘さとは違う生臭さ。
心地よいなま暖かさに、それが餌である事をすら忘れてしまう。
非常に弾力のある、ともすれば引き裂く事にすら時間がかかるそれを覆う表皮は、剥いでしまえばいい。
慣れれば簡単だ、刃物でなくても、鋭く研ぎ澄まされた刃があればいい。
表皮とその内側を包む膜を引きはがすへらの代わりに使えればいいのだ。
でもそれではなんの――そう。価値もなくなってしまう。
物言わぬゴミ。生臭い、ただの屑。
捨てるしかない。捨てるしかない。すてるしかない。ステるしかなイ。すテるシかない。すて
「五十嵐!おまえ、教科書汚すんじゃないぞ!」
どっと笑い声が上がる。
否応なしに耳が、誰かと誰かを聞き分けようとして脳の中でふるいにかける。
――ゆ…夢?
現実がどこにあるのか判らず、彼――五十嵐幹久は一度瞬いて黒板の側でなにやら難しい顔をした男を見返した。
「何寝ぼけてるんだ、授業続けるぞ」
ああ、そんな物続ければいい。
彼は思いながら慌てて両手を見つめ、再び黒板を見ながらペンを取った。
――呪い
はっきり言うとこんな授業なんか受けている意味も感じないし、受けている自分も意味がない気がする。
ただその夢の内容に彼は、驚愕と畏れを抱く。
――あの時に聞いた言葉
『捨てるしかない』
目が覚めているのに身体が震える。
――俺も、捨てられてしまう
あの時は冗談半分下心半分で、本気で信じていた訳でなければ、まさか死人まで出るなどとは予想できただろうか。
でももう怯える事しかできない。
警察には判らないと言っておいた。
あの現場に居合わせた物として、それ以上の処置はできなかった。
第一何を信じて貰えるというのだ?
目の前で、何か信じられない事が起きて人が死んだ?
俺は馬鹿か?そう思わず自分に問いたくなる程、それは気違いの妄想じみていた。
なにより、彼は怯えていた。
自分という存在がまるで無視されたように、これから失われるかのように。
警察の判断は、『殺人という衝撃的なものによる精神失調』とし、彼への詰問はされていない。
そんな事のできる状況ではなかった。
「すてるしかない」
暗い夜の教室の中で唱えられる呪文。
コンクリの壁に反響する彼らの言葉に、床に置かれた蝋燭の炎が揺らめく。
かなり手間と時間をかけて用意されたのだろう、一枚の黒い布が床に敷かれている。
燃えない布で出来ているそれには、白い色の複雑な模様が書き込まれている。
ちょっと見た感じ、それは回路のようにも見えるが、決して電子記号ではない。
その要所に、配置に幾何学的模様を刻みながら金属製の丸い蝋燭を立てるための燭が存在する。
その上に蝋燭が乗っているのだ。
その周囲に数人の人間が取り囲み、台本のような藁半紙の束を読み上げている。
男女、年齢――ほとんど同じような人間が揃っている。
その中で、蝋燭に囲まれるようにして眠っているのは、やはり同じぐらいの年齢の、少女。
――生贄
だが、少女に意識がないのは事実だ。
気持ちよさそうに眠っている。
「こんな、オカルトじみた事本当に信じているのかよ」
幹久は疲れたような言葉で言うと、それでもその様子を窺っていた。
それは丁度、本当におきやしないかと『信じて』いるようにも見えた。
暗いこの夜中の教室にのこのこ姿を現したのも、自分の中にあるそれを信じたくなかったから――かも、しれない。
人間は自分の目で確認する事で、それを何とか理解できるのだから。
「まさか。だから、こうやって真実を調べるんじゃないか」
尤もらしく応えるのは、眼鏡をかけた長身の青年。
歳は――顔を見る限りでは判らないが、少なくとも彼よりは年上だ。
幹久は知っている。
彼はオカルト部顧問、物理学教諭黒崎藤司だ。
彼自身魔術やオカルトは信じていないし、何より先鋒に立って否定する為に存在するような身分だ。
彼がそれでもこのオカルト部を率先して顧問になったらしい。
理由は未だ明らかにはされていないが。
「オカルトが好きって奴らは論理的根拠には強い。でも、オカルトにはオカルトだろう?」
そう言って一冊の本を見せる。
分厚く、古びた皮の表紙に、剥がれかけた金箔文字。
どこで見つけたのか知らないが、よく判らない筆跡の文字が書かれている。
「だったら、オカルトの権威に登場して貰いましょう」
そう言って彼は表紙の隅をすっと指でなぞる。
『セーフェル=ハ=ゾーハル』:光輝の書
「本当にカバラをやってるなら、この書物の名前ぐらいは知っていなければならない。…そう言う物さ」
少しだけ戯けた風に言い、にかっと笑みを浮かべた。
勿論幹久はそんな書物はおろか、カバラなんてものにも興味はなく、聞いた事すらない。
わざとらしく肩をすくめて、ふん、とその教諭から顔を背けた。
――そもそも、俺は何でこんなところでこんなことをしているんだ
好奇心。
それが全てを狂わせる――
少なくとも、今そこにいた全員はそれを目の当たりにした。
それからの事は思い出したくはない。
殺人現場というにはあまりにも血が多すぎた。
腕が、足が、身体の一部が散る凄惨な光景の中、彼はその血を浴びて部屋の隅で蹲っていた。
前後の記憶がはっきりせず、もうその時には彼と死体以外、何にも残っていなかった。
気がつくと彼は、既に校門をくぐっていた。
特に最近は多い。
恐ろしさに捕らえられ続けているのか、自分が何をしていたのかを思い出せなくなる。
そう言えば歩いていたんだと、思い出す始末。
――授業はどうなったんだろう
そんなもの、対した事ではない。
そんなことよりも彼は、今自分が自分でいられる事が非常に感謝すべき事だった。
不思議な感覚だ。
今まで刺激も何もなく、つまらない人生だと思っていた。
よく考えれば、自分が存在している価値、存在する理由を知りたかったのかも知れない。
すてるしかない
その言葉が、彼の心の中へ棘のように突き刺さったまま、彼を苛み続ける。
捨てられる――それが、いかに不安なものであるか、どれだけ恐ろしい事なのか。
――嫌だ
それを考えるだけで恐ろしい。
でも何故?
何故今そんな言葉だけでこんなにも怯えなければならない?
そんな疑問が浮かんでも、身体の芯が震えてしまい、怖がってしまい、全ての思考が止まってしまう。
思考を再開した脳みそがまず疑問を呈示した。
――では、今あの先生はどうしているんだ?
自分は唯一の生き残りの生徒だ。
彼は、唯一の生き残りの教諭だ。
――待て
唯一か?と彼は唐突に思い出した。
何故か記憶が曖昧になっている。
あの時儀式に参加した人間は皆殺しになったのか?
今こうして帰途につく彼はやっと、ここ一月程自分を悩まし続けた『疑問』に辿り着いた。
もし本当に唯一の生き残りであれば、警察は放っておかないはずだ。
彼が唯一ではなく、そして警察はその『誰か』から有用な情報が手に入っていたからこそ。
精神的に疲弊した人間から聞く時間は割けない、とするならこれは非常に論理的だ。
彼は歩みを止めて、今まで歩いていた道に振り向いた。
――俺は今何故、家に帰ろうとしているんだ
彼の視界には大きな建物が映っている。
夕暮れの影の中に飲み込まれている校舎。
まだ仕事をしているのだろう、窓から漏れる灯りが煌々と明るく見える。
――聞きに行かなきゃ。何があったのか、聞かなきゃ
あそこは職員室だ。
あの教諭がどうなったのか知らない、だから、聞きに行かなければ。
彼は警察と接触したのだろうか、いや、しているはずだ。
さもなくばおかしな事になる。何故自分は警察に呼ばれないのか。
あの教諭――物理の教師なら何か知っているかも知れない。
五十嵐幹久は普段から目立たない生徒だった。
特別な成績でも素行でもなく、悪く言えば平凡な生徒だ。
職員室に抵抗はない。
慣れた動きで彼は職員室へ向かう。
時刻はすでに夕暮れにさしかかっている。普段、こんな時間まで居残る人間は少ない。
静かな廊下を一人で職員室へ向かいながら、否応なしに彼は記憶を蘇らせる。
『オカルト部』に呼ばれて、怪しい実験に参加。
あの日は何人も仲のいい友人がすぐ側にいた。
彼らの笑い声が、人気のない廊下の中で空耳に響く。
――先生は、きっとこの事件で重要な何かを握っている
何故考えられなくなる程ここ一月悩んだのか。
あの事件の事を思い出せない――出したくない理由は、彼が知っているかも知れない。
「おう、五十嵐くん。最近成績伸び悩んでいるだろう?」
職員室にさしかかった時、丁度出てきたのはとある数学教師だ。
顔の付近にもやがかかっているような、そんな不自然な視界。
口が動いているのは見えるが、それ以上もそれ以下もない。
「この間の小テストも、ほとんど何も書いていなかっただろう。何かあったのか」
「…」
この教諭は。
何も知らないんだろうか。
ほんの僅かな沈黙を与えて、彼はゆっくり口を開いた。
「黒崎先生と、一緒に巻き込まれて」
一瞬教師は怪訝そうに眉を寄せたが、直後哀れみを込めた一瞥をくれた。
「あ、すまん…悪かったな」
教師はそれだけ言うと逃げるように立ち去っていった。
それだけ、あの殺人事件は大きな影響を与えたのだ。
幹久は無言で職員室に入った。
だれも彼を注意しない。
彼は無言のまま、物理教師達が固まっているブースへと足を伸ばす。
オフィス向けのステンレスの机がきちんと整頓して並べられていて、それぞれが一つの小さな塊を形成している。
それらが立ちはだかる中、彼の席は一番隅にあった。
「黒崎先生」
黒崎藤司は神経質そうな表情で机に向けていた視線を、ふいっと上げた。
額に刻まれた皺が消え、代わりに不意に訪れる微笑み。
「ああ、君か」
その笑みはあの日あの時見せた物と同じ。
――この人は
そう、『呪い』にはかかっていないのだろうか。
「…ちょっと話をしようか」
そう言って立ち上がると、親しげに背中を叩き幹久を誘導する。
――就職補導室
見覚えのある入り口の札の下にあるマグネットを裏返すと、『使用中』と書かれている。
これを入り口に張っておけば、まず人は入ってこない。
黒崎はまるで当たり前のようにそれを扉の目線の位置に張り、扉を開けた。
就職補導、というのはこの学校では珍しい用語ではない。
専門学校ではないが工業学校のここは、成績次第では就職先を見繕うのも当たり前になっている。
だから進路指導ではないのだ。
こういう学校は珍しく、割り切った考え方の初代校長がいたからだとも言われている。
簡素な机と椅子が二人分並んでいる。
摺り切れたようなてかてかの椅子に、二人は向かい合って座る。
「何か用…かな?うん、それは判っている」
黒崎藤司は腕を組んで、僅かに身体を反らせている。
まるで状況を愉しんでいるかのようだ。
貌から彼の感情を読むのは容易ではない。
「君のやつれた顔を見れば、この間の事で悩んでいるのは一目瞭然だ」
「先生」
声が、思いがけなくしわがれていた。
まるで老人の声のように力がなく、声を出した本人がそれに驚いたぐらいだ。
「まあ、慌てるな」
黒崎は笑いながらそう答えると、立ち上がって冷蔵庫を開いた。
何故そんなところに冷蔵庫があるのか、何故それに気がつかなかったのか。
幹久が思考を巡らせるより早く、教師はコップにお茶を注いで冷蔵庫を閉めた。
そして、それを机において幹久に勧める。
幹久は一気にそれを煽った。
「おいおい、落ち着けと言っているのに」
「いえ…これで、少しは落ち着きました」
彼は薄笑いを浮かべたままの黒崎にどんよりした瞳を向けると『疑問』を口にした。
「あの時、他に誰かいたんですか?」
滑稽な質問だ。
黒崎は縋るような真剣な態度の生徒を見て哀れに思った。
「他に?」
その質問というのも滑稽だ。
主語も述語もはっきりしない曖昧な塊でできている。
聞き返してみたが、どうせ対した反応は期待できないだろう。
どうせ。
「そうですあの、突然」
「そう。突然にね。あの時に君と私以外の誰がいたのかが君は知りたいんだ」
「そんな事でっ」
「ああそうだね…あの時以来君はずっと悩まされている。自己暗示にでもかかったみたいじゃないか」
多分そうだ。
確かにあの『猟奇的な』光景は遺憾に値する。
教師は生徒に諭しながら、ゆっくりとそのベールを剥ぐ事にした。
「いえ、違うんです先生」
生徒は何とか遮ろうとする言葉から逃げようとして、自らを主張する。
「あの時儀式をしていたのはオカルト部だけですよね」
黒崎は眉を歪めると考え込むように上を見つめる。
これは予想していなかった回答だ。
「…何故、そんな事を聞く」
「自分が警察に呼ばれる事がないからです」
幹久はさらりと言うと、黒崎に反応のいとまを与えずに続ける。
「それは既に、警察はこの間の殺人の情報を握っているって事でしょう」
怯えた狗が見せる目。
何か姿の見えないモノを遠ざけようとする目。
黒崎は喜色を何とか押し隠して息を吐いた。
「五十嵐幹久くん。ということは俺が何を警察に吐いたか?と言いたいのかい」
一瞬彼は目を丸くして、そしてついと目を細めると黙り込んでしまう。
ふう、とため息をつく。
「残念だね、君のその考えは正しいようでかなり間違っている。…確かに、そう言う風に考えるのは正しい」
警察は既に有用な情報を得ていて、あの事件の犯人を追っているから。
その状況で、『Shell Shock』状態の幹久から証言を得るのは時間の無駄だ、という考え方だ。
黒崎は理解すると同時に言わなければならない事を思いつく。
「だが残念だよ、生き残ったのは私達だけだ。が、警察は我々に対する事情聴取を行わない」
幹久は驚きで唖然と言う貌を浮かべて見せる。
「何故なら、私達の存在は警察の知る由はないからだ」
――私達?
その響きに幹久は眉を顰めた。
「でも僕は」
「ああ、そうだね。『私達』とは違うからね」
訳が判らない。
ただ一つだけ理解できた事がある。
それは。
「先生、では、あの時…僕は、殺されるところだったんですか?」
「ん?君は、あの時死にたかったのかね?君の言わんとしている事は、理解は出来るが?」
あの時に自分が死んでいれば、少なくともアレは謎の事故として闇に葬り去られていたのではないだろうか。
証拠と呼べるモノも今や存在しないし、それを追求しようにも――この世には、魔術を追う為の法律はない。
だからアレは殺人などではなくてただの事故。
そう、実験の末の事故なのだ。
「死にたく…今だって死にたくないです」
まるで絞り出した声のように、力一杯彼は言った。
黒崎は、今度こそ笑みを浮かべた。
まるで今の答えを望んでいたかのように。
「だとしたら何故?君が死んでいようといまいと、事件の内容は変わらない」
「そりゃ、先生が見つからないんだったらそうかも知れない!でも」
「確かに。この真相を知る二人のうち、君だけはしがらみの中で警察の手に怯える事が出来る。それは卑怯かな」
そうやって黒崎は面白そうに笑い、そしてこう付け加える。
「尤も君はこちら側にはこれないようになっているんだ。…君は、槍玉に挙げられるわけだ」
「先生!」
「まあまあ、安心しろよ?五十嵐くん。少なくとも君が望んでいるような結果は訪れない」
傑作だと言いたげに、黒崎は肩をすくめて大げさに両腕を開いた。
「この高校は傑作揃いだな。大丈夫、君を含めて今回の事件は被疑者は上がらない」
幹久の反応を見ながら、彼は腕を戻して話を続ける。
「何故なら、彼らから『薬物反応』が出て、君からはそれがなかったからだ。アレは、事故として処理される」
意味不明だった。
何より、納得できなかった。
――あんな殺人現場が事故?
それなら確かに都合がいい。
でも幾つも疑問と不自然さが残る。
どうやったらあんな風に見事にバラバラになる?
第一、何故自分は何事もなく部屋の隅にいた?
薬物反応というのは何の事だ?
何故、あの教師はあんなに落ち着いている?
オカルト同好会を部に昇格して置きながら、こんな不祥事を起こしているというのに。
いったい――
「ちょっといいかしら?キミ、如月工業の学生ですわよね?」
突然声をかけられた。
振り向いた幹久の目の前にいたのは、奇妙な少女だった。
◇次回予告
少女の名前は玲巳。それ以上語らずに、彼女は質問を浴びせてくる。
「ちょっと、人を捜していてね」
そして現れる正体不明の『探偵』、桐嶋 剛。
幹久は見えない影に怯え続ける。
Holocaust Chapter 4: 玲巳 第2話
遠慮はいりませんわ、お話を聞かせて戴いたお礼に
そして襲いかかる影
―――――――――――――――――――――――