あの日、降り注ぐ光の中で
泣いているあの人を見て
私も、泣いた

メルギトスとの戦いの後、気が付いたら私達は遺跡の外にいた。
みんな居たけど、ネスティだけが帰ってこなかった。
アメルが、涙声で何か言っていて、
でも最初、何を言っているのかわからなかった。
だって、ついさっきまですぐ隣にいたんだから。一緒に戦っていたんだから。
だけど、泣いているあの人を見て、アメルを見て、みんなを見て…私も泣いた。涙が止まらなかった。泣いている私を慰めるように、誰かがずっと抱いていてくれたのだけど、誰だったのか思い出せない。



顔を上げると、まだ雨が降っていた。
ここは、最近になって『聖地の森』と呼ばれるようになった場所の中心部。
人々に『聖なる大樹』と呼ばれる樹の下で、私は雨宿りをしていた。
実際に『彼』に会いに来るつもりだったから、途中で雨が降り出してこの樹の下に駆け込んだのだけど、「雨宿り」というのとは少し違うのかもしれない。



あのあと聖王都に戻ってから、私はしばらくサイジェントに行っていた。
お母さまが、行ってきなさいと言ってくれたのだから、私は相当ひどい状態だったのだと思う。
フィズやガゼルやリプレお母さんにあって、また泣いて。おじさまたちにいっぱい甘えて。すこしだけ元気になってから帰ってきた。
そうしたら、あのひととアメルは『彼』の護人になると言って、あの森に行ったと聞いた。
それで私は二人に会いに来て、そして今ここにいる。



この樹の枝葉はとても大きくて、雨はもうずいぶんと長いこと降っているのに、根にもたれている私のところには届かない。
久しぶりにあったあのひとは、あの時よりは元気そうに見えたけれど、時々とても寂しそうに見える。
私はあのひとのことが好きだから、そんな様子を見ると、ネスがあのひとも一緒に連れていってしまったみたいな気がしてしまって、なんだか悔しい。



あのひとは、いつも先頭をきって敵のなかに切り込んで行っていた。
そんなあのひとに、ネスティはいつも戦闘が終わる毎にお説教をしていた。
私は最初ネスが苦手だったし、あのひとの行動にはいつだってはらはらしていたから、彼がお説教をはじめる度に、先を越されたような気分になっていたのだけど、あのひとはちっとも改めなかったから、しばらくすると私もいっしょに小言を言うようになっていた。
気が付くと戦闘の度に、私とネスの二人であのひとのサポートをするようになっていて、それで同志のような気持ちになっていた。



視線を上にやると、黒々とした枝葉があって。
そして背中にはしっかりとした根を感じる。
風を遮ってくれているその樹をじろりとにらんで、勢いよく立ち上がると、私は思いきり根を蹴飛ばした。
「………バカ」
彼は結局私達を守ってくれたのだってことは知っている。
きっと彼がああしなかったら、私達は今こうしていることはできなかっただろう。
だけど、私達はネスがいなくて寂しいのだから、だからすごく腹が立つ。
ああしなければ良かったのにとは言えないから。だけどネスにここにいて欲しいから。
「……本当にバカなんだから!!」
いつも無茶をするなって言っていたくせに、自分が一番無茶をするんだから。
根に拳を叩きつけると痛くて、また腹が立ってなんどもなんども殴りつけた。



「ミニス」
静かな声が掛けられて、腕を押さえられる。振り向くと心配そうな顔のあのひとがいた。
泣いていたのかと聞くあのひとに
「怒っていたのよ。ネスったら本当にバカなんだから」
そう答えて、帰ろうと差し出された手を取ると、目元をぐいと拭って、雨の中を歩き出す。
振り向くと、樹がそこにあって、私は舌を出すとフンとそっぽをむいてやった。
起きるまで、許してなんてあげないんだから。
起きたら、真っ先に文句を言ってあげるんだから…


SS