昼下がり、場所はサイジェント郊外というには少し遠目のマリルの岩棚にて。 丁度トリスと夏美は困っていた。

「どうしようか…?」
「うーん、困ったね」

二人は視線を斜め上の方に固定して会話していた。
視線の方向には、トリスには懐かしいブキミな仮面を被った黒騎士ことルヴァイド。
コロスコロス呟いているアブナイ彼を威圧しつつ、二人は困っていた。

「ううううう…首が痛いよぅ」
「あたしも……あーもう!アカネ遅いー!!」

二人とルヴァイドの間には互いに攻撃するにはちょっと大きすぎる高低差があり、睨みあいながらも互いに手が出せないという膠着状態になっていた。
とりあえず二人が動けず、そしてルヴァイドも動けないという状態なので、遠方より攻撃ができる者の内一番早く着くアカネを呼んできて貰っている途中だった。

「あーもう、召喚術使えたら話が早いんだけどなー」
「そうだね。あ、あたし手持ちのは無理だけど、誓約ならまだできるよ?」
「あ、それイイ!!もうなんでもいいからやってみよう?このままでいるのが堪えられないよー」
「りょーかい。それじゃやってみるね」

夏美が手持ちのサモナイト石を取り出して意識を集中させる。
すぐに頭上にきらーんと光がきらめくと、何やら白い物が落ちてきて、トリスは慌てて夏美の顔に落ちる前にそれを掴んだ。

「これなんだろ?」

ひらひらというよりはがさがさと視界の隅で袋を降りつつトリスが言う。
彼女が掴んでいるのは白い紙袋。黄色と赤と青の模様がついている。
それを見た夏美の目の色が変わった。

「ト…トリス!!それかして!!」

殆ど奪うように袋を受け取って、がばっと袋の口を開けて中身を検分すると、くるりというよりはがばっとかいった効果音がぴったり来るような勢いで振り向いた。

「えっど…どうかした!?」

「ひぇっ!!ちょっとナツミ〜!!!!」

彼女が視線を逸らした故に、危険人物は威圧の範囲を逃れようやく到着したアカネの方に突進を開始し、その進行方向にいたアカネは盛大に苦情を言い立てたが、彼女は聞いてはいなかった。
遙か彼方の崖の下の方に視線を彷徨わせる。

「レナードさーん!!!!!!!!!」

叫ぶと、サルトビの術でも使ったのかと訝しがられるスピードで崖の下に到着していた。

「レナードさん!!!!見て下さいこれっ!!!!!」

「おおっ!そりゃぁマク○ナルドの袋じゃねぇか!!!」

「そうなんですよっ!!さっき誓約してみたら出てきたんです〜!!中身はダブルチーズ○ーガーとフィレオ○ィッシュとポテトのLサイズとコーラのLです〜!!!!!」

ヤケに詳しい。ちなみにどうして袋一つにそんなに入っているのかとか普通ジュースは別に入れるやろとかいうツッコミは却下である。

「それでっ、レナードさん確かコーラ好きなんですよね?コーラはレナードさんに差し上げますんでー、あたしがダブルチーズバーガーもらっていいですか〜?定番だったんですよ〜。ダブルチーズ」

「おいおい今から食うのか?お前さん確か上の方で奴さんの相手してたんじゃねぇのかい?」

「あ……そういえば……」

上の方に注意を向けると、きゃーきゃーがちゃがちゃ騒がしい。

「あー………大丈夫ですよ。シオンさんいなくなってるし」

要するに、自分が抜けた分助っ人が入ったから大丈夫、と言いたいらしい。

「それに、ほら。冷めたらおいしくなくなっちゃうじゃないですか〜」

「……………それもそうだな」

こめかみに冷や汗を浮かべてとりあえずちゃっちゃと食おうと主張する彼女に、とりあえず上に今居るはずの面子を考えて、まぁ大丈夫だろうという結論に達したレナードは、有り難く久しぶりの故郷の料理を頂くことにした。
向こうにいたときは他人に味気ないと言われ、自分でも別にうまいとも思っていなかったメニューだが、このような状況では非常にうまく、そして好物だったコーラが嬉しかった。


「あー、おいしかった〜♪」

「いや久しぶりに食うとうまいもんだな」

そんなことを話しながらレナードがコーラを一気に開けてぷはーっと息を付いていると、

「ナツミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」

声とともに金タライが見事にすかーんと音を立てて夏美の後頭部にHITした。

「ふぎゃっ!」

「うおっ!!」

「アンタねぇっ!!!!死ぬとこだったじゃない!!!!!!」

お師匠が来なかったら危なかったんだからね!とタライの後に蹴りを決めながら突然現れたアカネががなる。

「うわぁ……ごめーん。悪かったよぅ……」

ただひたすら小さくなるばかりの夏美を後目に、レナードはポテトの箱をキープし、

「食うか?」

とげっそりとした顔で降りてきたトリスに薦めた。



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