海と怪物と私毎日〜磨いてーいたいから〜♪(え?)


 ポルトガの王様から、どうにか船をいただいて、海に出ることになった。
船には、長期の船旅を想定してか、大漁の塩漬け野菜と塩漬け肉、そして真水が 用意してあった。ありがたいことである。

 でも海に出て数日、食事はスープ、肉野菜炒め、煮物と、 バリエーションは豊か(?)なのだが、具は毎食同じである。
おまけにいずれもおそろしく塩辛い。
水で洗ってから調理すれば多少はマシなのだが、真水は貴重である。 そうそう無駄に使うわけにはいかない。
まぁ、味付けの手間がいらないのは助かるけど。 このままでは壊血病の前に、生活習慣病 (肝臓病?…成人病ともいうよね)で倒れてしまう。
加えて、チェリナは肉が食えないし、モモは食えるものがかなり制限される。( 今までどうしていたんだ?)
貴重な食材だったモンスター類も、今のところ「マリンスライム」と「しびれく らげ」くらいしか出ていない。
と、いうわけで、皆が釣りを始めのに、さして時間はかからなかった。
船には、釣り竿もついていたのだ。しかも人数分。
本当はきちんとした漁がしたかったのだが、さすがに底引き網とか定置網とかは ついていなかった。まぁ、漁船ではないので仕方がないだろう。

 釣りを始めたのはいいが、魚はめったに釣れない。竿を垂らしていても、海だ からといって、魚がほこほこかかってくれるワケではないのだ。
加えて皆、釣りは初心者である。かかってもエサをもっていかれるだけのことも 多い。
これでは、せっかく海辺のアリアハンで鍛えた料理のウデも奮いようがない。
よく考えたら、魚をさばけるのは自分一人だけなので(皆アリアハン出身なのに …)あまり釣れなくて逆に助かっているような気もするのだが。

まぁ、とにかく食生活に向上の兆しは見られない。波間を漂う海草類もサラダや 酢の物にして食卓に並ぶようになったが、 それもすぐにワンパターン化した。



 最近、モンスターの中に新顔が増えた。マーマンである……食えない(泣)。 しかし、いい加減に塩辛い料理と海草にも飽きた。
なんとかならないかと、少し頭を使うことにするとすぐにひらめいた。どうしていままで気づかなかったのだろうと不思議に思う。

というわけで、今日の夕食には久しぶりに、別の具が並んだ。
クラゲである。クラゲと海草の酢の物。
海草の酢の物もかなり食べ飽きていたはずだが、具が一つ増えただけで かなり新鮮に思えるようだ。皆、残さずに食べてくれた。
 明日の朝になったら、しびれくらげ (←)が食えるかどうか判明する。
まぁ、ワンパターン脱却のためだ。一番アブなそうな足と中身(あるのか?) は抜いて、一番外側だけ使ったから、大丈夫だとは思うけど。
自分も、いつもと違うものは食べたいと思ったが。材料が材料だ。全員まひ するわけにはいかないだろうと、我慢することにした。



翌朝、全員 『まひ』状態になっていた。
挑戦の代償は大きかった、と言えよう。



 この間のしびれくらげの後は大変だった。皆にフクロにされたのだ。
………何も、ベギラマやバギまで使わなくてもいいのに。もったいない。
 とにかく、皆、ほとんど限界だ。食生活の乱れは心の乱れ、である。
いい加減にどうにかせねば………あぁ、母さんの料理が恋しい。家に帰りたいと 思うのだが、ここは、何処ともしれぬ海の上(いやどこかは知ってるけど。地図あるし) ここに船を置いてルーラで帰ると、船を回収にくる術がない。
あぁ、別のメニュー………母さんのご飯…………………

 そんな、我らの前に、ついに救世主(?)が現れた。
『だいおういか』である。

だいおうイカ……… そのキモは『絶海の珍味』として、 世界的に有名である。
皆、目の色を変えて戦う。
モモのベギラマが宙を迸り、辺りに食欲をさそうにおいが漂い出す。だが、そん な状態でも、だいおうイカは元気であった。
さすが大王である。一筋縄ではいかない。
そこで、モモの『どくばり』が急所にHITしたらしく、一杯倒れる。
だが、どくばりでトドメを刺したものだ。とても食う気にはならない。
そんなことを考えている間に、カナとチェリナの必殺で、残りのニ杯が倒れる。
………そんなに飢えていたのか…
と、どうしようもないほどの哀しみを覚えた。


ふと、気が付き周りを見ると、皆の視線が自分に集中しているのに気付く。
……………私にサバけとゆーのか……こんなデカいものを……
まぁ、他にサバける人間がいないのだから仕方がない。諦めて、現在の装備武器 、鋼のつるぎを握り治す。こんなにでかいものには包丁など役に立たない。
……う…でかいイカの目って気持ち悪い………
げんなりした顔で鋼の剣を入れる。皮を剥ぐころには既に体中が悲鳴をあげていた。


ついに、大王イカの肝が皆の眼前にならんだ。半分はサシミ、半分は塩辛にした。 解体を終える頃には調理者は瀕死の状況だったのだが、 そんなことは誰も気にはしなかった。

皆、目を輝かせてサシミを一切れ口の中に放り込む。
体は痛いが、食いっぱぐれてはたまらない。勿論、自分もそれに倣う。
…………不味い
調理法を間違えたかと、モモに焼いてもらう。
……………………(やはり)不味い
塩辛は何とか食える味なのだが、それでも『美味』とまではいかない。
所詮『絶海の珍味』は『珍』味であった。 つまりは珍しいことに価値があるのだろう。がっかりである。
仕方がないので、大王イカの身と下足を焼いて食うことにした。ちょっと大味だが、(大味 って大体どんな味なんだ?)こっちの方が余程うまかった。

大王イカのキモは、塩辛にでもして、食えない分はどこかで売るとしよう。
なんと言っても『絶海の珍味』なのだ。きっと高く売れるだろう。



 大王イカの塩辛や焼きイカにもあきたころ大陸にたどり着いた。町がある。
喜び勇んで船を下り、まず宿屋に向かう。もう、ルーラを使う精神力も残っては いなかった。久々の塩辛くない食事、柔らかい寝床。まさに天国であった。


 翌朝、久しぶりに里帰りすることにした。
ロマリア以来、10日以上家に帰らない、といったことはなかったので、母さん はさぞかし心配していることだろう。
船はここに置いておけばまた、取りに来ることができるし。

久しぶりに家に帰ると、母さんがいつも通りに迎えてくれた。
心配していた様子はない。さすが何年も帰らなかった父さんを待ち続けた人であ る。

 翌日、母さんに頼まれ、ウサギを狩りにアリアハンの外に出かける。
まぁ、2・3日ゆっくりするつもりだったのだから、家の手伝いくらいしてもよ いだろう。
 町の門を一歩出る。その途端、頭の中が、まるで漂白された洗濯物の様に真っ 白になった。
目の前には、ポルトガ王からいただいた、チェリナの迷著作の超美形コスプレ魔術師の名をつけた『ユーリス号』の姿があったのである。
どうやら、ルーラで飛んでもついてきてくれるらしい。
ビバ!ポルトガの科学力(?) と思うと同時に、これまでの食生活が思い返され、思わず涙するのであった。



DQ3