大自然に抱かれてネイチャー・ウォ−ク
ボルネオ 原始の雄大な自然に出会う旅

  熱帯の原生林が広がるボルネオは、世界有数の多種多様な動植物が生息する。都市に住む私たちは誰もがきっと、あの大自然にたたずめばスケールの大きさに圧倒される。都会の喧騒から離れ、森の新鮮な空気をおもいっきり深呼吸しよう。東マレーシアには、ほぼ中央に位置するサラワク州のグヌンムル国立公園、隣接するサバ州のキナバル州立公園がある。(さとうあけみ)

マレーシア初の世界遺産グヌン・ムル

  日本からコタキナバルまで飛行機で約5時間半。さらに乗り換え1時間半で拠点となるミリの町に着く。そこから再び小型機に乗って約30分、緑生い茂るジャングルの真ん中へようやく着陸する。標高2376mの山、グヌン・ムルを中心に広がるレインフォレストにはいくつもの大きな洞窟が発見され、石灰岩の洞窟群があることで世界的にも注目される。なかでもクリアウォーター・ケイブは、、洞窟の全長が、なんと約107kmにも及ぶことが1994年の調査でわかった。

  まだ未踏の地がほとんどというほどの広大なエリアだが、現在、観光客のために4つの洞窟が一般公開され、安心してジャングル・ウォ−クが楽しめるように整備されている。日本の鍾乳洞をイメージしていたら、そのスケールの違いにびっくりするはず。
  

時間を遡る

  壮大な鍾乳石からなる洞窟群は、訪れる人を魅了する。ランズ・ケイブは、黄土と白色が交じり合った色合いの不思議な空間が広がっていた。天井から染み出した雫がポッタン・・・・、ポタッタン・・・・と落ちて、天井と床に、鍾乳石の柱を作り出している。いったい、どのくらいの時間を要したら、こんな高さになるのだろう。途方もない長い歳月をかけて、石灰分を含んだ水滴が塊となって積もっていく。遥か彼方まで遡って時を想う。その自然のものすごい力強さと持続力。目の前で見せつけられるこの光景。洞窟のなかで立っていると、誰もがタイムスリップしたような不思議な感覚に囚われるのではないだろうか。

  ディア・ケイブは、世界最大の洞窟と言われる。天井までは約120m、幅は広いところで175m、2kmほどのトンネルを歩ききる。ディア・ケイブの名は、鹿が水を飲みに洞窟へ来ていたことに由来するが、その目当てはコウモリの糞から染み出した塩分を含んだ水なのだそうだ。実際、歩道にはたくさんのコウモリの糞が積もっている。この洞窟に棲むコウモリは、60万匹とも500万匹とも言われ、その真相のほどは定かではないが、耳を澄ますと、天井からかすかな鳴き声が聞こえてくる。膨大な数がいることは間違いない。が、見上げても天井があまりにも高くてはっきりとは見えない。天井が破れ、その穴から光が注ぐ。その穴の形がちょうど西洋人の横顔そっくりだ。こんなユーモラスを自然は見せてくれる

  夕刻になろうという頃、コウモリの存在を実感できる瞬間があった。この洞窟から、群れをなしたコウモリが次々とわき出てくるのだ。しかも、先頭には群れを束ねる指揮者がいるのではないかと思わせるほど、整然と列になって遥か空高く飛んで行く。下から見ると、空をキャンパスに灰色のラインで波が描かれているようにも見える。まるで龍の舞いを見ているようだ。もしかしたら伝説の龍は、このコウモリの群舞を見た人が創造したのかもしれない、などと勝手な連想をしてしまうほど。1つの群れが見えなくなったら、また別の群れが現われる。あたりが薄暗くなってきた頃、ようやく“大空に舞うコウモリショー”は終了した。あっという間に感じられたが、時間にして40分ほどだったろうか。

  こうしてコウモリたちは夕暮れの夜を舞い、蚊や昆虫を食べて空腹を満たし、朝、洞窟へ帰っていくのだという。あれだけのコウモリを満腹にさせてくれるジャングルの底力もまたすごい!と妙なことに感心させられる。

闇を楽しむ

  すっかり辺りは暗くなった。朝来た樹林の中の遊歩道を3kmほど引き返す。都会ではもはや漆黒の闇を見ることはまずないが、闇の深さに興奮し神経は研ぎ澄まされ、かすかな音にも敏感になる。

  「ブーブー、ブーブー」という聞いたこともない断続的な大音響。まるでマイクで拾った音のようだ。ネイチャーガイドに尋ねるとカエルだという。よく耳を澄ましていると「クー」とか「キーキー」、あるいは葉のカサカサといった音がする。自然のオーケストラ。声が呼応しているようにも聞こえてくる。姿は見えないけれど、さまざまな鳴き声やかすかな音が四方から聞こえる。きっと妖怪やおばけって、こうして闇夜の中でつくりあげたものなのかもしれない。

  途中、蛍の乱舞にも出くわした。闇夜に大きな光を放ちながらたくさんの蛍が舞っている。優雅な気分だ。しばし足を止めて見る。ふと空を仰ぐと、満点の星がきらめいている。何億光年前の光・・・かぁ。大自然の中にいると不思議と優しくなれる。

 この旅の最中、マレー語の「バグ−ス!(素晴らしい)」を連発していた。グレート! 大自然の驚異に脱帽するばかりで他の言葉が見つからない。1億3000万年ともいわれる世界最古の熱帯雨林が広がるボルネオ。現地ツアーを利用して少し足をのばせば、こんな熱帯の大自然をまるごと体感できる。

(写真キャプション)
1. メリナウ川をロングボートに乗って約30分ほど遡るとウインド・ケイブへ到着する。美しい鍾乳石柱が並ぶ「キングズ・ルーム(王様の部屋)」。天井から鍾乳石が垂れ下がり、床には石筍が立ち、不思議な景観を作り出している 2.ウインド・ケーブは、風が吹き抜ける場所があることからこの名がついた 3.川を上る途中、ペナン族の村に上陸すると、ずらりとみやげものが並べられていた 4.コウモリが棲む巨大なディア・ケイブの天井の穴! まるで西洋人の横顔みたい  5.ランズ・ケイブは重力とは無関係にあらゆる方向に曲がったりするヘリクタイト(炭酸カルシウム)の断層が見られる 6.クリア・ウォーターケイブを奥に進むと水の通路へと通じる。入口付近は地下からの湧き水の池があり、泳ぐこともできる 7.世界遺産、グヌンムル国立公園を歩こう


熱帯雨林の植物

  この広大な森にはさまざまな植物や昆虫が生息する。1977年、サラワク州政府と英国のロイヤル地質学協会の調査、探検によって多種多様な植物が生息する熱帯雨林であることが明らかになった。植物約3500種、きのこ類約4000種、鳥類272種、爬虫類55種、およそ2万もの無脊椎動物、81種の哺乳類動物・・・。自然遺産の中でも特に生命進化の記録、地形形成における重要な地理的特徴を備えている。

  マレーシアといえば直接地面に花を咲かせるラフレシアが有名だが、開花するのは1週間程度。真っ赤な花びらは固くて、幹も葉もない。開花している間は、ハエなど虫を呼び寄せ受粉を手伝わせている。熱帯雨林には、着生するもの、寄生するもの、食虫するものなど、実に多種多様な植物が共生している。


森の中のリゾートホテルでくつろぐ

 静かな熱帯雨林に囲まれた「リーガ・ロイヤル・ムル・リゾート」。原住民の家を模した高床式の木造建築のコテージ。まさに秘境の中の隠れ家といったところだ。窓からは緑いっぱいの樹木が広がり、川が流れる。「ピー、ピロピロロ、チチチチチュ・・・」。朝は小鳥のさえずりで目を覚まし、熱帯の新鮮な空気を思い切り吸い込み深呼吸。昼間はグヌンムル国立公園を散策して大自然の不思議を体感する。そして夜の暗闇を知り、満点の星空を眺めながらくつろぐ。

 リゾート内でも、散策やロッククライミング、釣り、プールサイドのロマンテックなディナーなどが楽しめる。ルームサービスやランドリーサービスも整い、快適に過ごすことができる。

 いつも時間に追われた生活から少し離れて、大自然の懐に抱かれながら安らぎの眠りにつく。日常から解き放たれた心の休日を求めて、心身共にリフレッシュできるやすらぎのリゾートライフを満喫しよう。


リーガ・ロイヤル・ムル・リゾート 住所 Sungai Meliau,Mulu   пi085)790−100
CAP部屋は地上から3mの高床式バンガロー


大自然が楽しめるおすすめスポット
  日本からわずか約5時間半で大自然の宝庫、ボルネオへ到着。その玄関口コタキナバルから少し足をのばせば、東南アジア最高峰のキナバル山がそびえ、周囲には樹冠を見渡すキャノピーウォ−クが楽しめる場所や、野生オラウータンを保護する施設がある。現地発ツアーを利用すれば、大自然を満喫できる

オラウータンに会える場所
  サンダカンの町から車で30分ほどの場所に、セピロックオラウータン保護区がある。密漁や火災によって傷を負ったオラウ−タンや、親を失った子どもを保護する施設だ。マレー語で“森の人”を意味するオラウータン。ここで自然に還るためのトレーニングが行われている。毎日午前10時と午後2時には、食事の様子を見学できる。また、コタキナバル郊外のネイチャー・リゾートホテル「シャングリラ・ラサ・リア・リゾート」は、森が自然保護区に指定されており、サルやオラウータンが保護されている。

キャノピーウォーク
  高さおよそ40mのところにしっかり固定した橋を渡る空中散歩が、キャノピーウォ−ク。結構、ゆらゆらと揺れるからスリルは満点かも。余裕が出てくれば、改めて樹林の高さに圧倒されるはず。樹林は想像していた以上に高い。こうして上から見下ろしてみると、日の光が地上まで届くのも大変だと実感できる。熱帯雨林では、それぞれの植物や昆虫などが生きのびるためにさまざまな工夫を見ることができる。伝説にも出てくるいちじくの木は絞め殺しの木とも呼ばれ、元の木を養分として生きのびる。少しでも光合成をしようと上へ上へと延びようとしたり、着生植物、寄生植物など実にさまざまだ。

ポーリン温泉
  第二次大戦中に日本軍によって掘られた温泉。現在は宿泊施設を備えた施設になっていて、露天風呂(水着着用)もある。キナバル山に登った後に、疲れをとる目的で立ち寄る日本人も多いとか。湯の温度は50度と高く、冷水で湯加減を調節できる。キナバル公園本部からは車で約30分。天然温泉で一休みをしながら森の息吹を感じてみよう。

リバークルーズ
  ガラマ川やキナバタンガン川では、小さなボートで「クルーズしながら動物を見よう」、というツアーがある。リバークルーズは朝夕2回、約2時間のクルーズだ。自由自在に木々をジャンプしながら移動する天狗ザル、カニクイサル、尾長ザルなどが比較的多く目撃される。動物の姿が表れたら、すかさずネイチャーガイドが教えてくれる。ガラマはコタキナバルから日帰りできる近さだし、サンダカンから車で約2時間のスカウにはロッジもある。

キナバル登山
  ボルネオ島北部にそびえるキナバル山。標高4095mというから日本一の富士山よりはるかに高い山だ。グヌンムル国立公園と同じ2000年に世界遺産として登録された。キナバル登山は整備された登山道や宿泊施設もあり、1泊2泊で登れ、観光の目玉になっている。この山のおもしろさは、高度の移り変わりにある。最初は熱帯雨林の植物、そして高山植物、最後は草木のない鉱物の世界へと景色ががらりと変わる。山頂は雲の上。360度、壮大な景色が広がり、彼方かすかに南シナ海が見る。山頂に立った頃、夜が明け、日の出を迎える。感無量。しばしこの神秘ともいえる風景を堪能する。コタキナバルから公園本部までは車で約2時間。

・・・・・・・・・・・
・・
国立公園での注意
 国立公園へは、現地発ツアーに参加する形が一般的。エコツアーが充実しているマレーシアでは自然保護の観点から入園者に対して厳しい規制を行っている。個人で動きたいと考えるなら、地元観光局やパークレンジャーに入園を報告し手続きをとること。どちらの場合も地元のガイドを同行させることが義務づけられている。もちろん、動植物など破損、損傷することはもってのほか。公園内でものを捨てることは禁止されている。

持ち物リスト
□ 服装(長袖、長ズボン。軽装で
構わないが、ホテルやレストラ
ンでは冷房が強いため、上に羽
織るものを用意しておこう)
□ 履き慣れた履物(スニーカー)
□ 帽子、サングラス
□ 懐中電灯
□ 雨具(レインコート)
□ 手袋
□ タオル
□ 水着
□ 虫除けスプレー
□ 日焼け止め
□ 双眼鏡
□ カメラは望遠レンズ
□ 高感度フィルム
□ 着替え
※旅のベストシーズンは10月〜翌3月の乾季

(写真キャプション)
1.キナバル国立公園では、植物園や自然散策ハイクコースが整備されている 2.麓と頂上の景観の変化が楽しめるキナバル登山。登山初心者でも大丈夫 3.セピロック・オランウータン保護区では毎日2回の餌付けを見学できる 3.川から森を楽しむクルーズには望遠鏡を持って行こう 4.地上40mほどの吊橋を渡るキャノピーウオ−ク 5.森には多種のサルが棲み、朝夕、川辺に移動する 6.森林浴を楽しむネイチャーウォ−ク 7.森のユーモア発見 8.熱帯の昆虫 9.酵素を分泌する小さな虫を消化する食虫植物ウツボカズラ 10.枝のようにスマートなナナフシ


(Vee Travel2003掲載)