人が「変える」のではなく 人が「変わる」時代になってきました


龍村仁さん

映画監督。1940年京都生まれ。京都大学文学部美術科を卒業後、NHKに入局。1974年退職後、ドキュメンタリー、ドラマ、コマーシャルなどを手がける。主な作品は『キャロル』、「宇宙船とカヌー」、「セゾングループ3分間CM」など。著書に「地球のささやき」(創元社)、「地球交響曲の奇跡」(人文書院)などがある


 映画、地球交響曲が大変な広がり方ですね。自主上映の映画としては前例のないことじゃないでしょうか。それも、環境とか自然、意識といった問題を扱ったドキュメンタリー映画がこれほどヒットしている。非常に興昧深い現象ですね。聞き手:小原田泰久


龍村 1992年の10月に第一番を一般上映したのです。初日、2日目は仲間を動員したから満員になったのですが、3日目からは、がたっと客が減ってしまって、やっぱり宣伝にお金をかけなければだめだなと思っていたのです。


 そうしたら、1週間を過ぎたあたりから不思議な現象が起こってきました。前売券ではなく当日券のお客さんが増えてきて、2週間上映最後の2日間は当日券のお客さんでいっぱいになってしまいました。なぜ、そんなことが起こったのかと調べてみると、ロコミのすごさなんですね。この映画を見た人が、パンフレットやチラシをコピーして配ったり、ファックスで流したっていうんですよ。地方の人は、いつ映画が自分の町に来るのだろうと待っていたらしいのですが、いつまでたっても来ないので自主上映を始めたというわけです。


 まったく映画の上映会など経験のない人が自分がやらなければという使命感をもって始めたと聞いていますが。


龍村 映画会の開き方も知らないし、チケットの売り方も知らない。普通の主婦が使命感というより、白分も見たい、人に見せたいという思いで上映会を始めてしまったんです。仲間同士でいろいろと話し合って、その輸がどんどんと広がっていって、それなりの形になっていったと言います。


 上映して下さった方がおっしゃるんですけれど、自分が言いたかったこと、言いたいけれどどうやって表現すればいいかわからなかったことが、この映画を上映することによって全部伝えられたと言うんですね。


 いわゆる世紀末と言われる時代になってきて、私たちの価値観が大きく変わらざるを得なくなってきていると思います。地球や自然とのつきあい方など、私たちは確実に大きな過ちを犯してきた。その方向を修正するべき時期に来ていることが、この映画を通して感じ取れますね。

龍村 人が「変える」時代ではなくて、人が「変わる」時代になってきているのだと思います。人間の素晴らしさは、心のもち方によって自分が変われることを知っていることでしょう。どんな状況になっても、私たちは心のもち方次第でいい時代を選び取れる力があると思います。その選択によって、国が変わり地球が変わっていくんじゃないでしょうか。


 それは決して難しいことではなくて、日常生活の中で気づいたことをひとつひとつ実行していく。これしかないんです。そうすれば、知らないうちに周りに大きなうねりが生まれてくるはずです。「地球交響曲」という映画は、そのことを教えてくれているような気がします。

(地球人通信1996.7)


地球交響曲(ガイアシンフォニー)

21世紀を目の前にして、私たち人類がいかに地球とつきあっていくかを、第一番では6人、第二番では4人の人々の生き方を通して伝えるドキュメンタリー映画。