北海道あれやこれや日記
おひつのおばあさま
いいだともき
14年ぶりに戻った懐かしの我が家。一人暮らしのオヤジがボケてきたので家の中は散らかり放題。そこになぜか、電気炊飯器が3〜4台転がっていたので、近くに住む弟に聞いてみた。
「オヤジが水を入れないで炊くものだから全部壊れたんだ、今は普通の鍋を便っているよ」
それなら、僕が東京で玄米炊きに愛用していた鉄鍋を使おう。だったら、おいしく食べるために「おひつ」がほしいなあ。
僕はさっそく、「北海道新聞」の「掲示板」にファックスを送った。
3、4日後、新聞に載ったお知らせを見て、札幌市内の女性が連絡をくださった。「家で使っていないおひつがありますから、よかったらどうぞ」
翌日、僕はおひつをいただきに出かけた。すすきのから市電で4つ目のところだ。降りるところを間違え、ずいぶん遅れてしまったが、そのかたは、心配して迎えに来ていた。「家で使っていたものです。どうぞ」
そのおひつには、家族の歴史がしみこんでいるように思われた。今、おばあさまは一人暮らしのように見受けられたが、シャキッと立ったその姿は凛々しく、美しかった。
(地球人通信1996.7)

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