ルーマニアの画家シモーナ

みやこうせい


 友人の娘、シモーナがルーマニア一線の画家に成長して東京で個展を開いた。独裁崩壊後のルーマニアは混乱を極めて収拾がつかない。インフレ、給与は上がらず、貧富の格差は広がる一方で、独裁時代に郷愁を抱くものまでいるとのこと。


 シモーナはルーマニアの急激な改変の発端となったティミショアラの出身。生活苦にあえぐ大衆に比べると実力のある芸術家はいい時代を迎えたといってよい。抽象画も描けて個展が開ける。海外にも出られる。


 もとハプスブルク家の主要都市のティミショアラ市は1886年に欧州で最初に電気のついたところ。独裁崩壊後の1990年2月に突然、フランスの画商が自家用機で乗り込んだ。彼は3週間滞在して、市内に秘蔵されていた3千点の中世の絵画を買いあさった。画商は混乱に付け込んで旧家を軒並みに訪れ、時価数千万円の絵画を数万円で買い叩き、揚々パリへ帰った。

 それから数日後のことである。大トラックで市内の名画はいっさい持ち去られた。国境の係官は数千円で買収された。宝は強奪された。


 シモーナは「芸術にとって、これからが歴史だ」と、次の個展に向けて制作に励んでいる。

(地球人通信1996.6)