ゴロ寝の哲学
子どもを生む瞬間に感じた遥かな過去と未来

 
 フランス人ジャーナリストのコリーヌ・ブレさんが、週刊文春で、「子どもを生んだとき、私の意識は、遥か何億年前の過去と何億年先の未来を旅した」と、書いていた。体とこころを通してそんな実感をもったのだという。


 その後、ブレさんに会う機会があり、直接尋ねてみた。

「以前は、現在を中心にした幅の狭い過去と未来のなかで、ものごとを考えていた。出産を通して、自分自身が過去と未来をつなぐ鎖だと気づいたとき、遥か未来ともつながって、遥か過去ともつながった」と、説明してくれた。
「それまでは人間のスケールでしか考えてなかったのね」と、付け加える。


  鎖をつないだという自信は、死に対する恐怖をなくしたのだという。その反面、子どもを抱えた現実の日常生活では、病いや死、つまり生命を脅かすものに対して敏感になり、今まで以上に怖さが生まれたと、自身の変化を話す。そういえば、食品公害に関する運動も、原発に反対する運動も、その中心で動いているのは子どもを持つ母親だ。


 「子どもを生んでから、些細なことにはあまりこだわらなくなった。東京で暮らしていても、日本の裏側の国や未来の学校について想像したり、考えたりできるようになった」と語る。

 想像力は、記憶の扉を開けたとき、グ〜ンと大きく膨らみはじめるのかもしれない。
(地球人通信1996.10)