Zoom IN インタビュー  

映画『眠る男』に出演して
アジアのリズム 

クリスティン・ハキムさん
インドネシアを代表する女優。『眠る男』では「南の女ティア」役を日本語で演じた。約10ヶ月、制作スタッフと共に寝起きしながら撮影に参加。インドネシア・スマトラ島生まれ。社会問題を扱った大作に数多く出演、オピニオンリーダーとしても知られている。



 映画100年の歴史の中でも、小栗康平監督は、オリジナリティをもつ数少ない監督だと思います。なぜなら、普通の映画は、あるキャラクターを代表して役者がセリフを言い、その物語を演じていきますが、この映画にはそれがありません。

 美しい月があります。普通なら、ある役者に、「きれいな月だ」と言わせますが、『眠る男』にはこういう言葉がひとつも出てこない。こころの中で感じたことは、こころで表現している。それは言葉で表わされるのではなく、映像によって喚起させてくれます。だから、この映画を見るためには、見る人もこころを使って感じることが必要なんです。

 ある夜、監督や監督の家族と一緒に、満月を見ました。自然に囲まれたひっそりとした場所です。監督が車のライトを消すと、暗闇に月が浮かび上がりました。その時、この映画や、私が演じる役についていろいろ尋ねましたが、直接の答えは返ってきません。ただ、監督が私に教えてくれたのは、「君はとてもミステリアスな女性で、月から降りてきた女性だ」ということでした。暗闇の中で見る青い月の光は、美しく、神秘的でした。

 インドネシア北スマトラは、日本の田舎の風景ととてもよく似ています。自然の力強さとか自然の神秘が感じられます。ヨーロッパなどへ行っても、美しい風景ではあるのですが、自然の力強さは感じられません。

 音がなくてシーンとした静けさではなく、静寂という、神秘な静けさを表すことができるのはアジアの監督だからじゃないでしょうか。アジア人のリズムと西洋の映画のリズムはまるで違います。西洋はアクションなど早いリズムで描かれている。それと比較してアジア人の映画は遅い、単にゆっくりという意味ではなく、それはアジア人の持つリズムなんだと思います。

 インドネシアの若い世代は、ハリウッド映画に関心を持ち、その影響を受けています。インドネシアの文化はおざなりになる傾向にあります。このことはアジアの国々に共通すると思いますが、私は、自分たちの文化あるいは地域で作る映画が重要ではないかと考えています。
 『眠る男』からは、アジアの精神や息、リズムが感じられます。
(聞き手:さとうあけみ/インドネシア語通訳:原真由子/地球人通信1996.10)