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アイヌ詩人 宇梶静江さんの古布絵の世界〜日本列島巡回展〜

 アイヌ伝統の刺繍を、宇梶さんが古い和服地に施すと、生き生きとしたカムイ(神)が宿る「古布絵の世界」が誕生する。

 コタンの守り神、シマフクロウの壁掛け、アイヌ伝統の紋様が縫い取られたはんてん、マタンプシと呼ばれるアイヌ刺繍のバンダナなど見事な作品の数々が勢揃いしている。

 宇梶さんは、これらの作品を携えて、昨年(1996年)8月、札幌を皮切りに、「日本列島巡回展」を開始した。第2回は同12月、東京・渋谷で催したところ大きな反響があり、さまざまな新聞でも紹介された。今年4月、長野県飯田市での開催も決まっているが、そこの「ふれあいサロン波奈」のオーナー、小林波奈さんも、渋谷の個展がきっかけで、会場の提供と支援を申し出たひとりである。

 「個展とアイヌの精神世界の話が聞きたければ、いつでも呼んでください。私はどこへでも出かけて行きます」と宇梶さんは張り切っている。

 宇梶さんは、北海道浦河町の農家に生まれた。両親からアイヌの差別の話も聞いたし、宇梶さん自身も数限りない差別の経験をもっている。20歳のとき、札幌市に出て中学へ入った。そして1956年には、定時制高校に進学する目的で上京、以来、東京で勉強し、働きながらアイヌのウタリ(同胞)の支援のために活動を続けてきた。

 昨年、宇梶さんは一念発起、北海道ウタリ協会札幌支部主催の講座に入り、アイヌ伝統の紋様や刺繍、アイヌ文化の勉強をし直し、アイヌ伝統の刺繍と日本伝統の和服地を融合させた、独特の新しい古布絵の世界を生み出すことに成功した。

 宇梶さんの日本列島巡回展は、3つの要素で構成されている。作品の展示、カムイユカラ(動物や植物の神様の話)トーク、アイヌメリコ(アイヌの女性仲間)が制作した作品の即売である。
(地球人通信1997.4)