非結核性(非定型)抗酸菌症・肺マック症 

結核の仲間だが人には感染しない。進行は緩慢だが、治りにくい


  • 結核に似ている病気だが、全く別の病気。風邪のように咳や痰が長引いて治らない。レントゲンを撮ると結核のように白い影が映る。
  • 結核と違って、人には感染しないので通院で治療することが多い。新規患者は、結核30,000人、非結核性抗酸菌症6,000人となっている。
  • 土やほこりの中にいて、抵抗力が落ちたときに感染しやすい。また、肺に古い病変のある人に発病する事も多い。一般的には健常者には無害だが、ただ、稀に健康と思われている人(中年女性に多い)に発病する場合があること。通常、症状の進行は緩やでゆっくりとしており、徐々に進行するタイプと、無治療でもほとんど進行しないものもある。
  • 抗結核薬が必ずしも効かない。結核に比べてはるかにしぶとい菌である。
  • 確実に治せるという治療法がいまだに確立されていないので、患者数は増える傾向にあり、結果として漸次進行例や重症者が増えてきているのが実情で、呼吸器科医が現在最も苦慮している病気の一つとなっている。割合は軽症30%、中等症50%、重症20%。
  • 最初に、結核、肺の真菌症、肺炎、肺がんなどとの鑑別が重要。
  • 結核は通常6ヶ月の服薬で治るが、抗酸菌症はもっと長く、1-2年程度の服薬が必要となる。一般に予後は良いが病気と共存することも多く、薬が効果を上げない場合は5年-10年単位で病気と長くつきあうことも多い。

■どういう病気か
  • 「非結核性(非定型)抗酸菌症」は、結核菌に類似した性質をもっているが、毒力は弱く、重症化しにくい細菌である非定型抗酸菌による呼吸器感染症のこと。最近は非結核性抗酸菌症と呼ばれることが多いが、行政的には定型の結核に対する意味で、「非定型抗酸菌症」という表現が使用されている。
  • 抗酸菌は、
    @感染力は弱く、ヒトからヒトへの感染は基本的に否定されている。
    A生活環境(土ほこり、室内ほこり、川・池、風呂・シャワーの水などに広く存在している、人の抵抗力が少なくなったときに住み着いて症状を起こす。動物の糞、土埃、飲料水や生魚の摂取、汚染された医療器具の使用等によっても感染する。水道水に混入している可能性もある。また、製氷機からも非結核性抗酸菌が検出され、それが原因で呼吸器に定着したという報告もある。動物の糞を処理したり園芸をやるときはマスクをした方が無難。
    B経過が結核以上にのんびりしているが、結核と比べて一般に薬剤効果が弱い。経過がのんびりで、治療しなくてもほとんど進行しない例もあり、あせらずに、慢性病として5年-10年単位で長くつきあう心構えが重要。30年以上も経過観察だけで済ませた患者もいるほど。
    以上のような特徴があり、結核とは別の病気。肺に基礎疾患(COPD、気管支拡張症、じん肺等)があったり、HIV感染患者や白血病患者、臓器移植患者等で抵抗力が落ちている場合発症しやすい。
  • 多くの菌種(20種程度、イントラセルラーレ菌、アビウム菌、カンサシ菌などがある。一般に毒力は弱い)があるが、もっとも多いのが肺MAC(肺マック症)で全NTMのほぼ70%を占め、次いでカンサシ(MK)症が10〜20%程度と推定されている。
  • 感染率は10万人に1.45人(1985年)、2.99人(1992年)で年間に日本では約8,000人の発生が報告されている。一方、結核症は10倍の毎年約30,000人発病している。
  • 肺MAC症は病原菌の飛沫感染で起こり、患者の95%は40歳以上の中高年女性で他には高齢者に多い。肺マック症の場合、特に過労や手術後など体の抵抗力が弱った時に症状が出現し、診断される事がしばしばある。最近の特徴として、MAC症は、従来の肺結核に類似した病型に代わり、基礎疾患が特にない中高年の女性に発症するケースが非常に増えている。(初期は無症状だが、高解像度CTにより早期に見つかるケースが増えている、また突然の血痰で発見されるケースも多い) 治療が難しく確実に効く薬はまだない。感染源は風呂場の浴槽やシャワー、ガーデニング。予防はシャワーヘッドなどは綺麗に洗うこと、ガーデニングの際はゴム手袋をして終了後は手洗いとうがい。
  • いずれにせよ、この病気は最初に結核ではない事の鑑別をする必要がある。初期は無症状。肺の中下肺野に多い。何故中年女性に多いかは不明。経過は良好なことが多く、通常治療の必要がないが、まれに慢性の炎症が進行する場合は治療する。
  • カンサシ症は男性の喫煙者に多く、肺の上葉に空洞を生じる事が多い。この菌のみが人から人に感染するかも知れないと言われる。
  • 非結核性抗酸菌症と診断が決まるまでには、同じような症状とレントゲン・CT所見、気管支鏡、血液検査等を呈して紛らわしい結核との鑑別を行い、結核でない事を否定する事が肝要である。患者の基礎疾患、臨床症状、あるいはレントゲン所見といった臨床医の判断によってある程度は鑑別が可能であるが、最終的には起炎菌の細菌学的な検査によって判定することになる。菌量が多い場合は1週間程度で結核と非結核とは区別できる事もあるが、通常は4週から6週間を要する。最終的な判断は、培養検査による。塗抹陽性の場合は、結核と断定は出来ないが、当初は結核との区別が出来ないので、結核の可能性有りとして隔離入院が勧奨される(強制力はなく患者が判断する)。入院した場合は結核予防法35条の公費負担が申請出来る。後に、最終検査結果により非結核性抗酸菌症と判明した場合は、伝染病扱いはなくなり隔離は解除される。
■症状
  • 症状は非常に軽いことが多く、全く症状がでないこともある。非定型抗酸菌症に特有の症状はない。治療しなくても、炎症が進行しない場合もある。病気が進行すれば、慢性的な咳や痰、微熱、発汗、食欲不振、貧血、体重減少、倦怠感、発熱、血痰などが出現する。 患者の80%は血痰が出て気づいていると言われる。咳がひどく40度の熱が出ることもある。
  • 咳・痰・血痰等の症状がある場合は結核の薬を中心に3-4種類組み合わせて治療する。

■検査
  • レントゲン、CT(レントゲン検査、CTでは結核と非定型抗酸菌症の区別は困難)
  • 痰の検査(3日間の培養検査で大抵診断がつくが、通常8週間培養)
  • 気管支鏡 (軽症の場合は気管支鏡で診断がつく
  • ツベルクリン反応:結核菌又は非結核性抗酸菌に感染したか、BCG接種の影響かは分からない
■診断
  • 初期の段階で、結核ではないかと間違われたり、結核と診断されることもあるほど似ているが、結核のように進行が早くなく、また、他人にうつすことも無い。
  • 喀痰塗抹検査を行い、陽性の場合には結核菌か非結核性抗酸菌かの識別が必要。痰の培養検査を行い、抗酸菌を確認し、さらに進んだ検査を行い、結核菌か非定型抗酸菌かを見極める。培養された抗酸菌がナイアシン・テスト陽性であれば、結核菌と診断される。陰性であれば非定型抗酸菌と診断される。(結核菌と非定型抗酸菌は顕微鏡検査でも区別がつきにくく、菌培養後のナイアシンテストというテストで区別するくらい似ている)
    さらにPCR(HCV-RNA:核酸増幅反応法)検査によって確定診断される。培養検査で抗菌剤に対する感受性を調べて治療薬が決められる。胸部X線では肺結核に似た空洞形成がみられる。胸部レントゲンも不定形で、結核に似ている像を示す場合もある。空洞を伴う肺浸潤影の形をとることもある。結節影の形をとるものが最近増加している。非定型抗酸菌を検出しても、対応する症状が全くない場合には病気として扱わない。
    抗酸菌は自然界に存在しており、たまたま喀痰から排出される(偶発排菌)こともあるので、ある程度以上の菌数と回数が認められることと、臨床所見と一致することが必要。遺伝子診断法(PCR法やDDH法など)により確定する。最初に、結核、肺の真菌症、肺炎、肺がんなどとの鑑別が重要。
  • 塗沫検査 結核菌を顕微鏡で見つける。 1日程度。

    結核菌は酸に強い菌の仲間(抗酸菌)で、その性質を利用した染色によって痰を染めて顕微鏡で赤く染まる菌を見つける検査。菌の数から感染力をある程度推定できるが、結核菌を100%特定することはできない。喀痰1ml中に約7000個以上の菌が存在すると菌が検出され、「塗抹陽性」と判定される。しかし何千個程度では検出されず、「塗抹陰性」とされるが、培養検査では菌が確認されることもある。また、死菌でも染まるので培養検査の結果を待って診断する必要がある。菌種の区別はできない。抗酸菌陽性/陰性のみの結果にとどめる。

  • 結核菌遺伝子検査 :PCR法と言う方法で結核菌の遺伝子を見つける新しい検査。7日後。

    結核菌PCR法は早くそして正確に結核菌を診断できるが、死菌でも陽性になるので培養検査の結果を待って診断する必要がある。

  • 培養検査

    塗沫検査で菌がみつからない場合、結核菌PCR法陰性でも痰を培養してみると菌が増殖してコロニー(目で確認できるもの)形成する場合がある。精度は高いが、結核菌は分裂・増殖するスピードが一般菌(大腸菌やブドウ球菌など)に比べてはるかに遅く(一般菌は大部分が翌日にはコロニーを形成するのに対して結核菌は1ヵ月もかかる)、結果がでるまでにかなりの時間がかかるのが難点。
    培養結果までの期間は小川培地で4〜8週間ほど、液体培地ではかなり短い期間で検出できる。現在日本でも普及しつつある方法。

  • ナイアシンテスト

    塗抹・培養検査で検出された菌が結核菌か、非結核菌かを調べ、菌の同定を行う検査。

  • 薬剤感受性検査

    発育してきた菌を使ってその菌に抗結核菌薬が効くか効かないかを調べる検査。結果がでるまでさらに約1ヵ月かかる。MAC症の場合、現在使用されている結核菌のための感受性試験の結果はまったく参考とならない。

  • 画像診断基準
    1. 胸部X-Pで多発性結節か空洞か2カ月以上続く浸潤影があること
    2. HRCT(高解像度CT)で多発性の小結節か肺野の小結節を伴うもしくは伴わない多発性の気管支拡張所見があること
■治療
  • 排菌の無い人、症状のない軽症の場合には特に治療はしない。痰の培養をすると陽性となる場合でも、咳、痰、微熱などの症状がないか、あっても軽い場合には、レントゲンで経過を観察しながら特に治療はしない。数年間変化がない人、軽快する人も多い。初回の治療でかなり改善したりする人も多いが、一方、一旦減少した排菌量が何らかの原因で再増加することもある。いまだに確実な治療薬はなく、効果は限定的な点が問題。強力な薬を複数長期間服用するのは患者にとって大変な負担になり、時として治療の続行が困難になることもある。
  • 軽いマック症の場合、無理しない生活を心掛けるだけで薬剤を投与せずに経過観察することもしばしばある。
  • マック症で症状が強いか、進行が速い例では、薬物治療を1-2年実施する。用いる薬剤は結核の治療薬と同じものと、一部、一般の抗菌薬も用いられる。通常多剤併用で効果が期待できる。
  • 結核菌より病原性は弱い菌なのだが、結核よりはるかに頑固な菌で、結核と同様な薬を3-4種類服用するが、効きめが弱くすぐには効かない場合もある。結核では通常4〜6ヶ月程度で治るが、抗酸菌症はもっと長めに服用(1年〜2年程度)が必要なことがあるので根気よく治療を続ける必要がある。薬の服用の他、週2-3回筋肉注射をすることもある。
  • この病気は、予後は良いが、治療が長めになる事があるので患者も医師も忍耐が必要。強い症状がり、肺の病変が著しい場合には、外科手術となる。手術の時期を適切に判断すれば80〜90%程度の社会復帰が達成される。経過によっては空洞形成まで3年〜20年かかり、感染後20年位で呼吸不全に陥る事もある。
  • 薬で最も一般的なのはクラリスロマイシン(CAM)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)、ストレプトマイシン(SM)の4剤を同時に使用する方法。但し、効果は約半数。副作用にも注意が必要。CAMは現在第一選択剤と位置付けられている。EBは第2選択肢。SM/KMは注射薬であること、副作用などの問題から老人には使用しにくい薬剤であるが、ぜひ使用したい。KM=カナマイシン、その他、リファンピシン+エタンブトール+クロファザミン+シプロフロキシン、リファブチン+エタンブトール+クラリスロマイシン、アミカシン+エタンブトール+リファンピシン+プロフロキサシンなどの治療が行われている。
  • MAC症の場合は、多剤併用で、クラリスロマイシン(CAM)、エタンブトール(EB)、リファンピシン(RFP)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、などが使用される。ニューキノロン剤の併用効果を指摘する者もある。
  • カンザシ症の場合は結核と同様の薬物治療を1年から1年半実施する。リファンピシン(RFP)等によく反応し比較的良く治る。
  • この病気にかかる事は、体が弱っている(免疫が落ちている)ことが考えられるので、体力を増強させるような生活が望まれる。
  • 非結核性抗酸菌症治療のために、結核治療薬+一般抗菌薬を服用中は、例え結核病院に通院や入院していても、周囲の結核患者から新たに結核菌感染を受ける心配はない。
■日常生活
  • 過労を避けつつ、適度な運動を心がける。ヒトからヒトへの伝染はないので、自宅で家族と一緒に生活しても問題なく、家族や周囲のヒトに対して特別な配慮は必要ない。排菌強陽性の人でも隔離の必要はない。
  • マック症の場合、十分な栄養と安静をとることが重要。自分の最大限の活動量を10とした場合7位の生活を心がける。規則正しく食事し、8時間以 上の睡眠をとる必要があるのは言うまでもないことで、マック症の悪化は、引っ越し・大掃除・旅行・看病・孫の世話等で無理をした時に多いので注意のこと。
  • 治療をするにしても、経過観察するにしても、長期に及ぶ事が考えられるので、あせらず、ゆとりを持って過ごすことが大事。
■病院
  • 治療のためには、結核の治療に知識のある呼吸器科医、又は、結核専門病院を受診するのがよい。
  • 東京病院  
    日本でもっとも多くの非定型抗酸菌症を診て, 内科的外科的な治療や多くの研究を行っている病院。
    〒204-8585 東京都清瀬市竹丘3丁目1−1 TEL 042-491-2111(外来診療部長:永井英明)
  • 国立病院機構相模原病院呼吸器内科谷口正実先生、結核予防会複十字病院呼吸器内科倉島篤行先生がこの病気に詳しい。
■参考資料

間違いにお気づきの場合は、「趣味のアルバム」topよりメールをお寄せ下さい

この頁は、書籍・文献・新聞・テレビ報道などより得た情報や先生方から直接お聞きしたことを整理したものです。医学の進歩は日進月歩であり、新しい治療法が見つかることも、また、従来の治療法が否定されることもしばしばあります。本欄を常に最新の情報に更新することには限界がありますので記載内容の最新性、確実性が常に保証されるものではありません。情報を参考にされることは構いませんが、最新情報は各自で医療機関にご確認下さい。また、対処法は個人の症状や体質などにより違ってきますから、この情報による効果や影響に関しては個人の責任と判断で行ってください。情報の利用の結果、万一、利用者に不都合、不利益が起きても一切の責任は負えないことをご了承下さい。

最終更新:2008.1.22/2014.2.16

 

趣味のアルバム > 健康生活 > Top of Page


BACK