G 花の寺 2014.9.2

最御崎寺近くから津照寺のある町を望む。
みずみずしい花が出迎えてくれた(金剛頂寺)。

 高知県に入る。歩き遍路ならば、日和佐の薬王寺(23番)から75kmの道を3日がかりで室戸の最御崎寺(ほつみさきじ・24番)に至るが、私は交通機関を利用し半日で着く。バスを降り、少し徳島方面に戻ったところにある御蔵洞(御厨人窟・みくろど)に向かう。

 ここは、空海が修行中、天に輝く明星が口の中に飛び込んでくるという不思議な体験をしたところ。洞内で修行された御大師の眼には名前の元となった空と海のみを感じたと言われている。20m程入った洞内から振り返るがバスが横たわり、海も見えなかった。

 岬に登る。最御崎寺は木々に囲まれ、岬にいる感覚が無い。参拝を終え、自動車道に出たら雄大な太平洋が眼下にあった。やはり広い空の下は心が晴れやかになる。

 港近くの津照寺(25番)は本堂が町の中にある。ただし長い階段を登る。津波に備えた山の上にある。昔、灯台の役目をしたこともうなずける。

 金剛頂寺(26番)へ向かう。元橋のバス停で下車。集落の中の車道を歩き、道しるべは山道へ。今日最後の登りに挑む。苦戦すること20分、視界が開け、室戸岬が見えた。椎の林を進むと寺の境内へ。参拝を済ますと、納経所の若い女性が宿坊の受付を教えてくれた。

 どっしりとした風格ある会館が宿坊だった。車寄せの傍に大きな水盤。みずみずしい花が活けられていた。呼び鈴を押すとしばらくして奥さんが迎えてくれた。一声聞いた時、宿泊をお願いしたときの電話の声と気付く。「一人ですがお願いできますか」「当日は大丈夫。ただ、相部屋になるかもしれませんが」。そんなやりとりだった。その前に他の寺に宿泊をお願いしたら満席と断られたので、許可の言葉がうれしかったことを思い出した。年齢を聞かれ、「節目ですね」と言葉少なに話す。指定された部屋へ。広々とした和室に窓いっぱいのガラス障子。床の間の山百合が部屋中に匂っていた。隣の部屋とは襖一枚。すべて取り払うと大広間になると思われた。

 宿坊に着いてから降り始めた雨がしっとりとこの寺全体を荘厳にしてくれている。受付時に、突然の宿泊者があれば相部屋と言われていたが、当日、来室者は無く、広い部屋を一人占めして床に就いた。静寂と花の香りが優しくゆりかごを造ってくれた一夜だった。(Y.I.)