F うみがめ荘 2014.8.26

山の中腹に見えるのは23番・薬王寺の瑜祇塔 。
飼育プールで泳ぐウミガメ 。

 海なし県に住んでいると海に憧れる。特に、旅に出たとき列車の窓から見える小さな海にときめいた。昔は東海道線に乗れば品川あたりで海が見えたが、今は新幹線。小田原を通り過ぎて、トンネルの隙間から見えるだけになった。

 長い砂浜にウミガメが歩いている情景をテレビで見て、いつかは行きたいと心の隅で思っていた。四国遍路で薬王寺(23番)が日和佐にあると知って、小おどりをした。「泊まれる。ウミガメに遭えるかな?」。しかし、プランを立てて見たら、「うみがめ荘」には泊まれそうもない。

 せめて日和佐で少し時間が取れないだろうかと思いながら出掛けた。 ところが天候の都合で計画変更。うみがめ荘に泊まれることになる。急いで、平等寺(22番)の傍の宿をキャンセル。うみがめ荘に宿泊をお願いする。

 特急の停車駅「日和佐」。ここも無人。跨線橋は無く、上り下りのホームは線路の両側にあり、町の人の通り道になっていた。傍に道の駅。こちらは建物も大きく、人の出入りも多く賑やかだった。薬王寺の瑜祇(ゆぎ)塔が小高い山の中腹に見える。

 二つの札所をお参りした足は、重かった。女坂、男坂、そして還暦の厄落とし坂と上り、参拝。境内から見た空いっぱいの海は懐かしく美しかった。

 宿までの1kmの道が長く感じる。待望の砂浜、大浜海岸に出る。潮騒を聞きながら北上。うみがめ荘が見えた。鉄筋コンクリートの味気ない建物は物悲しく見えた。ぱっとしない玄関を入る。受付は無人。2、3分経って中年の女性が現れ、応対してくれた。部屋の鍵を渡され、夕食等の案内を聞き、宿泊代を支払い、部屋へ。受付の人は多忙と見え、食後に問い合わせに伺ったら誰もいない。夕食時に床は敷いてくれたが、ふだんの旅館とは大分勝手が違った。好景気の時代に全国で国民宿舎が多く作られたが、環境が変わり、ここも民営になった。4階建の建物の保全や運営に苦労をしているのがありありと分かった。当日の宿泊者は3名。

 翌朝、早く出発したので、部屋の鍵は無人の受付に返納し宿を後にする。砂浜の庭にあるプールでウミガメが悠然と泳いでいた。人通りの少ない街中を駅に急いだ。(Y.I)

*日和佐…平成18年3月に由岐町と日和佐町が合併し、美波(みなみ)町となった。 徳島県海部郡。大浜海岸はウミガメの産卵地として有名。日和佐うみがめ博物館などがある。