E お接待 2014.8.19

19番・立江寺の仁王門 。

 徳島駅前のホテルに2泊する。交通機関、特にバスは県庁所在地の徳島が起点になっているからだ。出発前から気にしていた雨が、いよいよ降ると予報が伝えている。明日は平地の札所を回り、それから山の札所の予定だったが、雨が降れば山道の足場が悪い。回る順を崩し、午前中に鶴林寺(20番)へ登り、それから恩山寺(18番)・立江寺(19番)と回ることとした。

 幸い午前中は降らずに、鶴林寺へは乾いた山道で往復できた。ただ、恩山寺へ向かう途中から降られ、民家の軒先を借り雨具を付ける。降雨時間は短かったので、立江寺を参拝し、電車に乗るころは曇天になっていた。

 四国のJRはワンマン列車が多く、駅は無人。立江の駅もご多分にもれず無人だった。跨線橋はなく、乗客は直に線路を渡る。交換線路があっても、上り下りのはっきりとした区別は無く、時刻により到着ホームが変わる。駅の時刻表を見なければ反対側のホームに行き、乗り遅れる心配もある。

 徳島行きを待っていたのは3人だった。定刻に着いた列車に乗る。次の駅に差しかかったとき、さっきいっしょに乗った方が私の前に立ち、「お接待です」と200円を出された。私は戸惑った。本で見て知っていたが、自分がお接待を受けるとは思っていなかった。案内書には、「南無大師遍照金剛」と三遍唱え、納札を渡すこととなっているが、とっさに何もできず、ただ、手を出し、小声で「ありがとうございます」と言ったと思う。お接待をした中年の女性は何もなかったように降りて行った。

 金銭をいただくのは、昔、子どもの頃か、それも定かではない。私たちの時代は正月のお年玉は無く、親以外の方から金銭をいただいたのは初めてかもしれない。体全体が興奮しているような気持ちになっていた。

 金銭、食べ物、話し相手、道案内、挨拶と、四国はお接待にあふれている。特に、前回書いた遍路道の石仏や道しるべは、歩く人への大きなお接待だと思っている。当たり前のように行うお接待が、四国遍路を支えていると感じた。(Y.I)