D へんろころがし 2014.8.12

弘法大師が「一息つくのにちょうどいい」と言ったという長戸庵 。
山中からの景色、吉野川が見える。

 今日は山道。「へんろころがし」の難所だ。予定では交通機関を使い、大回りをして山腹の寺に参拝すると計画していたが、二日間合わせて40q以上を歩いて自信がつき、山道へ挑戦を決め、同宿の人たちと共に6時半に宿を出る。山道に入るともう一人。皆早い。馬力のない私は道端の木々や小石が話し相手。無理せずゆっくり歩む。

 林道に出た。地元の方に会う。「この先の分れ道に私が立てた石仏があるよ」。曲り道のところに新しい仏像がおられた。300mぐらい一気に登る。降りてくる人に会う。朝の散歩に長戸庵まで行って来たとのこと。尾根道に差しかかったら長戸庵に着く。

 後ろから集団。スポーツウェアの6人が追い抜いて行く。「おはよう」「ご苦労様です」。疾風の如く。私は道端で息を整えるだけだった。また後ろに足音。追い抜かずに歩幅を合わせてくれている。200m余りそのまま歩く。道を譲る。「お先に」とすぐ見えなくなった。

 気が付くと道脇に石仏がおられる。今、歩くことのみに苦労しているのに、昔から一定の間隔で石仏をここまで運んで設置した先人がいる。頭が下がる。余裕があればおひとりおひとり参拝したいがそれどころではない。お題目「南無大師遍照金剛」と唱え、石仏に山越えの手助けをお願いして前を通り過ぎる。

 行程の半分、柳水庵に着く。体力的にはここは三分の一。まだ、二つの登りと一つの下りがある。追い越して行ったスポーツウェアの集団は帰ってきた。「スゴイ、羨ましい」。私は水場で口を潤し動き出す。ちょっとした広場で、先ほど追い越して行った人が昼食を摂っていた。頭を下げ通り過ぎると立ち上がり、いっしょに歩き始めた。この方と焼山寺に登り、麓の宿まで同行していただいた。そのため、私は、登り坂も息が上がらず歩けた。大幅に遅れると覚悟したコースタイムも計画通り焼山寺に着く。お大師様の手助けだったと今も感謝をしている。この様な不思議な出会いは、58番札所以後8日間一緒に歩いてくれた友人がいたことも、私の遍路旅に花を添えてくれた。(Y.I)

へんろころがし…四国霊場には「へんろころがし」といわれる難所がいくつかあるが、11番・藤井寺から12番・焼山寺への道は最も難所といわれる。標高40mの藤井寺から標高700mの焼山寺まで約13km、上り下りしながら細い山道をたどる。