第21便・・・ウィーンは夏休み


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 7月になれば暑い夏が来るものと思っていたのに「あれ?夏はどこへ行ったの?」という涼しさのウィーンです。7月に入って急に曇りがちの日が増えました。夕方には小雨もぱらつきます。それでも大学は夏休み。若者達の半分はどこかへ消えてしまいました。我が家の近くのパン屋さんも夏休みになりました。店の前には「休業中、8月13日から営業します」の張り紙。この張り紙は7月1日には出ていましたから、丸々40日間の夏休みです。涼しくても夏は夏。いえ、こちらは涼しいからこそ、太陽を求めてバカンスに出掛けるのかもしれません。

 オペラ座もムジクフェラインも夏休みです。オーケストラの団員達はバカンスを兼ねて外国や地方興行にでかけています。ウィーン交響楽団はドイツとの国境に近いボーデン湖での湖上オペラとコンサートがこの時期の「仕事」。「景色はいいしプールやテニスコートもあるし最高ですよ」と団員の1人がうれしそうに言っていました。閉まっているオペラ座の前で仕事を続けているのはモーツアルト・コンサートの切符売りです。夏になっても相変わらずモーツアルト時代の衣装で観光客に声をかけています。そしてその脇の歩道で工事が始まっていました。敷石に音楽家達のネームプレートをはめ込む作業です。並べている順番の規則は読みとれませんでしたが、オペラ座に一番近いところにヴェルディとカールベームが並んで置かれていました。仕事は決して早くないこの国ですが、今からならちゃんと9月のオペラ開幕までに間に合うことでしょう。

 ウィーンのメインストリート、オペラ座からシュテファン寺院にかけてのケルントナーシュトラーセを歩いている人の数も減ったように思えます。とは言え、そこはメインストリート、相変わらず観光客は多いようです。いろいろな国の言葉が飛び交っています。ところが、ふと気が付くとへそ出しルックのお嬢さん方が見当たりません。夏に先駆けておへそを出すのがウィーンのファッションだったというわけです。それにしてもショーウィンドウそのままというお嬢さん方がそっくりそのままどこかに消えてしまったことも確かです。今頃はぎらぎら照る太陽の下で肌を焼いているのでしょうか。

 シュテファン寺院広場の大道芸人は頑張って仕事を続けています。目下この広場で一番人気があるのはこの操り人形達です。この人は、春先までピアノを弾き歌を歌うチンパンジーだけを操っていたのですが、新顔も登場させました。新顔君も人々に愛嬌を振りまき、子供達ばかりか大人達をもひきつけます。そして近づいてくる人がいると、じっと期待のまなざしでその人を見つめます。もちろん、ちらと帽子に視線を投げかけるのも忘れません。そして帽子に投げ入れられたチップに感動するその仕草を見ていると、ついこちらもバッグやポケットの小銭を探し始めてしまいます。

 ウィーンの人々を楽しませてくれるのは大道芸人ばかりではありません。市庁舎前広場にはオペラが休む期間ちゃんとイベントが用意されています。フィルムフェスティバルです。6月30日から9月2日まで市庁舎前の大スクリーンに連日オペラやコンサートが映し出されます。そして最後の2日間はオペラ座(シュタッツオパー)からオペラを生中継しオペラシーズンの開幕を祝うのだそうです。
 7月16日、この日のフィルムはちょうど2年前、カラヤンの10周忌にアバド指揮ベルリンフィルで演奏されたモーツアルトの「レクイエム」でした。薄着で来てしまったのを後悔した程気温が低かったのですが用意された700ほどの席はほぼ満席です。見れば皆きちんとコートを着ています。中には毛布持参で来た人もいて、ウィーンでは7月にも寒さ対策が必要なことを改めて知りました。そんなわけで寒さに震えつつではありましたが、ベルリンフィルの見事な演奏を大画面と大スピーカーから流れる音で楽しみました。そして、演奏が終わり、アバドが静かに指揮棒を下ろし、画面の人々が涙を拭うと、ぽつりと雨が降り出しました。