第20便・・・夏を待つウィーン


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 ウィーンにも初夏がやってきました。レストランやカフェが店の前に出したテーブルも、人でにぎわい始めました。今年は3月に一度暑い日が数日続いたきり気温がなかなか上がらず、5月も肌寒い日が多かったのですが、6月に入ってようやく初夏の雰囲気になりました。短い夏を最大限に楽しもうというのでしょう。多少肌寒い日でもノースリーブやタンクトップ姿の人がいます。背中やお腹を出す装いも流行しています。そして「おへそにピアス」の人ばかりでなく、背中や肩にタトゥーという人もいます。1日に何人も見かけるうちに、だいぶ見慣れてきました。

 さて、わが家の窓から見えている中庭の木のうち、一本は菩提樹でした。ふと気が付くと、楓の種のようなプロペラに似た形の物がたくさん付いています。花が咲いているのにも気が付かなかったけれど、こんな時期にもう種なのかしらと思っていましたら、数日後、その羽根が2枚に割れ、中から小さな黄色い花がいくつも下がっています。隣のマロニエには小さな実がつきはじめました。木々のこうした変化をじっくり眺められるのも中庭の木が5階建ての建物とほとんど同じ高さにまで伸びているからです。外から見ると石の家が隙間なく建ち並んだ通りなのに、建物の内側には中庭があり木々が生い茂っている。おもしろい構造の街作りです。
 そういえば数ヶ月前、わが家の近くにあった家が取り壊された時にも、見たこともない中庭が突然目の前に現れ、生えている木々の姿の美しさに驚いたことがありました。

 私が現在所属しているウィーン大学東アジア研究所のある建物にも公園のように広い中庭があります。この建物全体が元は病院だったのだそうです。庭の中央の並木道にはベンチが置かれ、学生ばかりでなく近所の人も自由に散歩に訪れます。緑濃くなった並木は木陰を作っています。この並木道、「便り」や「写真館」に何度も登場しましたから見覚えのある方もいらっしゃると思います。冬の終わりにかなり大胆に剪定されてしまったので、ちょっと心配していたのですが、今は葉をびっしりつけています。数年経てば姿のいい並木になるのでしょうか。この時期、人々は、芝生に木陰にベンチにと、思い思いの場所に思い思いの格好でくつろいでいます。

 そして6月29日、この中庭で日本学科の学生主催のパーティも開かれました。オーストリアの大学は6月いっぱいで春学期(夏学期)が終わり夏休みに入ります。冬学期が始まるのは10月になってからですから、丸々3ヶ月の休みです。ですから沖縄パーティと銘打ったこのパーティは打ち上げのようなものです。パーティの始まりは8時。山盛りの肉と野菜が準備されバーベキューの肉の焼けるにおいがあたりに漂っています。飲み物はもちろんビールとワイン、そしてジュース。パーティとは言え、学生も教員もあらかじめ食券綴りを購入し、好きな物を注文するという仕組みです。そしてバーベキュー担当の学生やカウンターの学生は、すべて「アルバイト」とのこと。なかなか面白い運営方法です。そして集まった人々は踊るでもなく歌うでもなくただただ友人達とのお喋りを楽しんでいます。いろんな学生達とお喋りしていて、ふと気が付くと11時半。市電の最終に間に合わなくなるからと途中で引き上げましたが、パーティがお開きになったのは夜中の12時過ぎだったそうです。
 ふと思い出しました。「日本人のパーティは、さあこれからと言うときに終わりになってしまう」と言っていた学生がいました。そうウィーンっ子たちは適当に飲みながら延々喋り続けるのです。飲むことよりも食べることよりも会話そのものを楽しむ文化がそこにありました。