第18便・・・ウィーンの桜


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 ウィーンでの滞在も半年を過ぎました。これから巡り来る季節は繰り返しのない1年になります。そこで、これからは季節ごとのウィーンの表情もできるだけお伝えしたいと思います。

 今年は3月のはじめに初夏のような日が数日あったのに、3月の後半にはまた寒い日々が戻ってきてしまいました。そして3月の下旬に雪が降りました。この写真は3月21日早朝の写真です。その朝、学会でシカゴに行くことになっていたため早起きし、さて出掛けようかと、ふと窓の外を見たら雪景色です。朝起きたときに寒いとは思ったけれど、ほんとに雪が降っていたとは。信じられない気持ちでしたが、それでも急いで旅行鞄の中からカメラを取りだし撮影しました。今年のウィーンの春の訪れは、春はすぐそこにいるのに、いつまでも足踏みしているようでした。

 ところが1週間後、ウィーンに戻ってきてみると街の様子が変わっていました。あたりの寒さがゆるんでいたのです。木々も春を待ちかねていたのでしょう。雪化粧していた木々は、わずか1週間の間にもう芽吹き始めていました。そしてこの写真は4月の8日に撮影したものです。日本風に数えたらマンションの4階にあたる我が家の窓から見える中庭の木もそれぞれ可愛い葉を広げ始めています。この小さい葉を見ただけでは何の木か定かではありませんが、これからの1年間、この窓から見える季節の移り変わりもお楽しみいただけたらと思います。

 さて、街のショーウィンドウには、ネコヤナギの小枝につるされた色とりどりの卵をみかけます。さまざまな絵柄の卵がきれいに並んでいることもあります。この卵が復活祭の卵です。ネコヤナギの隣にレンギョウが添えられていることもあります。12月になればすべてのショーウィンドウがクリスマス一色になるように、復活祭前のこの時期には、ケーキさんにも洋服屋さんにも、そして、この写真の理髪店のショーウィンドウにも復活祭の卵が飾られます。不思議なことに日本では、クリスマスにはツリーが飾られジングルベルが流れるのに、復活祭のほうは定着していません。これは復活祭が移動祝日だからなのでしょうか。復活祭は春分後の満月の次の日曜日で、早ければ3月の22日、一番遅いときは4月25日になることもあるそうです。今年の復活祭は4月15日です。卵と並んで復活祭のシンボルになっているのがうさぎです。卵は新しい命をあらわし、うさぎは生命力の強さをあらわしているのだとか。

 花壇も春の訪れを告げています。4月に入ったことを祝うかにカールスプラッツの停留所脇に植えられたチューリップも一斉に花開いています。ところが、この国のチューリップの植え方を見てふと気付いたのは、開花の時期を微妙にずらした植え方がなされていることです。日本より冬が長く暗く、春を待つ想いが強いためでしょうか、ことあるごとに花を贈る花好きの国民性のせいでしょうか、花屋の数も花束を抱えている人の数も日本に比べて多いように思われます。そんな中、花壇の花の植え方にも、より長く美しく街を飾ろうという工夫がなされているのかもしれません。

 ウィーンの春を紹介するなら、是非、ウィーンの桜の花も撮りたいなと思っていた矢先、ドナウパークには桜があるという話を耳にしてさっそく行ってみました。ドナウパークの真ん中には細身の京都タワーという雰囲気のドナウタワーが立っています。周りにはエリカの花が真っ盛り。ところが肝心の桜は見えません。広いドナウパークのどこにあるのかと、桜をさがしながらドナウタワーに向かいました。

 高い木々がそびえる林を通り抜けると緑の芝生が広がっていました。その芝生を突っ切るようにドナウタワーへと続く小道が作られています。何とその小道の両脇にソメイヨシノが植えられていました。そして花も満開だったのですが・・・その桜の木は、この写真のようなありさまでした。え?これが桜?と思ってしまいます。枝という枝が切り落とされてしまった後、何とか生えてきた枝にびっしり花がついているという状態です。これではまるで桃の枝です。日本では「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」と言われているのに、オーストリアの庭師は桜の枝を切ってはいけないことを知らないのかしらと思いつつ撮影しました。ところが、実はこの並木の桜はすべて5年前に日本から贈られた桜なのだそうです。はるばるウィーンまでの長旅に耐えられるようにと、やむなくすべての枝を切り落としてしまったのでしょうか。せっかくの友好の印ならほかの方法はなかったのだろうかとあれこれ考えながら、ドナウタワーに登りました。

 タワーの上から見たウィーンの街は、若葉の様々な色合いの緑で飾られ、なかなか素晴らしい景色でした。しばらく街の遠望を楽しんだ後、ふと真下のドナウパークを見下ろした時、そこにとても面白いものを見つけました。それがこの写真です。緑の中を貫く真っ白な線の両側に美しい星の模様が並んでいます。改めてよく見ると、その星の一つ一つは桜の木でした。あの並木はこの模様を意図して作られたのではと思いたくなるような、これまで見たことのない不思議な模様でした。それにしても、この小さな星が見事な枝振りの桜になるのには果たしてどのくらいの年月がかかるのでしょうか。それまでの間、ウィーンの人々がこの並木の桜を見て、日本人の愛でる桜とはこれなのかと思ったりしなければいいのですが。