第13便・・・春の足音


ドナウの川岸、子供達は氷投げをして遊んでいます。
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 日本では暦の上ではもう春。日本の皆様は今年も豆まきをなさいましたか?
 日本にいるときは2月3日には豆を煎り、玄関や窓を開けては「鬼は外、福は内」と、豆まきをしていましたが、さすがにウィーンでこれをするのははばかられます。そっと静かにしていました。
 でも、ウィーンの道路には豆の代わりに例の滑り止めの砂利がまかれていますから、一足先に豆まきはすませているようなものです。

 ウィーンでは豆まきこそしませんが、春を待つ気持ちは同じです。この時期花屋の店先には一足先に春を告げる花々に混ざってネコヤナギの枝が売られています。
 ここでは復活祭前の日曜日に人々がネコヤナギを持って教会に行く習慣があります。エルサレムに入るキリストを棕櫚の葉を敷き、オリーブの枝を振って出迎えたその日は「棕櫚の日曜日(Palmsonntag)」と呼ばれていますが、ウィーンあたりでは棕櫚やオリーブの代わりにネコヤナギの枝が使われているのだそうです。暖かそうな毛に包まれたあの花芽にやはり春の訪れを感じてのことのように思われます。

 この時期、道行く人々はまだ厚い毛皮のコートに身を包んでいますが、ショーウィンドウには明るいパステルカラーの春の衣装が並び始めました。そこで私も春を探しにドナウ川まで行ってみることにしました。

 オペラ座のあるカールスプラッツ Karlsplatz で地下鉄 U1 に乗り換え、ドナウ川を横切って2つ目の駅がアルテドナウ(Alte Donau) です。
 ここはかつてはドナウ川の本流でしたが、今はせき止められて水遊びに絶好の水辺になっています。暖かくなれば人々はボートを浮かべて楽しむのでしょう。ただ、今は人影もまばらです。いかにも別荘という感じのコテージが並んでいますが、戸も窓も閉じられ人の気配はありません。家々の前庭にはひっくり返されたボートだけが並んでいます。

 ドナウ川がせき止められてできた池には薄氷が張っていました。そこにやってきた子供達は氷投げを始めました。誰の氷が一番遠くまで行くか、子供達に投げられた小さな氷の塊は薄氷の上を滑ります。楽しそうに遊ぶ子供達の傍らにそっと立っている木々の大きいこと。何十年この池の畔にたたずみ続けているのでしょう。そんなことを思いながらシャッターを押したのがページトップの写真です。
 ドナウの春の訪れはもう少し待たないといけないようです。
 春を待つこの期間、コンサートは目白押しです。今月のコンサートのメインイベントは Abbado 指揮ベルリンフィルのベートーベンチクルスです。1番から9番までの交響曲にピアノコンチェルトが組みあわされ、Argerich で始まり Pires、Kissin、Cascioli と続き Pollini で終わるという超豪華版の顔ぶれです。さらにウィーンフィルはマーラーの交響曲第3番を演奏しますし、ウィーンのもう一つの重要なオーケストラであるウィーンシンフォニカーはマーラーの9番です。
 またこの時期は舞踏会の季節でもあります。皇帝舞踏会、ウィーンフィルの舞踏会など数々の舞踏会の頂点とも言うべきオペラ座舞踏会は今年は2月22日に開かれます。そして数々のオペラとオペレッタ。寒い冬の長い夜を楽しむにはことかかない、やはりここは音楽の都ウィーンです。

 そして子供達にもわくわくする行事が待っています。オーストリアでは Fasching と呼ばれている謝肉祭です。灰の水曜日から40日間の精進期間にはいるためその前に一騒ぎしようというのがこの謝肉祭ですが、子供も大人も仮装して楽しむとか。
 アルトドナウから地下鉄で一駅、U1 の終点 Kagran にある大型ショッピングセンター Donauzentrum にも仮装衣装のコーナーがありました。魔女や動物の衣装に混じって、ポケモンもあります。ポケモンはウィーンでも大人気です。日本と比べるとファンシーグッズやキャラクター商品は少ない街ですが、何故かポケモンだけはよく見かけます。
 びっしりと並んだカラフルな衣装を眺めていると、バギーを押した若い夫婦がやってきました。そして母親が選んでいる衣装は父親の腕に抱かれているこの小さい子供のための衣装でした。