第9便・・・煌めく街


ライトアップされたウィーンの市庁舎
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 12月に入ると街はクリスマス一色になります。街路灯やアーケードは緑と金のモールで縁取られ、店のショーウィンドウも美しく飾りつけられます。
 ところがウィーンの街のクリスマス飾りは華やかではあっても、決してけばけばしくないのです。ゆっくり街を歩く人々の目を楽しませてはくれるけれど、昼間は遠目ではほとんど目立たない、そんな飾り付けです。
 ところが、夜になると一転して街は星がちりばめられ、ショーウィンドウもキラキラと輝き人を惹きつけます。4時にはもう薄暗く、5時には真っ暗になってしまいますから、きっとそんな長い夜を楽しむための知恵なのでしょう。

 シェーンブルン宮殿前の広場や市庁舎前広場、そして大きな教会の前では、クリスマス市(Weihnachtsmarkt)が開かれています。初めてシェーンブルン宮殿前のクリスマス市を見たときは、突然おとぎの世界に迷い込んだかと思うほど、まばゆく美しい光景でした。
 宵闇迫るシェーンブルン宮殿の前にキラキラと輝く大きな樅(モミ)の木が置かれています。そして広場の周りをぐるりと夜店が取り巻き、クリスマス飾りやプレゼント用の小物、お菓子、飲み物などが売られています。各店が趣向を凝らし、店そのものがそのままクリスマス飾りにでもできそうなくらいに美しく飾り立てられています。
 そして人々は次から次へと店を見て回ったり、買い物をしたり、温かいワイン(Gluehwein)やパンチ(Punsch)を飲みながらおしゃべりを楽しんでいます。ウィーンでは普通の商店は6時には店を閉めてしまうのに、この市はクリスマスまで毎晩開かれています。

 市庁舎前のクリスマス市(Christkindlmarkt と呼ばれています) はさらに大規模です。市庁舎そのものが美しくライトアップされ、ディズニーランドのシンデレラ城を思い出させる光景です。
 広場の中央には大きな樅の木が据えられています。これは毎年オーストリアの各州が持ち回りでウィーン市にプレゼントするもので、今年はシュタイヤマルク州から樹齢130年、高さ28メートルの木が贈られたのだそうです。この木の品定めがウィーンっ子たちの楽しみの一つなのだとか。
 大きな広場にはたくさんの夜店が並んでいます。聞くところによれば140軒とのこと。ここで「軒」と書いたのにはわけがあります。実は夜店と言ってもそれはいわゆる日本の屋台ではありません。ちゃんと屋根も窓もある小屋なのです。昼間、前扉がぴたりと閉じられている時に見るとまるで小人の家が並んでいるようです。そして夜になると各店がまばゆく輝く宝物を並べたてるというわけです。

 宝物を選ぶこの真剣な表情をご覧ください。大人にとっても子供にとっても夢の世界がここにあります。そしてここでも人々の飲んでいるのは Gluehwein と Punsch です。子供用にはちゃんとアルコール抜きの Punsch があります。
 こうしたクリスマス市は本来は Advent(待降節)に入ってから開かれていたのが、最近どんどん早まってきているのだそうです。今年、市庁舎前の市は11月18日から開かれました。

 クリスマスの4週間前の日曜日から始まる期間が Advent(待降節)と呼ばれる期間です。今年は12月3日の日曜日から始まりました。
 教会にも個人の家にもそして商店にも Adventskrantz と呼ばれる樅の小枝で編んだ輪が飾られます。この輪にはろうそくが4本立っていて日曜ごとに1本ずつろうそくを灯していきます。今年は4本目のろうそくが灯されるのは24日ですから、ちょうどクリスマスイブの日です。この間教会ではコンサートや詩の朗読会が開かれます。街ではクリスマス商戦が静かに繰り広げられています。
 そしてクリスマス。オーストリアでクリスマスプレゼントを持ってきてくれるのは、サンタクロースではなく、Christkind(幼な子キリスト・幼児の天使)です。家庭に飾られた樅の木の根本に一人一人へのプレゼントが置かれているのだそうです。

 オーストリアでは、おじいちゃん、おばあちゃんの家でクリスマスを祝うという家庭は今でも多く、子供や孫がにぎやかにクリスマスツリーを囲むという光景も健在のようです。私の友人夫婦からもアルプスの麓のご主人の実家に子ども達を連れて行くのでクリスマスの間はウィーンを留守にするというメールが届きました。そしてその日、おじいちゃん、おばあちゃんの家では「子どもが入ってはいけない部屋」が作られ、子ども達は何とかして中の様子を覗こうとするのだそうです。普段は子や孫と離れて暮らしている老夫婦にとって、待降節はまた家族達の訪問を心待ちにする期間でもあるようです。