第7便  無賃乗車の罰金!?


3本の地下鉄の乗換駅になっているカールスプラッツ駅です。またオペラ座への最寄り駅です。
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 さてウィーンに来てまもなく2ヶ月になろうとしています。住み慣れると、ウィーンに来た当初は物珍しかったことも、すべてごく当たり前になっていってしまいます。
 何が面白く、何に戸惑ったか、忘れてしまわないうちにしっかりお伝えしておかなければと思います。

 今日はウィーンの切符の仕組みについてお話ししましょう。ええ、これは旅行ガイド、例えば『地球の歩き方』などを見ればかなり詳しい情報が出ているのですが、実際に体験してみるといろいろと新しい発見に出会います。
 まずは切符の自動販売機の使い方。これは日本と逆です。あ、でももちろん切符を受け取ってからお金を払うわけではありません。ただ、必要な枚数と券の種類(行き先の区間や切符の種類)の指定が先なのです。必要な券のボタンを押すと金額が表示されるので、それからおもむろにお金を入れるという仕組みです。これは例えば韓国でも同様の方法でした。金額を知らなくても必要な券の種類さえわかっていれば買えるという仕組みです。それぞれ慣れもありますから一概にどちらがいいとは言えないとは思いますが、発想法という点で学ぶべき点があると思います。この国際的分布を調べてみるのも面白いでしょうね。

 そして券の種類は1回券、24時間券、とびとびに使える8日券の他、週、月、年ごとの定期券があります。ところがこれらの切符はともかく安い!のです。例えば1回券でも、たった19シリングでウィーン市内の場合、地下鉄・鉄道・バス・市電をどう乗り継ごうと1方向1時間有効です。ちなみに1ヶ月定期でも560シリングです。今の為替レートなら何と4000円でウィーン市内乗り放題というわけです。

 そして次は改札です。地下鉄や駅には改札口とおぼしき物としては通路の途中にポールが何本か立っていて、そのポールの1つに青い小さな箱が乗っているだけです。鉄道の駅ではこのポールすらないところもあります。でも気をつけてよくさがすとホームの端のどこかに必ず青い箱は置いてあります。
 この青い箱の側面にある黄色い差し込み口に切符を差し込んで改札の日時を自主的に刻印する仕組みです。ただし券売機で買った1回券はすでに刻印されているため刻印の必要はありません。バスや市電では、車内に券売機がありますが、回数券なら、やはり青い箱が置かれていますから自分で刻印します。
 刻印しなかったら? ええ、その場合は例え回数券を持っていたとしても自動的に無賃乗車と判断され罰金の対象となります。と言うわけで8日間券を使っていた時には、毎朝この刻印を忘れないようにしなければとかなり緊張したものでした。

 ところが実際に周りの人を観察していると朝かなり早い時間でも何にもしない人が多いのです。
 いったいどうなっているんだろう、実際に検札には出会ったことはないし、必死で切符を買ったり刻印したりするのは旅行者だけで、これは旅行者税みたいなものではなのではないかしらなどと考えているうちに新しい月になり、10月の始めに定期を買いました。そしてわかりました。このシステムだと定期券は持ってさえいればよく、後は検札が来ない限り見せる必要すらないわけです。だから全く刻印しない人=不正乗車ではないわけです。
 そして買った定期券はバックに入れたまま一度も見せる必要なしに1ヶ月過ぎ、また新しい定期を買いました。市内のどこへ行くのにも、生活の足、行動の自由が完全に保証され、切符を持っているという意識さえほとんど忘れて動けるという快適さ、これはすばらしいものです。

 そんなある日、ロンドンに行き、長ーーい行列を作って切符を手に入れ、改札を入るときと出る度ごとにポケットから切符を取り出して改札機に挿入しなければならないという仕組みであるにもかかわらず、車内での検札時に切符の提示ができない場合には理由のいかんを問わず罰金を課すという掲示が出ているのを見て、たまらなくウィーンに戻りたくなりました。

 ところが面白いことにロンドン在住の友人は、ウィーンの仕組みは非常にわかりにくくて困ったと言います。
 確かにいつのまにやらホームだしバスにも電車にも切符を持たずに乗れてしまうのにもかかわらず、知らずにそのまま乗っていたら突然情け容赦なく無賃乗車と見なされて即罰金という仕組みは、外の人間には怖い仕組みだと思います。しかも地下鉄の駅には券売機が置かれているだけで駅員の姿はありません。小銭か100シリング札かを持たなければ券売機で切符は買えません。駅以外で切符が買えるのは煙草屋さんですが、夜6時には店を閉めますし、日曜は休業日です。こうした状況も確かに不便です。
 その意味ではウィーンの街は自分たちの仕組みを自分たちだけで納得して利用しているという閉鎖的な仕組みです。とは言え生活者として見た場合には、これほど楽な仕組みはないということになります。数日後ウィーンに戻り、住む人が互いに承知しあってルールを作っている街の快適さを再確認した次第です。

 検札?ええ、新しい定期を買って数日後に一度、首から身分証をぶら下げた係員がちゃんと廻ってきました。ですから日本からウィーンにおいでの皆様は、どうぞくれぐれもきちんと刻印した切符を持ってウィーン観光を楽しんでください。
 ウィーン大学の学生が書いた自己紹介の中にこんな一文がありました。「私はノリはいいほうです。でもタダノリだけはしません。560シリング払いたくないから。」
 ちなみにウィーン市内の無賃乗車の罰金はちょうど1ヶ月の定期代です。