第6便・・・謎?=信じられないこと


ウィーンの街の中心にあるシュテファン寺院の343段の階段を上り、塔の上から見た景色です
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 今回のお便りは、交換留学生として現在ウィーン大学に在籍している日本人学生の書いた文の引用からはじめます。どうぞ読みながら答えを考えてみてください。 

「日本では考えられない事ですが、海外ではごく当たり前のようにされている事が、沢山あります。その中で22年間日本で生活してきた僕にとっては信じられない事が一つありました。さてそれはなんでしょう?答えを聞けば『なんだよ。そんな事知っていたよ』って思うかもしれません。ただ、『百聞は一見にしかず』という通り、見て実感してみないと分からないという事がありました。このおかげで僕はウィーンに来て最初の頃は良く困ったものでした。」

 さて、それはなんでしょう。

 彼から「先生はなんだと思います?」と聞かれて、あれこれ考えながら家路につきました。「海外ではごく当たり前のようにされている」というので、街角のキスかなと思いました。もちろん日本でも最近はよく見かける光景になってきました。でも人前のキスは若者に限られます。ところが、ウィーンではどうみても50代にみえる中年の男女が昼間街角でしっかりと抱き合いキスしつづけている光景に出会うことがあります。子供連れの若夫婦がベンチでキスしている傍らで、子供が一人で隣のベンチを上ったり降りたりしながら遊んでいることもあります。
 こうした光景を「信じられない」と見たのかしら。でもそれならそんなに困る必要ないのにと改めて文を読み直してみると、「実感してみないと分からない」とあるので、「ああー」と吹き出してしまいました。親しくなったクラスメートに友情のキス(つまり「頬ずり」)をされたのか! でも今はもう困らなくなったのかしら、まあそのくらい親しい友達ができたならよかったなと思いつつ、彼の戸惑った顔を想像して吹き出してしまったわけです。

 ところが、実際の彼の答えは違いました。「ちがいますよ。いい友達は何人かできたけど、キスしてもらったことなんてまだありませんよ!」そして、答えは「店が日曜日に開いていないこと」でした。なあんだ、そんなことかと思いましたが、改めて考えてみると、彼が「信じられない」と言うのもよくわかります。
 日曜は会社は勿論休みで、商店も店を開けない。これは、ウィーンでは徹底しています。それも服や靴などの装身具の店や家具や雑貨の店だけでなく、煙草屋も肉屋もパン屋も閉まっているのです。そしてデパートやスーパーも。近くに何軒かスーパーがあったとしてもそのすべてが日曜日は閉店です。

 ウィーンに来て2週間目、旅行先のポーランドからウィーンに戻ってきた日のことです。冷蔵庫はからっぽだし、買い物しなくちゃと荷物を置いてすぐに買い物に出かけたところ、まだ4時だというのに近所のスーパーは閉まっています。そこで何ブロックか先のスーパーに向かいました。ところがその周りにも人影がない。何か悪い予感。やっぱり閉まっていました。あ、いけない、今日は日曜だ。そしてもう20年以上も前のパリでの生活をようやく思い出したという次第です。
 でもあの頃でさえ、パリでは日曜日に開いているスーパーは地区に一つや二つはあったように記憶しています。ところがここでは西暦2000年の今も見事に徹底して「日曜に店は開けてはならない」という規則を守っています。さすがに教会の力がまだまだ強いカトリックの国オーストリアです。開いているのはレストラン、カフェのような飲食店、美術館、博物館、コンサートホール、動物園、そして娯楽施設とホテルだけです。

 一方普段の日もたいていの店は6時で閉まります。そして、土曜はさらに早じまいという店がほとんどという状況ですから、仕事を持っている人にとって買い物は一苦労です。ウィーン大学に勤めている友人の中には「家に戻ると近所のスーパーは閉まっちゃっているから」と大学構内のスーパーで買い物して帰る人もいます。というわけで、平日仕事を持っている人は土曜の昼間を買い物にあてるという人も多いようです。
 朝の7時から夜の11時まで開いている、あるいは年中無休でしかも24時間営業などというコンビニがそこここにあるという日本の現状から考えると、オーストリアは「信じられない」位不便な国です。ただ、彼も言うように「はじめの頃は困る」のですが、慣れてしまえばいつのまにか当然のことと思えてくるから不思議です。

 我が家の近くのパン屋さんは、毎日その前を通りながら何週間もそこがパン屋であることさえ気づかなかったくらいに「いつ通っても閉まっているパン屋さん」です。これでよく商売がなりたつなと心配になるくらいです。閉まっているドアにぶら下げられた営業時間の案内にはこう書かれています。
  営業時間
  月曜−金曜 6時15分〜12時30分 16時〜18時
  土曜    6時15分〜12時
  (火曜の午後は休業)
 この時間帯に来ることのできるお客さんだけを対象にしていても商売が成り立つ国、それがオーストリアのようです。

追伸
 聞けば鉄道のターミナル駅にある店だけは日曜でも開いているし、食料品も日用雑貨もひととおりそろっているとのことです。緊急の場合はどうぞターミナル駅へおいでください。