第3便・・・2ヶ月早いクリスマス


 その後いかがお過ごしですか。昨日はちょっとしたハプニングがありましたので、その最新ニュースのご報告です。どうぞお暇な折りにお読みください。

 昨日の夜は大学の教師仲間とホイリゲ(えーと、オーストリアの葡萄酒づくりをしている農家が一般の人に葡萄酒を売り、それと一緒に夜だけ食事もできるレストランを開きます。それをホイリゲと呼びます。)そのホイリゲに行く予定でした。ところが一人の先生の都合が悪く、ホイリゲは明日にしようと言うことになりました。そこで授業終了後、ホイリゲが延期になってしまったので、夕食のための買い物をしなくちゃとスーパーに立ち寄りました。このところ忙しくて手抜きをしていましたから、今日はちゃんと美味しい物を作って食べよう、チキンを焼いてそれからスープとサラダと、そうだ、買ったばかりの中華鍋を使ってジャガイモのフリッターでもしようかななどと考えつつ家に戻って参りました。

 階段でお隣のご主人に会い、彼は英語が通じるかどうかわからないので、ともかくドイツ語で今晩はとさようならだけを言って、玄関の扉の前に立つと、玄関に白い紙が挟まっています。何だろうと思いつつ、紙を手にして、扉を開け、電気をつけようとすると、つきません。あ、これはひょっとしてと悪い予感。白い紙を眺める(読むのではありません。ともかく紙の裏まで見えるような眼力でじっと見るのです。)と、どうも保証金(電気の契約の際に外国人はあらかじめ払うことになっているのです)がまだ支払われていないから、その金額にペナルティーを添えて、即刻支払えと書いてあるようです。

 いそいでお隣の家のドアをノックしました。するとしばらくして奥さんが出てきてくれました。(彼女は英語がまあまあ通じます。)で、彼女にその紙を読んでもらうとまさに思った通りのようです。実際にはその保証金の支払いはすでに2週間も前に銀行経由で済ませてあります。でもそんなことを彼女に言ってもしかたないですよね。「じゃ、今夜は電気なしであした電気会社にちゃんと連絡をとることにします。」と言って帰りかけると、「ちょっと待って、ろうそくはある?」との問い。「懐中電灯はあるけど」「待ってててね。ろうそく持ってくるから」というわけで、ろうそくを3本持ってきてくれました。「一本で大丈夫。」「いえ、3本持っていった方がいいわよ。でもライターもマッチも見つからないんけど、いいかしら」「ええ、マッチはどこかにあったと思うから大丈夫(陰の声:えーと、どこだったっけなあ、うーん。)」「じゃ、何か困ったことがあったら、いつでも声かけてくださいね。」「ありがとう。(陰の声:さて、夕ご飯はどうしよう。ま、なんとかなるかなあ。)」(さらに陰の声:日本人だったら、こんなときにどんな対応をするだろう。これは異文化理解の重要なテーマにもできそうな話題ですね。)

 というわけで、真っ暗な部屋に戻りました。手探りで懐中電灯を探り当て、荷物を置き、部屋の探検が始まりました。(お話しし損ねていましたが、ウィーンでは友人の紹介で4部屋もある広い家を借りています。そこには家具ばかりでなく生活用品を私のためにいろいろと残してくれています。)あちこちの引き出しを、泥棒みたいに懐中電灯で照らしながら、マッチ探しです。どの引き出しにもなく、あきらめかけていたときに、あ、そうだ、もしかしたらと開けると、飾り棚の中に大きなサンタクロースのろうそくが置いてあって、そこにちゃんとマッチもありました。キャンドルを3本立てて、2ヶ月早いクリスマスの夜となりました。
 でも残念なことに台所はすべて電気式なので、ごちそうは作れません。そうちゃんと鶏肉も買ってあったのに。そこでやむなくスープの代わりに牛乳、パンの代わりに非常用黒パン、鶏の代わりにチーズ、サラダはちゃんとトマトとレタスで作って、ディナーとなりました。そして、そうだ、この記念すべきパーティーを写真に撮っておこうとデジカメで写したのですが、何とフラッシュで明るく照らされた室内はクリスマスの雰囲気もなければ、電気差し止めの悲哀もなく、そうか文明開化ってこうなっちゃうんだと変に感心しました。

 こうして食事は無事に終わりましたが、あとは電気がなければパソコンもいじれないし、キャンドルの光で本を読むほど勉強熱心ではないし、というわけで日頃の睡眠不足を解消するいい機会だと、まだ8時前でしたが、寝ることにしました。そのとき、あ、我が家は夜間電力で温水はためてあるからお風呂には入れるんだ!と気づいたときの嬉しかったこと。アツーーイといってもやけどするほどではないお湯をたっぷり入れて、久しぶりにゆっくりとお風呂に入りました。「電気が切れて何日くらいこのお湯が出るんだろう、明日はだめかな」と心密かに思いつつ。
 翌朝は8時に大学に行き、秘書さんに電気会社に電話をかけてもらうと、支払いの証明をもってきてくれとのこと。幸い大学のすぐそばでしたので秘書さんに一緒に行ってもらいました。

 最初は電気会社の口座にはともかく入金されていないと言い張っていましたが、あちこちに電話をかけた結果、振り込みがあったことがあきらかになりました。すると、今度は、銀行から電気会社の口座に振り込まれたのが月曜日だったから、もう工事の人をとめることができなかった、とのこと。それにしてはあちらのミスであることがわかってからは、2時間でちゃんと電気がつけられるのが不思議ですね。それなら振り込みがわかった時点ですぐに今度は電気をつける係りの人を派遣することだってできたでしょうに。まあ、これがウィーンなんでしょう。
 それでも電気会社の担当者がちゃんと英語であやまったうえに、"I hope you will have a nice stay in Vienna." と言ってくれたので、"Thanks a lot.With three candles." と言ってにこにこしておきました。 というわけで、日本という便利なところに住んでいたとはいえ、日頃キャンプ生活で鍛えていただけあって??電気がなくても生き延びています。その時はどうしよう、とさすがにあわてたけれど、今から思えばちょっとしたハプニングのご報告まで。